母親

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母親(ははおや)とは、のことである[1]

お母さんと一般には言い、親しみをこめて「かあさん」「かあちゃん」「お袋」(おふくろ)などと呼ばれる場合もある。「母」という漢字の成り立ちは「」に2つの乳房を加えた象形文字であり、子への哺乳者、授乳者であることを意味する。 お母さんという呼称は、

  1. 子が母親に呼びかけるとき
  2. 母親が子に対して自分のことを指して言うとき
  3. を言うときに子の母親として言うとき
  4. 会話で他人の母親に言及する場合。「~のお母さん」

にも用いられる。2, 3の場合は、話者が子の立場に自らを擬して言うという特徴がある。4の場合はおば(いとこのお母さん)やいとこおば(はとこのお母さん)など傍系尊属にあたる女性を指す場合もある。

幼児語で母親のことを「ママ」ということがあり、「ママ」の語は別項目で述べるように母親のイメージから発展して意味が多様化していくことになる。

血縁関係上の母親は「実母」・「生母」、養子縁組による母親は「養母」、母親が死別または離婚し父親が再婚したが、母親と養子縁組をしていない場合は「継母」(ままはは)と称される。

比喩としての「母」

何らかの事業(他国からの独立、宗教活動、重要な発明など)の創始や発展に重要な役割を果たした女性もしくは無生物を母になぞらえ「~の母」と呼ぶことがある。

また、その地域においてなやみごとの相談相手になって一種のカリスマ的存在になった占い師などを「~の母」と呼ぶことがある。寮などで寮生の食事や生活全般の世話を任された女性を「寮母」と呼ぶ。

王妃皇后のことを「国母」と呼ぶことがある。

母性行動に関連するホルモン

プロラクチン
プロラクチンは主に脳下垂体で産生、分泌されるペプチドホルモンであり、乳腺発育の促進、母性行動誘導がさまざまな動物種で確認されている。哺乳類にはプロラクチン受容体が存在し、乳腺等におけるプロラクチンの情報伝達を介している。ラット脳においては妊娠後期からプロラクチン受容体の発現量が増加し、以後、授乳期間中は高レベルに維持される。授乳中に乳仔を離してしまうと発現レベルは速やかに低下し、乳仔を戻すと再び発現量が増加する。このように脳におけるプロラクチン受容体の発現は母性行動と密接に関連している(日本生理学会)。
プロラクチンは女性特有のホルモンではなく男性にも分泌され、作用には男女差がある。成人男性の基準値は3.6~16.3ng/ml・成人女性の基準値は4.1~28.9ng/mlである。男性で基準値を超えると性欲の減退、インポテンスなどの性機能障害、無または乏精子症等が検査対象となる。一方、女性は、妊娠・産褥期以外の時期に何らかの原因により高プロラクチン血症が発生すると、乳汁漏出とともに排卵が障害され、無月経や不妊が招来される(岡山大学医学部)。
オキシトシン
乳児が乳首を吸う刺激によって母親から分泌されるオキシトシンというホルモンは、母親自身に幸福感や恍惚感を与えるため、愛情ホルモンとも呼ばれている。(妊娠・育児大百科)

母性看護学上の母親

看護学には「母性看護学」という分野がある。母性看護学上の母性とは、「次世代を産み育てる」という女性に備わった生理的・身体的機能の特徴のことを指し、生物学的特性だけでなく、女性が成長していく過程で形成されていく精神的、あるいは社会的特性もその概念に含んでいる[1]。こうした母性に係る女性の健康事象の全体を対象とするのが母性看護学で、女性の各年代における母性の特性をとらえ、母性としての機能が健全に発揮できるよう、女性の一生を通じてはたらきかける看護を、実践し、研究している。

心理学上の母親

心理学者の河合隼雄は子育てにおける伝統的な父母の役割の違いを、それぞれを父性的、母性的と呼び、父性は善と悪を区別して指導する傾向、母性は善悪の分け隔てなくすべてを包み込む傾向のことと説明している。なお、これは、父親が父性のみを、母親が母性のみを有しているというものではなく、たとえば母親が激しく子を叱るときに父親が子を擁護する側に回るというような場合がよくあるが、この時、一時的に父親が母性的な役割を果たしているとみなすことができるとしている。

