自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

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自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
日本の法令
通称・略称 自動車運転死傷行為処罰法
法令番号 平成25年11月27日法律第86号
効力 現行法
種類 特別刑法
主な内容 自動車の運転により人を死傷させる行為等に対する刑罰
関連法令 刑法道路交通法
条文リンク 総務省法令データ提供システム
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自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(じどうしゃのうんてんによりひとをししょうさせるこういとうのしょばつにかんするほうりつ、平成25年11月27日法律第86号)は、それまで刑法に規定されていた自動車[1]の運転により人を死傷させる行為に対する刑罰の規定を独立させた、日本法律である。略称は自動車運転処罰法または自動車運転死傷行為処罰法

概要

自動車による交通事故の加害者のうち、飲酒運転など原因が悪質とされるものに対して厳罰を望む社会的運動の高まりを受けて、刑法に危険運転致死傷罪が規定された。しかし、その構成要件は、運転行為の中でも特に危険性の高いものに限定されていたため、たとえば下記のような事例に対して、公判廷で危険運転致死傷罪を適用することには困難を伴っていた。

  • 無免許運転を繰り返している場合に、無免許で事故を起こしても危険運転致死傷罪が適用できなかった。(亀岡市登校中児童ら交通事故死事件
  • 飲酒後に事故を起こした場合に、事故後に再度飲酒したり、あるいは逃走(ひき逃げ)するなどして事故当時の酩酊度を推定困難にする、という手法での逃げ得が発生していた。
  • 自動車を運転するには危険な持病を持ちながらあえて運転して事故を起こした場合に、危険運転致死傷罪が適用できなかった。(鹿沼市クレーン車暴走事故

本法律は、これら悪質な運転者が死亡事故を起こしている現状に刑法の規定が対応できていないとの意見により、構成要件に修正を加えると共に、刑法から関連規定を分離して独立した法律として、新たに制定されたものである。

なお、刑法に規定されていた時期と異なり、犯罪の主体は道路交通法に規定する自動車および原動機付自転車、と明確化されている。刑法規定時期の「自動車」については、判例および類推解釈によりオートバイ原動機付自転車も含まれるとされていた[2]

運転免許の行政処分

2014年(平成26年)現在、危険運転致死傷罪に該当する態様で死傷事故を起こした場合には、運転免許証行政処分に関し「特定違反行為による交通事故等」の基準が適用され、致傷では基礎点数45~55点・欠格期間5~7年(被害者の治療期間による)、致死では62点・欠格期間8年となっており、殺人や傷害の故意をもって自動車等により人を死傷させた場合(運転殺人、運転傷害)と同程度の処分となっている。

経緯

  • 2013年4月12日:閣議決定、第183回国会に法案提出
  • 2013年11月5日:第185回国会衆議院本会議で可決
  • 2013年11月20日:参議院本会議で可決、成立
  • 2013年11月27日:公布
  • 2014年5月20日:法施行

犯罪類型と罰則

危険運転致死傷罪

(第二条、第三条) 下記の行為によって人を死傷させた者

  1. アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
  2. アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの
  3. その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
  4. その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
  5. 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  6. 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  7. 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  8. 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてその病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの(適用対象となる病気は後述)[3]

諸類型(新規定)

