義務教育学校

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義務教育学校(ぎむきょういくがっこう)とは、小学校課程から中学校課程まで義務教育を一貫して行う日本の学校(一条校)である。学校教育法の改正により2016年に新設された学校教育制度(第5章の2)。小中一貫校の一種である。

概要

義務教育学校は、「学校教育制度の多様化及び弾力化を推進するため、現行の小・中学校に加え、小学校から中学校までの義務教育を一貫して行う」[1]学校であり、初等教育と、中等教育の一部の合計9年間の課程を一体化させた学校である。

設置は、国公私立いずれも設置が可能となっている。なお市区町村は、学校教育法に基づく公立小学校・公立中学校の設置義務があるが(第38条[2]。第49条で中学校に準用)、義務教育学校を設置することでも設置義務の履行となる(第38条ただし書き)。

現行の小学校、中学校との違い

カリキュラムや学校運営については設置者によって柔軟に運用することができるため一概には記述できないものの、先行の小中一貫校の主な実施例を挙げると次の通りである。

  • 早期カリキュラムの導入
  • 小学校段階からの教科担任制
  • 小学校段階からの定期考査(中間試験、期末試験。ここでは中学校と同様な定期的なテストを指す)
  • 授業時間の小中統一(20分休みや業間休みなし)
  • 児童会生徒会の一体化
  • 学校行事の小中一体化(小学生と中学生が一緒に運動会を行うなど)
  • 小学生と中学生の校則の統一化(小学生段階からランドセル登校が禁止の小中一貫校もある)
  • 小中一貫の部活動

など、学習カリキュラムのみならず、従来であれば中学校段階の教育の特徴とされてきた慣習的制度(定期考査、部活動、校則等)が小学校段階に早期化されている場合もある。

施設の形態

小学生が学ぶ前期課程と中学生が学ぶ後期課程を同じ校舎にした「施設一体型」と、学年の区切り等で校舎が別の場所にある「施設分離型」とかある。

現行の小学校と中学校を施設一体型で小中一貫校化した場合、学校の統廃合が伴う。そのため現行の小中学校の小中一貫校化については、「学校統廃合及びそれに伴う教育予算の削減」ではないか、との指摘もある[3]

一方では、過疎地においては学校を統合することで地域の学校を安価に維持でき、制度がなかった時代から小学校と中学校が同じ敷地か隣接した敷地にある小規模な学校では、施設一体型への移行がスムーズに行うことができた。校務員(業務員)などの共通化などを行うことで人件費の削減を行うことが可能である。ただし、9つの学年を1人の校長が掌握するのに伴い従来の学校制度より管理職ポストの増加が必要になる場合、管理コストが増加する。

また、複数の小学校および中学校を統廃合するのに伴い小学生~中学生に合わせた施設の新築、増改築を行う場合も多く、建設コストがかかる。都市部では、現行の小学校にあるような校庭の遊具施設を設置できない(しにくい)場合もある。さらに、従来よりも学区が広域化することで通学距離が長くなったり、従来の地域コミュニティーから遠方になる場合等のデメリットもある。

学年の区切り

法令上は、小学校および中学校の学習指導要領を準用するため、現行の6年制の小学校と3年制の中学校に合わせて前期課程(小学校段階)と後期課程(中学校段階)になっている。前期課程を小学部、後期課程を中学部と称する場合もある。

なお、現行の「6・3制」のほかにも、「4・3・2制」、「5・4制」など、地域の実情に合わせて設置者が区切ることもできる。

6年制の小学校制度は1907年(明治40年)の小学校令改正による尋常小学校から100年以上の歴史があり、世代を超えて定着しており、また、国際的にも初等教育(小学校に属する教育)と中等教育(中学校・高等学校に属する教育)とは別にした教育制度が主流となっている[4] 。学年の区切りをいかにするべきかは議論も多く、6-3-3制、6-6制が主流の現行の教育制度の中において、公立の一部の学校が異なる学年区分を適用することには異論もある[5]

入学者選抜

公立の場合、入学者選抜は行われない。これは公立の義務教育の中において「エリート校」化することを懸念する意見があるためである[6]。しかし、入学者選抜を行わない場合、柔軟なカリキュラム編成を生かした「早期カリキュラム」のような独自の一貫教育が可能なのか、疑問も指摘されている[7]

希望する児童生徒のみ早期カリキュラムを行うなど、柔軟な対応を行うことで解決が可能であるにしても、公立の義務教育におけるエリート教育に関する議論や横並び意識の強い日本の教育風土においては様々な課題もある[6]

メリット、デメリット

小中一貫校(義務教育学校)の制度に関しては、これまで、中央教育審議会国会地方議会教育学者、教育評論家等の間で様々な議論が行われている。初めての制度の導入に伴うメリット、デメリットがあり、制度そのものについて推進意見、慎重意見もある[8]