「働く女性」にとっての母親

「女性=母性」ととらえ、経営者としての女性から「母性」を「万人に降り注ぐの力」だと積極的に認識することで仕事に活かそうという経営思想がある。男女の性差を、むしろ自然から与えられた素晴らしいものと考えることで、かえって社会で女性(=母性)の力を発揮できる、ということである。また家庭においては女性が自ら「子育ては100パーセント母親の責任」と考えることで、かえって父親のサポートの一つ一つを心から感謝することが出来、その結果として、結局「半分・半分の育児」を口で主張するよりも多くの父親のサポートを得られ、子供からの尊敬も受けられる、ということである。母性の重視は「働く女性」を否定するものでないのと同時に、また「働く女性」を家庭の家事や育児に専念する専業主婦よりも価値を高いと考えるものでもないのである[2]

母性の個人差

近年、少子化の影響もあり「女性は自らの生物学的『性』をもっと大切にせよ」というメッセージを積極的に発する著作も見られる[3]。一方、医学・動物学の観点からも、母性には他の本能と同様に個人差があり[4]、普遍的な母性の強調は、「『身体が発する声』に耳を傾けようと試みても、そんな声などいっこうに聞こえてこないという授乳経験の無いタイプの女性」や「妊娠・出産がさまざまな要因でかなわない女性」たちへの配慮に欠けるとする意見もある[5]

社会学上の議論

フェミニストの中には、母性は女性固有の能力であるため、これを基準に女性を評価する事が性差別ジェンダー・ハラスメントに相当すると主張する者がいる。例えば、子供を産めない女性を「身体的母性の劣る女性」、子供を産まない女性を「精神的母性に劣る女性」として評価する場合などである。さらに、母性そのものを考えること自体が、性差別の根本的な原因であると主張するフェミニストもいる。

戦前世代のフェミニストの代表格である平塚らいてうらは母性を重視し、国家による保護を主張。これに対し与謝野晶子は反発、母性保護論争が起こる。

戦後フェミニストらは一般に母性の偏重、押し付けには異議を唱える傾向が見られる。

なお1979年に採択され日本も1985年に批准した女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約は「母性の保護」は差別とみなされず、[6]かつ妊娠又は母性休暇を理由とする解雇を制裁を科して禁止することを明記している。[7]

母性には、字義どおりの意味のほかに、社会の中での女性の位置づけ(ジェンダー)や役割(ジェンダーロール)と密接に関連して、多岐にわたる文化的側面が付随する。この意味では、フェミニズムや女性学にとって受け容れがたいものとなっており、さまざまな論点を用いて論争の的となった(アグネス論争を参照)。1990年代に入ってからは、母性をフェミニズムの立場から再定義し、積極的にフェミニズムの中に位置づけようという動きが、フランスのフェミニズムを中心に盛り上がりつつある。

女性に対する母性の押しつけが児童虐待につながることもあるのではないかというフェミニストの主張に対し、保守派の一部は、母性を否定する結果、出産や育児に対してネガティヴな印象を女性に与え、少子化や児童虐待の遠因となっていると主張している。 反フェミニズムの立場をとる神名龍子は自身のHPにおいて「人間の行動(「母性」も含めて)の基本となるのは、単純素朴な生理的欲求と、様々な価値観である。この価値観は、突き詰めていえば各人の経験によって構成されると考えられる。だから、その意味では「母性」が社会的・文化的に作られたというのは、間違いではない。ただし、「社会的・文化的な要因によってのみ」作られたというなら間違いである。人間の経験は、その身体を無視しては成立しないからだ。」として、「母性は文化的・社会的に作られたもの」とするフェミニストらに反論した。

なお、アメリカやヨーロッパにおける母性観と、日本その他の国における母性観の文化的・歴史的な差異もあるので、一概に「母性」をひとくくりにして議論するのは極端な結果を招く恐れがあり、医学的・客観的な事実に基づいた議論を進めるために、医学と連携した研究の必要性が高まっているとしている[8]

出典

  1. デジタル大辞泉
  2. 欠野アズ紗著『21世紀は母性の時代』(学習研究社
  3. 例えば、三砂ちづるは『オニババ化する女たち』で「女性が仕事だなんだと独身のまま、出産もせずに子宮を"空き家"にしたままでいると、将来はホルモンのバランスが崩れてオニババになりますよ」と記述している。
  4. 私たちの行動を決めるもの』第11章 学会出版センター
  5. 香山リカ「いまどきの『常識』」
  6. 女子差別撤廃条約、第4条第2項
  7. 女子差別撤廃条約、第11条第2項(a)
  8. 『ジェンダーを科学する』松本伊瑳子・金井篤子編)