旧・刑法第208条の2の規定と比較して構成要件と類型の一部が改正、拡大されている。
酩酊運転致死傷・薬物運転致死傷
第2条第1項。アルコール(飲酒)又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。
「正常な運転が困難な状態」とは、道路交通法の酒酔い運転罪の規定(同法第117条の2第1号)にいう「正常な運転ができないおそれがある状態」では足りず、現実に前方注視やハンドル、ブレーキ等の操作が困難な状態であることを指す。
本法律に言う「薬物」については、特定の薬効成分は指定されていない。薬効成分の種類を問わず、薬物の影響下で正常な運転が困難な状態、または正常な運転に支障が生じる恐れがある状態に陥るものすべてが該当する。麻薬及び向精神薬取締法大麻取締法覚せい剤取締法あへん法の薬物四法による規制薬物や、脱法ドラッグ脱法ハーブに類する意識や運動能力に作用する薬物を摂取した場合も同様である。
準酩酊運転致死傷・準薬物運転致死傷
第3条第1項。独立法制定時に新設。アルコール(飲酒)又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転し、その結果として第2条第1項に規定する状態(アルコール(飲酒)又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態)に陥った場合。
この点で、原因行為において正常な運転が困難となる認識可能性が要求される第2条第1項の規定と差異がある。抽象的危険性を認識していて具体的危険を惹起して、よって結果を惹起した点について、二段階の結果的加重犯の構成となっている(この点は次の病気運転致死傷についても同様)[4]
そのため、第2条第1項(従来規定)については「酒酔い運転」程度の酩酊や「薬物等運転」の認識性が標準とされうるが[5]、第3条第1項(新設)においては、「酒気帯び運転」程度の酩酊等であっても、結果的に「正常な運転が困難な状態」(前述)であれば、本罪が成立することになる。
病気運転致死傷
第3条第2項。独立法制定時に新設。政令に定める特定の疾患の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を予め認識していながら[6]自動車を運転し、その結果として当該疾患の影響により正常な運転が困難な状態に陥った場合。
準酩酊運転致死傷や準薬物運転致死傷と同様に、抽象的危険性を認識していて具体的危険を惹起して、よって結果を惹起した点について二段階の結果的加重犯の構成となっている。
特定の疾患とは、運転免許証の交付欠格事由を標準として、以下が定められている。
  1. 運転に必要な能力[7]を欠く恐れがある統合失調症
  2. 覚醒時に意識や運動に障害を生じる恐れがあるてんかん
  3. 再発性の失神障害[8]
  4. 運転に必要な能力を欠く恐れがある低血糖症[9]
  5. 運転に必要な能力を欠く恐れがある躁鬱病(単極性の躁病・鬱病を含む)
  6. 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
上記各疾患の影響により、運転前または運転中に発作の前兆症状が出ていたり、症状が出ていなくても所定の治療や服薬を怠っていた場合で、事故時に結果的に「正常な運転が困難な状態」(前述)であれば、本罪が成立することになる。なお、病気を原因とした「正常な運転が困難な状態」については、前述のほか、発作のために意識を消失している場合や、病的に極端な興奮状態、顕著な精神活動停止や多動状態、無動状態など、幻覚や妄想に相当影響されて意思伝達や判断に重大な欠陥が認められるような精神症状を発症している場合も含まれる[10]認知症は含まれていない。
制御困難運転致死傷
第2条第2項。進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。
単に速度制限違反というだけで成立するものではなく、直線道路等では、制限速度をおおむね50km/h以上超えたときに適用が検討される。カーブ等では、限界旋回速度を超過したとして制限速度を40-60km/h超えた場合に適用した事例[11]、路面の縦断線形が長周期の凹凸になっている場所に制限速度を30km/h超えて進入し転覆等を起こした事故に適用した事例[12]などがある。また、意図的なドリフト走行やスピンターンを行い事故を起こした場合も対象になりうる。
未熟運転致死傷
第2条第3項。進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。
単に無免許運転であるだけでは足りず、運転技能を有していない状態を指す。
一方で、運転技能を有するが免許が取消・停止・失効になっている状態は含まない。したがって、免許を一度も取得していなくとも、日常的に事故を起こすことなく無免許運転している場合には運転技能ありとみなされ、これには該当しない。なお、法的に無免許運転である場合には、第6条の加重規定が適用されることとなった。
妨害運転致死傷
第2条第4項。人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。刑法の旧規定と同様。
これは、何らかの理由により故意に「人又は車の通行を妨害する」目的で行った場合のことである。具体的には、過度の煽り行為や、故意による割り込み幅寄せ・進路変更などが該当しうる。
「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、相手方と接触すれば大きな事故を生ずる速度をいい、20km/h程度でも該当する[13]
信号無視運転致死傷
第2条第5項。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し(信号無視)、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。刑法の旧規定と同様。
交差交通が青信号であるのに「殊更に」赤信号を無視した場合に適用され、見落とし・誤認などの過失[14]はもとより、ただ信号の変わり際(黄信号→赤信号へと変わる瞬間、全赤時間)などに進んだ場合などは含まれない。
「重大な交通の危険を生じさせる速度」については前述と同様である。
通行禁止道路運転致死傷
第2条第6項。自動車の通行が禁止されている政令に定める道路(片側一車線道路における対向車線などの道路の一部分を含む)を自動車によって通行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。独立法制定時に新設。
なお、通行禁止道路の通行は故意が要件であるため、道路標識の見落とし等の過失による場合[15]や、認知症などによる場合は適用されない。
通行禁止道路とは、政令により以下が定められている。
道路標識等であっても、「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」するものについては適用外となる。例として、「車両の種類」(大貨等、二輪など)、「最大積載量」、「重量・高さ・横幅の制限」などがある。ただし、「車両の種類」については、「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」していない場合は適用対象となるので注意が必要である。たとえば、「軽車両を除く」「自転車及び歩行者専用」「自転車専用」などの標識がある場合は、通行禁止対象から軽車両や自転車を除外しているに留まり、自動車(原付を含む)についてはすべて通行禁止対象なので、この規定の適用対象となる。
さらに、通行の日付・時間帯のみを条件とする道路標識等についても対象となる。例として「歩行者専用 7~9時」などがある。したがって、通学時間帯などを理由とした歩行者専用道路等規制に故意に違反して死傷事故を起こすと、危険運転として厳罰に処されうるので、注意が必要である。
なお、「指定方向外進行禁止」は原則として対象外であるが、それが上記の「通行止め」等の道路標識の反射として交差点に設置されている場合や、「一方通行」「車両進入禁止」の反射として交差点に設置されている場合に、それらに新たに違反した場合には、それぞれ(一)、(二)により、この規定の適用対象となる。
  • (二)道路標識等により、「自動車の通行につき一定の方向にするもの」が禁止されている道路。いわゆる一方通行の規制で、一方通行の逆走事故が該当する。一方通行以外の具体例としては、「車両進入禁止」がある[17]
一方通行についても、規制に条件が付されている場合には(一)と同様になる。例として「大貨等」「二輪[18]を除く」は逆走禁止の対象として「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」しているため適用対象外となり、逆に、「一方通行 7~9時」「自転車を除く」などの場合は、自動車についてはすべて逆走禁止となっているためこの規定の適用対象となる。
一般道路の場合には、道路右側部分の逆走は対象外になる。ただし一般道路でも上下線分離の場合には高速道路・自動車専用道路と同様、道路標識等が正しく設置されていれば(二)の対象となる。
  • (四)安全地帯または「立入り禁止部分」(道路交通法第17条第6項)
なお、「重大な交通の危険を生じさせる速度」については前述と同様である。

