スポーツ・ユーティリティ・ビークル

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スポーツ・ユーティリティ・ビークル英語: Sport Utility Vehicle)とは、自動車の形態の一つで、「スポーツ用多目的車」と訳される。通常はSUVと略して呼ばれる。本記事においてはSUVではなくSUVと記す。

定義

SUVには様々な種類と出自が存在するため明確な定義は存在せず、メディア、辞書、ジャーナリストの間でも意見が分かれている。近年はあまりに多様化が進行しているため、「カテゴライズを各消費者に委ねたものがSUVだ」という意見まである[1]

現在一般的にSUVと呼ばれるものは

  1. ピックアップトラックの荷台に「シェル」と呼ばれる居住・荷室空間を作ったもの→ 本来の意味でのSUV
  2. 地上高を高くしたりラダーフレーム構造を採用したりするなど、本格オフロード(悪路)走行向けに設計された四輪駆動車 →「クロスカントリー車」(クロカン)
  3. モノコック構造で1.と2.のようなSUV車風の外観を持つ車、またはセダンコンパクトカーなどのボディを大きめ又は高めに設計した車 →「クロスオーバーSUV」(CUV)

と大きく分けて3つが存在しており、これらの総称がSUVであると広くとらえるのが無難である。

SUVはサイズによって、小さい順に「ミニSUV(またはサブコンパクトSUV)」、「コンパクトSUV」、「ミッドサイズSUV(北米のみ)」、「フルサイズSUV」、「エクステンド・レングスSUV(北米のみ)」に分けられるが、これらにも明確な定義は存在しない。例えば日本人の感覚ではホンダ・ヴェゼルはコンパクトSUV、三菱・アウトランダーはミッドサイズSUVだが、欧米の感覚ではヴェゼルはミニSUV、アウトランダーはコンパクトSUVに分類される。

北米の場合

「SUV」という名称が生まれた時期は明確に分かっていないが、元々はアメリカにおいてピックアップトラックの荷台にシェルと呼ばれるFRP製のハードトップを載せてステーションワゴンのようなスタイルにしたものがそう呼ばれた。そのため当時のSUVはステーションワゴンの一種として売られることも多かった。このシェルは登場した頃は着脱可能なものが多かったが、需要の高さから後にシェルと車体が一体化したものも多く開発される様になった。このように、本来四輪駆動の有無や走破性はSUVの定義には一切関係なかった。

なおSUVのSの「Sport」とはオフロード走行能力の高さでは無く、本来はピックアップトラックの荷台に作られたSport=娯楽(この場合はアウトドアスポーツなど)のための空間のことを指す[2]。また「ユーティリティ・ビークル(en:Utility_vehicle)」とは、乗用車に対して商用・軍用など何らかの目的に沿って設計された自動車のことである。つまり「多目的」は原義には無く、本来は誤訳である。

1970年代のオイル・ショックとともにCAFE規制(Corporate Average Fuel Economy、企業平均燃費)が導入されると、アメリカではSUVはピックアップトラックと同じライトトラックに分類された。またトラックとは関係の無い、モノコック構造のクロカン(今で言うクロスオーバーSUV)のAMC・イーグルジープ・XJチェロキー)もメーカーのロビー活動により、税法上有利なライトトラックに分類された[3]。これらは出自こそ違えど、多くは同じアウトドア用途で購入されていた上、公的にも同じ分類にされたことで、両者は同じ「SUV」として認識されていった。ただし2010年代以降は、二輪駆動の小型クロスオーバーSUVだけは乗用車に分類されている。

その他の地域の場合

SUVという呼称の存在しなかったヨーロッパオセアニア日本などの地域では、オフロード向け四輪駆動車をクロスカントリー(Cross Country、日本ではクロカンとも)、4WD4×4(Four by Four)などと呼んだ。またクロカン車メーカーの代名詞であったジープランドローバーがそのままカテゴリ名として用いられることもあった。

その後北米でSUVと呼ばれている車両がクロスカントリー車に近い用途・ボディ形状を持つことから、SUVという呼称もクロカン車を指す言葉として広まった。しかし同時期にはオンロード性能重視のクロスオーバーSUVが急成長して純粋なクロカン車の市場を奪っていったため、現在SUVというとクロスオーバーSUVを指す傾向が強い。従来のクロスカントリー車はSUVにカテゴライズされつつも、以前通り「クロスカントリー」「クロカン」など区別して呼ばれる。