メリット

  • 9年間の一貫した教育(カリキュラムの早期化)が可能
  • 進学のギャップが解消される(中一ギャップの解消・中学受験の過熱を解消)
  • 部活動の小中一貫化
  • 小学校高学年から、教科担当制を導入できる。(特に英語は、メリットが大きい)
  • 施設一体型の場合、コストダウンがはかれる(ただし、文部科学大臣は教育予算削減が制度の目的であることを否定的に答弁[3])。

デメリット

  • 人間関係が固定化しやすい[5]
  • 行事活動等で小学生(特に5、6年生)のリーダーシップ性を育てる機会が減少する[9]
  • 9年間の途中で学習に挫折をする可能性(カリキュラムを早期化する場合)[10] ※学び直しのためのカリキュラムを用意する必要が出てくるものの学習指導要領の範囲を超える学習のためのコスト負担については、義務教育における教育の機会均等との絡みや議論も必要となる。
  • 教職員教育免許は小学校の教員免許状および中学校の教員免許状を有する者でなければならないが[11]、両者の養成課程は独立している場合も多く、両方の免許を取得していない教員も少なくない。なお、当分の間、小学校または中学校の教員免許状を所持していれば、対応する前期課程または後期課程の教諭等になることはできる。
  • 小学校段階から教科担任制を導入すると、学級担任制のメリット[12]がなくなる。
  • 職員の会議が多くなり、職員の負担が増加する[13]
  • 単元や授業の区切りごとに行ってきた小学校段階の試験が、定期考査での評価に移行することで生じる児童へのストレスや負担の増加
  • 中高一貫教育中等教育学校制度等)との整合性がない。一つの自治体の中に小学校、中学校、中等教育学校、義務教育学校が併存することになる[5]。義務教育学校前期課程から中学校または中等教育学校への進学は原則として妨げはないものの、一貫教育の途中で転校や進学をすることは、9年間の小中一貫教育を目的として教育方針を打ち出している本来の小中一貫校の教育趣旨とは異なる。また、中高一貫校への進学率が高い地域などでは、一貫教育の途中で他校への進学や転校を無条件に認めていると小学部と中学部の間に質や数の差が生じ、小中一貫の本来の教育趣旨を自ら否定することにもなりかねず、現在主流の6-3-3制や6-6制の教育制度の中において9年制の小中一貫校の存在意義も曖昧になりかねない。地域に応じて様々な学校の形態を文部科学省が認めているというのが実態である。
  • 公立の場合、一貫校であるにもかかわらず一貫教育としての高等学校には接続されておらず、高校受験や進学手続き等は現行の公立中学校の制度と変わらない。なお、私立では12年一貫教育が行われているものの6-3-3制の学年区分に合わせた小・中・高の各組織に校長を置き、それぞれ入学者選抜(選考)、入学、卒業を行っている場合がほとんどである。
  • 一人の校長(学園長)が9つの学年を把握しなければならない。校長のポストは原則一人。補佐する副校長・教頭のポストを手当てする必要があると言えるだろう。
  • マンモス校化しやすい(先行の小中一貫校の中には全校児童生徒1500人の学校もある[14])。都市部の学校では顕著になる。施設一体型の小中一貫校がマンモス校化した場合でも、統廃合前の用地が処分されている場合、再び元の小学校、中学校に戻すことは困難になる[15]
  • 施設一体型では学校統廃合が伴う。前身となる小学校・中学校は廃校の上で義務教育学校へ統合される。それに伴い学区が広域化することで通学距離が長くなる場合もある。18校の小学校、中学校が統廃合されて6校の小中一貫校になった地域の例もある(実質12校の廃校)[16]
  • 体育館等の施設利用の調整が困難になる(活動の異なる9学年で調整しなければならない。全校一斉に行う行事等の大規模化など)、中学生のクラブ活動(部活動)により小学生が放課後に体育館を使えない施設もある[17]。体育館を2つ用意するなど、児童の活動も、部活動も制約なくできるように施設整備を行う必要がある。
  • 小学生が中学生の影響を受けることによる非行の低年齢化、性の低年齢化
  • 制服のある小中一貫校では小学生と中学生で統一した制服や持ち物(バッグ等)をそろえなければならず、現行の小学校・中学校で用いられているような標準服等に比較してコストがかかる[18]。ものの、教育の一貫性の建前があり、小学生段階から中学生に合わせた制服や持ち物に統一している小中一貫校も少なくない。中学生と同様に校則の書かれた児童手帳の携帯義務、小学低学年段階の児童にスカート丈を指定、斬新なデザインの制服、校章の入った指定品を着用する等の詳細な校則を適用している公立の小中一貫校もある。
  • 世間一般に「義務教育学校」という名称に馴染みがない。また、正式名称として「学園」のみ(「学校」という文言を含めない)の名称を用いると、一般に認識されている他の政策的施設(福祉施設刑事施設等)と判別がしにくくなる。
  • 私学の一貫校と競合している地域では、民業(私学)を圧迫する。
  • 小学部から部活動がある場合の問題
    • 地域のスポーツ少年団活動や習い事との調整が必要になる。休日、早朝・放課後における教師や生徒の部活動負担が問題になっており、一定の資格要件を満たしたスポーツ少年団などと部活動とのコラボレーションを行うことで双方が活性化するというものの、学校管理下の教員による指導が通例となっている現状の学校部活動において、実施、実現例は極めて希少である。
    • 部活動選択の時期が早いと適性を見極める機会も早期化せざるを得ない。早期に始めたとしても、入学者選抜(スポーツ推薦等)も無く体力格差も大きい一般住民の児童が集まる公立の義務教育の学校では、圧倒的多数を占める平凡的な能力の児童への対応がメインとならざるを得ない。
    • 小学生と中学生の実力の差は大きく、統一した活動は難しい。
    • 小学高学年段階から入部する場合、最上級生になるのに4年かかり下積み期間が長くなる。適性と合わない部活動であっても辞めることが困難な場合、長期間我慢しなければならない。その一方で、最上級生は年齢も能力も異なる4学年分の下級生を含む部をまとめなければならず、受験期も重なって負担が大きくなる。
    • 中学生の影響が大きいと、従来の中学生の悪しき部活動文化が小学生へ移行する(いわゆる「ブラック部活」の問題)。
    • 小学生の部員に実力があったとしても中学生と一緒に大会に参加できない(参加資格がない、年齢制限)