発覚免脱罪

(第四条 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)

アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をした場合。
これは、ひき逃げの「逃げ得」を防止するため重く処罰する規定である。事故発生までのアルコール・薬物の摂取の証跡を隠秘する目的で、現実の事故発生後に改めてアルコール・薬物を摂取したり、事故現場から逃走し隠秘したりするなどの行為が該当するが、前述の目的があれば他の手段[20]であっても該当する。なお、逃走した場合には救護義務違反の罪も成立し、これは発覚免脱罪とは併合罪の関係にある(後述の「罪数論」を参照)。

過失運転致死傷罪

(第五条)自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる(裁量的免除)。

刑法の旧規定(第211条の2)に自動車運転過失致死傷罪として規定されていたものである。軽傷時の刑の免除は裁量的免除であり、軽傷だから必ず免除される訳ではない。

無免許運転による加重

(第六条)その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、刑を加重する。

無免許運転であることと事故(死傷)の間に因果関係は不要である。なお、運転技能を有しない状態で運転する行為については第2条で評価される。

法定刑

有期懲役刑の上限は20年である(刑法第12条1項)。ただし、他の罪が併合罪加重として適用される場合や、再犯加重の場合などは、最長で30年の懲役となる(刑法第14条同第47条)。危険運転致死罪の場合は裁判員裁判での審理対象となることがある。

