燃料電池自動車

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燃料電池自動車(ねんりょうでんちじどうしゃ、: Fuel Cell Vehicle, FCV)とは、搭載した燃料電池発電電動機動力で走るを指す。本稿では水素燃料とする燃料電池自動車を説明する。


概説

燃料電池で、充填した水素と酸素を化学反応させて発電し、電動機を動かして走る。

メリットとしては走行時にCO2、またCO,NOx,SOxなどの大気汚染の原因となる有害物質を排出しない点と、エネルギー補給が純粋な電気自動車に比べて非常に短時間で済む点が挙げられる。

デメリットとしては、現時点の技術ではWell to Wheel(燃料製造から走行までに必要なエネルギー総量)の観点からは電気自動車に劣る点、インフラ整備が進んでいない点、価格が高く重量も重い点などがある。

2000年代からリースによる公道での使用が始まったが、市販車として売られている車種は2018年現在、トヨタ・MIRAIホンダ・クラリティ フューエル セルのみである。

歴史

最初の水素ガスを燃料とする内燃機関による水素自動車1807年François Isaac de Rivazによって製造された。(1959年にHarry Ihrigによって製造された出力15kWの燃料電池を備えるAllis-Chalmers製燃料電池トラクターを除く)[1]道路を走ることの出来る最初の燃料電池自動車は1966年昭和41年)にゼネラルモーターズによって製造されたElectrovanだった[2][3]。Electrovanは極低温のタンクに充填された液体水素液体酸素を使用して一充填での走行距離が240kmで最高速度は110kmだった。固体高分子形燃料電池ユニオンカーバイト製で定格出力は32kWで短時間では160kWの出力で90kWの三相交流電動機を駆動した。しかし、当時は時期尚早で普及にはいたらず、開発は中断した。日本においては1969年昭和44年)、工業技術院大阪工業試験所において燃料電池自動車の試験が行われた。[4]これは電気自動車(軽トラック)の荷台に燃料電池を載せたものだった。

自動車メーカー各社の取り組みとその動向

2002年12月にトヨタ自動車トヨタ・FCHVを、本田技研工業(ホンダ)ホンダ・FCXリース販売した。2013年2月に現代自動車ヒュンダイ・ツーソンでライン生産を開始し、年間1000台の生産を目指すと宣言したが、2015年5月までに生産されたのは韓国国内向けや米国向けなどすべてを含めてもわずか273台、10分の1にも達しなかった[5]。1回の充填での航続距離は約415キロメートルとされている[6]。(なお、2014年6月に航続距離を約426キロメートル(約265マイル)に伸ばすことを発表した[7][8]。)トヨタは2014年12月15日に日本国内でセダンタイプのトヨタ・MIRAIを発売することを発表した[9]。1回約3分の充填での航続距離は約650キロメートル走行するという。事前受注は日本だけで400台を超えた。2016年3月10日、ホンダが量産型セダン「ホンダ・クラリティ フューエル セル」を発売[10]、1充填(3分)あたり航続距離750kmを実現している[11]。ホンダがリースをしてきたFCXクラリティより高圧の70MPaの圧縮水素タンクを採用し、トヨタ・MIRAIと共通化を果しており、水素ステーションの設備の共通化の貢献する取り組みとなっている[12]

自動車メーカー各社の間で燃料電池自動車に対する開発の技術提携の動きも盛んである。2011年9月にルノー日産自動車アライアンスダイムラーが燃料電池自動車開発分野での共同開発に合意[13]、2013年1月にトヨタとBMWが提携[14]、同月にルノー・日産アライアンスとダイムラーの提携にフォードが加入して拡大し[15]、7月にホンダとゼネラルモーターズ(GM)が提携[16]している。

モータースポーツでは、WEC(世界耐久選手権ル・マン24時間を含む)の最高クラスであるLMP1でアウディが燃料電池車を導入する計画があったが[17]、2016年に撤退したことで立ち消えとなっている。2018年現在まで規模の大小問わず燃料電池車だけのためのレースは存在せず、エコカーレースやラリーヒルクライムなどのタイムアタック系競技のフリークラスにトヨタ・MIRAIでのプライベーターの参戦が数例ある程度に留まっている[18][19]

補助金と水素ステーションの整備計画

燃料電池自動車の普及促進の為に、購入の際の補助金や水素ステーションなどのインフラ整備などの普及促進策が採られている。2012年には、トヨタダイムラーGMなど世界の大手自動車企業11社が水素供給システムの規格を統一することで合意した[20]

日本では、購入者に対して1台あたり200〜300万円の補助金が支給される見通しである[21]。自治体では愛知県が補助金を支給することを発表している[22]

水素ステーションに対しても、2013年度より水素供給設備整備事業費補助金を経済産業省から事業者に支給することにより設置数の増加を図っている[23]。ちなみに2013年夏時点での日本国内における水素ステーションの数は17ヶ所であった。2015年までに商用の水素ステーションを100ヶ所設置することが目標となっている[24]