など

脚注および参照

  1. 学校教育法等の一部を改正する法律案の概要(文部科学省)
  2. 第140条で東京都特別区を含む。
  3. 3.0 3.1 『立法と調査』・2015. 8・No. 367「学校教育法改正に係る国会論議 - 小中一貫教育を行う義務教育学校の創設(文教科学委員会調査室)p.5
  4. 文部科学省「教育指標の国際比較」2013年版
  5. 5.0 5.1 5.2 平成24年7月13日中央教育審議会初等中等教育分科会・配付資料「義務教育学校制度(仮称)創設の是非について」
  6. 6.0 6.1 「全国学力テストや特に学校選択制と結び付いたときにエリート校化する懸念はないのか。あるいは、義務教育学校がエリート校化して、選択制になって、そこにそういう人たちが集中していく、こうなると、義務教育、小学校、中学校の段階で学校間序列が付いたり格差ができたりする」との指摘もなされた。これに対し、下村文部科学大臣からは、「市町村立の義務教育学校は、小学校、中学校と同様に就学指定の対象とすることを予定しているため、入学者選抜は行われません。(以下略)」(『立法と調査』・2015. 8・No. 367「学校教育法改正に係る国会論議 - 小中一貫教育を行う義務教育学校の創設(文教科学委員会調査室))p.6
  7. 「学習を前倒しで行っている学校に転入した場合にその教科が嫌いになる可能性」が指摘されている(『立法と調査』・2015. 8・No. 367「学校教育法改正に係る国会論議 - 小中一貫教育を行う義務教育学校の創設(文教科学委員会調査室))p.7
  8. 学校段階間の連携・接続等に関する作業部会(第16回)「小中連携、一貫教育に関するこれまでの御意見について」(文部科学省)など
  9. 「先行実施した自治体では、小学校5、6年生の活動の場(リーダーシップ)消失等のほか、多くの問題が指摘されている。」(平成27年9月・新潟県妙高市議会・定例会一般質問より)
  10. 渡辺敦司「なぜ「小中一貫教育学校」創設を目指すのか・教育再生会議が提言」(2014年6月12・PAGE
  11. 改正「教育職員免許法」第3条
  12. 「高学年においても一部交換授業等があっても学級担任制をベースとする方が、子どもを育てやすいと考えています。」「子ども自身や家庭が難しくなっている今こそ、学級担任がその多くの授業を受け持つべきだと考えています。」(大谷雅昭教諭「小学校の教科担任制」(教育総合研究所)より一部抜粋
  13. 「小中一貫教育では、小中の教員の会議が多くなり、負担が増すということが課題に」(2014年11月29日・京都新聞)
  14. 平成27年6月16日 第189回国会・文教科学委員会第14号
  15. (デメリット項目の内容ではない脚注)という
  16. 『立法と調査』・2015. 8・No. 367「学校教育法改正に係る国会論議 - 小中一貫教育を行う義務教育学校の創設(文教科学委員会調査室)p.6
  17. 文部科学省施設企画課「小中一貫教育に適した学校施設の在り方について~子供たちの9年間の学びを支える施設環境の充実に向けて~」参考資料p.108
  18. 佐貫浩『品川の学校で何が起こっているのか』花伝社 ・2010年

関連項目

外部リンク