罪状 一般 無免許
危険運転致死罪 1年以上の有期懲役 加重なし(同左)
  準酩酊・準薬物・病気運転 15年以下の懲役 6月以上の有期懲役
危険運転致傷罪 15年以下の懲役 6月以上の有期懲役
  未熟運転 15年以下の懲役 加重なし(同左)
  準酩酊・準薬物・病気運転 12年以下の懲役 15年以下の懲役
発覚免脱罪 12年以下の懲役 15年以下の懲役
過失運転致死傷罪 7年以下の懲役もしくは禁錮、
または100万円以下の罰金
10年以下の懲役

罪数論

本法律の各罪と道路交通法違反の各罪(救護義務違反の罪を含む)とは、下記の関係にある。

  • 危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪とは、法条競合の関係にある。
  • 過失運転致死傷罪と道路交通法違反の罪(酒気帯び運転ほかの交通違反)とは、併合罪の関係にある[21]
  • 発覚免脱罪を行ったが結局的に危険運転致死傷罪が成立した場合も、併合罪と評価される可能性がある[22]
  • 発覚免脱罪と過失運転致死傷罪とは、併合罪の関係にある[23]
  • 救護義務違反の罪と他の罪とは原則として併合罪の関係にある(ひき逃げの項を参照)。
  • 無免許運転により本法律の罪が加重された場合、道路交通法による無免許運転罪と、加重された本法律の罪とは、法条競合のうち結合犯の関係にある[24]

道路外致死傷への適用

この法律の罪は、次の部分を除き、道路外致死傷(道路以外の場所において自動車等をその本来の用い方に従って用いることにより人を死傷させる行為)にも適用される。ただし、適法に開催された自動車競技等、法廷で正当行為と判断される場合に限っては、この限りではない。

  • 通行禁止道路運転致死傷(第2条第6項)
  • 無免許運転による加重(第6条)