2015年2月、トヨタ、ホンダ、日産自動車の3社が水素ステーションの整備促進に向け、共同支援に乗り出すことで合意したと発表している[25]。また同月、トヨタは水素社会の実現に向けて約5700件の燃料電池車に関する特許を無料で公開した[26]

分類と規格

燃料電池自動車は燃料電池と規格とにより分類され[27] 、 他には定置型燃料電池の用途や可搬型燃料電池の用途の規格がある。

車載用燃料電池の詳細

全ての燃料電池は一般的な電池と同様に電解質正極陰極の3つの部品で作られている。[28]燃料電池の機能は既存の蓄電池と似ているが充電の代わりに燃料を補給し、酸素は大気中から調達される。[29]水素を燃料とするものとして、固体高分子形(PEFC)ダイレクトメタノール形、リン酸形、炭酸溶融塩形、>固体酸化物形(SOFC)、再生型等、異なる種類の燃料電池がある。[30]車載用燃料電池には一般的に水素を80~90℃で反応させるPEFCが用いられるが、低温でも高い活性を持つ触媒の利用が求められることから白金等の希少触媒を使用する必要があり車載用燃料電池が高価なものとなってしまっている。白金の代わりにカーボンアロイを用いる技術や、白金そのものの凝集を抑えて使用量を減らす技術、トラックやバスでの利用を想定して700~800℃で反応させるSOFCの車載化などが現在検討されている。

2009年時点においてアメリカ合衆国で使用される大半の自動車はガソリンを使用しておりアメリカ国内で排出される一酸化炭素の60 % 以上と温室効果ガスの約20 % を排出している。[31] 一方、水素自動車は僅かな大気汚染物質しか排出しない。大部分は水とであるが燃料電池で使用される水素が再生可能エネルギーのみによって生産された場合以外は水素の製造工程において汚染物質を発生する。[32]

エネルギー効率

発電

水素燃料電池自動車で一般的に利用が考えられている固体高分子形燃料電池の発電効率は30~40%である。この数字自体はコンバインドサイクルを用いない一般的な火力発電所の効率に迫る。

しかし以下より記述するように、燃料電池自動車をとりまくエコシステム全体としてみれば必ずしもエネルギー効率は高くない。

調達

水素は自然界に採集可能なものは存在せず、副生水素天然ガス改質バイオマス、水の電気分解などによって調達されるが、石炭燃焼の副産物である副生水素を利用するほかはCO2の発生や効率などの課題があり、とくに大きなエネルギーを費やす水の電気分解にはその実現に際し必要な条件が多い。詳しくは「水素」を参照。

格納

水素は体積エネルギー密度が低いため、トヨタホンダの車両では水素を350ないし700気圧という高圧で格納するが、この圧縮には大きなエネルギーが必要となる。水素を標準状態理想気体とみなし、かつ圧縮に伴う熱エネルギーはすべて回収でき温度変化はないものと考えても、1気圧から700気圧への圧縮には1モルあたり約15kJが必要であるから、たとえばトヨタ・MIRAIの燃料タンク122.4リットル(合計容量)分の水素を圧縮するのに要するエネルギーは16kWhにもなる。 常~低圧で液体状となる有機ハイドライドアンモニアを始めとした水素キャリアの利用も検討されているが、精製に必要となるエネルギーや純度、触媒や分離膜の耐久性といった問題もあり実用化には至っていない。

各種効率における他方式自動車との比較

水の電気分解による水素製造へと投入するエネルギーに対する、製造された水素が貯蔵や輸送を経て動力となり最終的に車のタイヤへと伝わる駆動エネルギーの比は、圧縮水素を使用する場合は22%、液体水素の場合は17%にとどまる[33](ただし前述のように電気分解はもっともEPRの低い調達方法であるためこの値は取り得る最悪値であり、また調達方法次第で2~3倍上昇する)。

これに対し、通常のガソリン車の効率は13%、ガソリンハイブリッド車の効率は22%程度[34]だが、現代のガソリンのEPRは平均して300%程度であるから、ガソリン製造に投入するエネルギーに対する駆動エネルギーのおおよその比はガソリン車で40%、ガソリンハイブリッド車で66%となる。

また「Well-to-Wheel(油田から車輪)」効率(一次エネルギーの採掘から車両走行までの効率)では、一般に燃料電池自動車は電気自動車に比べて劣る。 たとえば風力発電太陽光発電といった再生可能エネルギーによる電力であれば、これを用いた電気分解により水素を生成し圧縮して燃料電池自動車に充填するよりも、そのまま電気自動車へと充電するほうがWell-to-Wheell効率において3倍ほど勝る[35]

水素は元々供給の不安定な再生可能エネルギーをリチウムイオンよりも軽い物質で貯蔵するために注目された物質であり[36]、水素による走行特性のメリットがあるわけではない。むしろ、逐一発電を行う水素燃料電池は出力要求に対する反応性が一般的なリチウムイオンバッテリーと比べて劣るため走行特性でも優位とは言えず、定置型と比べて発熱の再利用が限定的であることから、再生可能エネルギーによる発電を効率良く分散させるスマートグリッドの整備とバッテリーの性能(エネルギー密度、出力密度、サイクル寿命、安全性、充電時間、価格など)が実用に耐えうるほどに向上した際には水素による燃料電池の存在価値はなくなる。