参考文献

【医科学】

  • 前原澄子著『母性〈1〉妊婦・産婦』中央法規出版、2000年9月 ISBN 4805819677
  • 前原澄子著『母性〈2〉褥婦・新生児・婦人科疾患』中央法規出版、2000年9月 ISBN 4805819685
  • 看護国試編集委員会『母性看護』TECOM、2004年11月 ISBN 4872116534
  • キャサリン・エリソン著『なぜ女は出産すると賢くなるのか 女脳と母性の科学』ソフトバンククリエイティブ、2005年7月 ISBN 4797331240

【社会学】

  • 林道義著『母性崩壊』PHP研究所、1999年12月 ISBN 4569608817
  • 林道義著『母性の復権』(『中公新書』)中央公論新社、1999年10月 ISBN 4121014979
    • 文献あり
  • 青木やよひ編『母性とは何か:新しい知と科学の視点から』金子書房、1986年10月 ISBN 4760832076
  • 井上輝子ほか編『母性』(『日本のフェミニズム』5)岩波書店、1995年3月 ISBN 4000039059
  • ヴィレーヌ,A・M・ド(Anne Marie de Vilaine)ほか編、中嶋公子ほか訳『フェミニズムから見た母性』勁草書房、1995年10月 ISBN 4326601035
    • 原タイトル: Maternite en mouvement、巻末に参考文献
  • 大日向雅美著『母性愛神話とのたたかい』草土文化、2002年7月 ISBN 4794508492
  • 大日向雅美著『母性愛神話の罠』日本評論社、2000年4月 ISBN 4535561567
  • 大日向雅美著『メディアにひそむ母性愛神話』草土文化、2003年5月 ISBN 4794508700
  • 加藤秀一〔ほか〕編『フェミニズム・コレクション. 2』勁草書房、1993年11月
    • 各巻タイトル: 性・身体・母性 ISBN 4326698179
  • 加納実紀代(編)『ニュー・フェミニズム・レビュー vol.6』学陽書房、1995年4月、ISBN 431384046X
    • 各巻タイトル: 母性ファシズム 母なる自然の誘惑
  • 河合隼雄著『母性社会日本の病理』(『講談社+α文庫』)、講談社、1997年9月 ISBN 4062562197
  • 河合隼雄著『母性社会日本の病理』(『中公叢書』)、中央公論社、1976年 ISBN 4120006603
  • グループ・母性解読講座編『母性を解読する:つくられた神話を超えて』(『有斐閣選書』)、有斐閣 ISBN 4641181667
    • 参考文献:p263~264
  • 高良留美子著『家族・3人著作集. 3』亜紀書房、1985年11月
    • 母性の解放 / 高良留美子著
  • 田間泰子著『母性愛という制度:子殺しと中絶のポリティクス』勁草書房、2001年8月 ISBN 4326652578
    • 文献あり
  • バダンテール,エリザベート(Elisabeth Badinter)著、鈴木晶訳『プラス・ラブ:母性本能という神話の終焉』サンリオ、1981年12月
    • 原タイトル: L'amour en plus
  • バダンテール,E(Elisabeth Badinter)著、鈴木晶訳『母性という神話』(『筑摩叢書』351)、筑摩書房、1991年5月 ISBN 4480013512
    • 『プラス・ラブ』(サンリオ1981年刊)の改題、原タイトル: L'amour en plus
  • バダンテール,エリザベート(Elisabeth Badinter)著『母性という神話』(『ちくま学芸文庫』)、筑摩書房 ISBN 448008410X
    • 原タイトル: L'amour en plus
  • 繁多進、大日向雅美編『母性:こころ・からだ・社会』新曜社、1988年12月 ISBN 4788503204
  • 姫岡とし子著『近代ドイツの母性主義フェミニズム』勁草書房、1993年1月、ISBN 4326600845
  • 舩橋恵子、堤マサエ著『母性の社会学』(『女性社会学者による新社会学叢書』2)、サイエンス社、1992年3月 ISBN 4781906486
  • ロスマン,バーバラ・K(Barbara Katz Rothman)著、広瀬洋子訳『母性をつくりなおす』勁草書房、1991年1月 ISBN 4326601043
    • 原タイトル: Recreating motherhood、巻末に文献
  • 矢木公子著『イデオロギーとしての母性』(『城西大学学術研究叢書』9)、城西大学女子短期大学部、1991年6月

関連項目


外部リンク

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