脚注

  1. 本法律に言う「自動車」とは道路交通法に言う自動車および原動機付自転車のことである(第1条第1項)ため、三輪・四輪の自動車のほか、オートバイ小型特殊自動車も含まれる。自転車馬車などの軽車両、および、路面電車トロリーバスは対象外である。以下同じ。
  2. なお、危険運転致死傷罪については一時期「四輪以上」とされ、二輪または三輪の自動車オートバイ原動機付自転車は除外されていた。
  3. “来月20日から悪質運転厳罰化…持病にも適用”. 読売新聞. (2014年4月18日). オリジナル2014年4月19日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20140419012447/http://www.yomiuri.co.jp/politics/20140418-OYT1T50095.html . 2014閲覧. 
  4. 人身事故という結果が出ていない場合には、道路交通法第66条(過労運転等の禁止)により、アルコール(飲酒)又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転した場合として処罰の対象になる。危険ドラッグ等の薬物については前歴によっては、車内に保有していただけで道路交通法第103条に定める危険性帯有者とみなされ、処罰の対象になることがある。
  5. ただし、道交法に言う「酒酔い運転」程度の酩酊や「薬物等運転」である事が構成要件となっているわけではない。
  6. なお、特定の疾患に結果的に罹患していても、そもそも事前に自覚症状がなかった場合や、多少なりの自覚症状を認識していた場合であってもそれが運転に関し危険を生じるという認識を持たなかった場合(認識可能性)については、本罪には該当しないこととなる。疾患は本人の認識外で自然発生することもあるという点で、アルコールや薬物の摂取など、原因が通常本人の認識に帰するものとは異なる。
  7. 認知、予測、判断、操作に関する能力。以下同じ。
  8. 脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発する恐れがあるもの
  9. 無自覚性ではない低血糖症や、人為的に血糖を調節できる低血糖症であっても、糖分の摂取等やインスリン注射等の、発症を防止するための措置を怠った場合には、病気運転致死傷罪の対象となる。なお、発症防止措置の懈怠については、必ずしも故意(意図的な懈怠)が要件ではなく、発症防止措置を怠っている事実の認識可能性があれば足りる(抽象的危険性)。
  10. 人身事故という結果が出ていない場合には、道路交通法第66条(過労運転等の禁止)により、過労や疾患の影響により影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転した場合として処罰の対象となる。
  11. 判例タイムズ1108号297頁、同1375号246頁、
  12. 判例タイムズ1352号252頁
  13. 最高裁判所平成17年(あ)第2035号危険運転致傷・道路交通法違反・傷害被告事件、平成18年3月14日最高裁判所第二小法廷決定
  14. 「殊更に」とあるため、通行禁止道路運転致死傷とは異なり、赤色信号等を見てはいたがそれが「止まれ」の意味であると認識していなかった場合(法の不知)には、対象外となる可能性がある。もっとも、そもそも法の不知は進行を制御する技能を有しないことを示唆するため、別途、未熟運転致死傷や無免許運転による加重を検討することとなろう。また、赤色信号等と認識していたが諸条件(矢印信号や補助標識などを含む)の誤認により止まるべきでない・止まる必要がないと誤解した場合(当てはめの錯誤)にも、適用外となる余地がある。なお、信号機の見落としについては、一時的に通りかかった道路ではなく通勤通学など習慣的に通行している道路においては、見落としという主張が認められずに故意と認定される可能性もある。
  15. 道路標識等は見ていたがそれが通行禁止の標識であると認識していなかったという場合(法の不知)や、通行禁止の標識と認識していたが諸条件(補助標識含む)の誤認により通行禁止ではないと誤解した場合(当てはめの錯誤)には、法律の錯誤の問題になり、直ちには故意を阻却しない。
    ただし、一時的に通りかかった道路ではなく通勤通学など習慣的に通行している道路においては、信号機の場合と同様に道路標識の見落としが認められず、故意と認定されて危険運転致死傷罪が適用される可能性がある。
    あるいは、一方通行や車両進入禁止の標識は、通常それぞれ一方通行道路の入口と出口にだけ設置されるため、いったんは入口で道路標識等を認識したが途中で失念したため逆走してしまった、と主張するような場合には、認知症などの精神症状が認定される場合は別として、故意を認定すべきかどうかが争点になるであろう。
  16. 道路交通法第8条第1項を根拠とする道路標識または道路標示。同法の道路標識等は同法第4条により都道府県公安委員会が設置したものである事が要件である。以下同じ。
  17. なお、本法施行令の文言では「道路交通法第八条第一項の道路標識等により自動車の通行につき一定の方向にするものが禁止されている道路」と規定されており、一見「指定方向外進行禁止」の道路標識も該当する余地があるように見える。
    しかし、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令によると「指定方向外進行禁止」は「標示板の矢印の示す方向以外の方向への車両の進行を禁止する」、一方通行は「標示板の矢印が示す方向の反対方向にする車両の通行を禁止する」となっており、文言として「進行」と「通行」の差異がある。
    この2つの単語に明確な法律上の定義はないが、文理解釈上は進行(=前進)のほか横断・転回・後退をも総称して通行と称するところ、本法の政令には「通行につき一定の方向にするものが禁止」と記述されているため、指定方向外進行禁止は該当せず、一方通行・車両進入禁止のみが該当すると解釈される。
  18. 補助標識における「二輪」とは「二輪の自動車、原動機付自転車」のことである(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令 別表第二・備考一の(六))。
  19. 文言には「道路交通法第十七条第四項の規定により通行しなければならないとされているもの以外のもの」とあるため、文理解釈上、高速道路等の路側帯通行も含まれる余地がある。しかしながら、順方向の路側帯通行に対して危険運転致死傷罪の適用を想定しているかどうかは不明である。
  20. たとえば、大量に水分を摂取し、それによって大量に排尿することで、血液中のアルコール・薬物を尿中に排泄してしまう方法(これは急性アルコール中毒の治療法のひとつでもあり、強制利尿と呼ばれる)などが考えられる。
  21. 道路交通法上の酒酔い運転の罪と業務上過失致死罪(当時)とは併合罪となる(最大判昭和49年5月29日、刑集28巻4号114頁)。
  22. 学説、判例不明。
  23. 法務省の解説ページにはそれを前提とする記述があるが、学説、判例不明。
  24. 学説、判例不明。

参考文献

関連項目

外部リンク