関連項目

脚注

  1. HistoryWired: A few of our favourite things”. . October 23, 2009閲覧.
  2. The First Fuel Cell on Wheels” (2008年10月21日). . October 23, 2009閲覧.
  3. GMの燃料電池自動車について, https://www.gmjapan.co.jp/info/fuelcell/03.html 
  4. [1]
  5. ヒュンダイ、“究極のエコカー”で先手」。2013年2月28日、東洋経済新報社。2014年8月10日閲覧。
  6. Tucson FCEV ready for launch 現代自動車。2014年8月22日閲覧。
  7. "WE’VE REIMAGINED THE IDEA OF AN ELECTRIC VEHICLE." 現代自動車。2014年8月10日閲覧。
  8. Hyundai Tuscon Fuel Cell hits Californian roads with free hydrogen gizmag。2014年8月22日閲覧。
  9. トヨタ、新型燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を12月15日に正式発売、723万6000円。2014年11月18日 インプレス。2014年11月20日閲覧。
  10. ホンダ公式サイト - ニュースリリース - 「新型燃料電池自動車「CLARITY FUEL CELL」を発売 〜ゼロエミッションビークルで世界トップクラスの一充填走行距離約750kmを実現〜」
  11. “【ホンダ クラリティ フューエル セル】航続距離750km、当初目標から50kmも伸長”. Response.. (2016年3月11日). http://response.jp/article/2016/03/11/271391.html . 2016年4月10日閲覧. 
  12. “ホンダのスマート水素ステーションは燃料電池車の普及を後押しする”. SankeiBiz. (2016年3月27日). http://www.sankeibiz.jp/business/news/160327/bsa1603271702004-n1.htm . 2016年4月10日閲覧. 
  13. 次世代自動車とスマートモビリティが拓く低炭素社会」。2012年2月10日、早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 大聖泰弘氏 。2014年8月10日閲覧。※なお、ルノー日産自動車アライアンスダイムラーとの提携自体は2010年4月に開始されており、提携する技術分野として2011年に燃料電池自動車分野が付け加えられたものである。
  14. トヨタ、BMWと燃料電池車を共同開発 次世代電池も」。2013年1月25日、日本経済新聞社。2014年8月10日閲覧。
  15. 日産自動車、ドイツダイムラー、米フォードと燃料電池システムの共同開発で合意」。2013年1月30日、日経BP。2014年8月10日閲覧。
  16. ホンダ・米GM、燃料電池車を2020年めどに共同開発へ」。2013年7月3日、ロイター。2014年8月10日閲覧。
  17. [2]
  18. 燃料電池車『MIRAI』がヒルクライムに初参戦。平均時速約100kmを記録、車体表面は鏡面仕上げ
  19. 水素自動車でラリー! 全日本ラリーに参戦したトヨタ・MIRAIに乗った!
  20. 日本経済新聞 燃料電池車、水素供給システムの規格統一 世界大手11社、普及へ初期段階から協力
  21. 燃料電池車、1台あたり300万円の補助金」。2014年8月7日、ハフィントン・ポスト。2014年8月10日閲覧。
  22. 日本は燃料電池車に手厚い補助金-米中の支援を大きく上回る」。2014年7月25日、ブルームバーグ。2014年8月10日閲覧。
  23. 水素供給の形が見えてきた、3社の設備の違いとは」。2014年4月9日、ITmedia。2014年8月10日閲覧。
  24. 「2015年に100カ所」、商用水素ステーションの建設は間に合うのか」。2014年8月5日、日経BP。2014年8月10日閲覧。
  25. “自動車3社が水素に支援、ステーション普及を助ける”. ITmedia. (2015年2月3日). http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1502/13/news048.html . 2016年4月10日閲覧. 
  26. トヨタが燃料電池車の特許を無償開放した本当の理由
  27. FC Vehicle standards
  28. "Basics", U.S. Department of Energy, Retrieved on: 2008-11-03.
  29. "What Is a Fuel Cell?", オンライン燃料電池情報, Retrieved on: 2008-11-03.
  30. "Types of Fuel Cells", U.S. Department of Energy, Retrieved on: 2008-11-03.
  31. "Fuel Cells for Transportation", U.S. Department of Energy, updated September 18, 2009. Retrieved June 7, 2010
  32. "Fuel Cell Vehicles", Fuel Economy, Retrieved on: 2008-11-03.
  33. Efficiency of Hydrogen PEFC, Diesel-SOFC-Hybrid and Battery Electric Vehicles (PDF)” (2003年7月15日). . January 7, 2009閲覧.
  34. 電気自動車の開発と自動車の環境効率評価”. 国立環境研究所. . 2013閲覧.
  35. Ulf Bossel On Hydrogen” (2006年12月11日). . June 2, 2009閲覧.
  36. エネルギー貯蔵媒体としての水素活用” (2014年5月). . September 12, 2017閲覧.

出典

Carr. "The power and the glory: A special report on the future of energy", page 11. The Economist, 2008.

外部リンク

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