日本では1980年代以降、商業や統計の都合からステーションワゴンミニバンSUVをまとめて「RV」と呼ぶことがある。また日本自動車販売協会連合会の統計上の区分においてSUVは「ジープ型の四輪駆動車でワゴンバントラックを含む(一部2WDを含む)」と定義されている[4]


歴史

SUVとピックアップトラック

ファイル:Jeep CJ in South Africa.jpg
オープントップのジープ・CJ
ファイル:79 International Harvester Scout (7867834526).jpg
インターナショナルハーベスター・スカウト

SUVという呼称が存在する以前のクロカン車(オフロード向け四輪駆動車)は第二次世界大戦で発達し、ジープダッジなどが名声を得た。戦後も軍事用四輪駆動車は開発され、民間にも販売されるようになった。またこの頃のクロカン車はオープンカータイプのものが多かった[5]

カテゴリとしてのSUVは、前述の通りピックアップトラックの派生として米国で誕生した。1961年のインターナショナルハーベスター・スカウト (International Harvester Scout)や、1963年ジープ・ワゴニア(Jeep Wagoneer SJ)はその始祖であるとされる。その後、それらにヒントを得たビッグスリーが、2代目フォード・ブロンコシボレー・K5 ブレイザーダッジ・ラムチャージャーなど、フルサイズピックアップの荷台にシェルを被せたワゴンをリリースし、一気に市民権を得るに至り、SUVの呼び名が定着した。現在も乗用車を含めた販売台数で1-2-3位を占めるほどピックアップトラックが好まれる[6]北米市場では、かつてはこの手のクルマには元となったピックアップに近いスタイルを与えることが販売上有利であった。

日本車では、1960年代から北米市場へピックアップトラックを輸出していた二大メーカーの、N60系ハイラックスサーフD21型系テラノが本来のSUVの解釈どおりで、2ドアであること、ピックアップ同様のフロントマスクで室内高が低いこと、取ってつけたような荷室の屋根(ハイラックスのFRP製シェル)や窓(テラノの三角形の窓)を持つこと、固く跳ねやすいスプリングが特徴である。この2車が日本国内で販売された際には、国内の事情に合わせ、スプリングは柔らかく変更され、ディーゼルエンジンがメインとなっている。特にハイラックスサーフにいたっては、維持費の低い小型貨物(4ナンバー登録の商用車)中心のラインナップとして大きな成功を収めた。

アメリカのビッグスリーは以前は小型ピックアップトラックを国内生産しておらず、日本車とバッティングすることもなかったため、このクラスの輸入関税は低く設定されていた。これは日本製乗用車の輸入台数を制限する代わりの、一種の優遇措置でもあった。後にこれらのピックアップトラックをベースとした2ドアのハードトップ(ボンネットワゴン)にも優遇措置が認められたことにより、それまでSUVを手がけたことのない日本のメーカーが参入することとなり、低価格とスポーティーな雰囲気が受け、ビッグスリーも小型ピックアップと小型SUVに参入して一大市場に発展した。2ドア優遇措置が廃止されると、トヨタと日産はこぞって4ドアモデルをメインとしたラインナップへ変更した。この機を逃さず日本のほとんどの自動車メーカーがこのジャンルに参入し、競争が激化することで商品力は急速に高まっていった。ホンダスバルラダーフレームあるいはFRの技術を持っていないため自力での開発を諦め、両社ともいすゞと提携することになった。

レクサス・LXランドローバー・レンジローバーメルセデス・ベンツ・Gクラス (ゲレンデバーゲン)などの高級マーケットでの成功により、それまで「無風地帯」だったビッグスリーのフルサイズSUVにもキャデラックリンカーンなどの高級ディビジョンが参入し、もとよりエントリークラスの位置づけであったサターンまでもがSUVを発表するに至り、1990年代以降全米でのブームは決定的となった。また軍用車を発端とするクロスカントリー車が乗用車化・高級化した一方、ピックアップトラック発祥のSUVも荷台シェルのボディ一体化(メタルトップ化)や4ドア化したことによって、両者が形状・中身ともに近づいていったことから、1990年代からは同じSUVの範疇と考えられるようになった。

2000年代に入る頃には、SUVをベースにし荷室の屋根を取り払ったスタイルのスポーツ・ユーティリティ・トラックと呼ばれる、従来のピックアップトラックとSUVの関係が逆転したものも登場した。

しかし収益性が高いが燃費の悪い大型ピックアップトラック、及びそれをベースにしたSUVへの依存度を高めていた北米ビッグスリーは原油高とリーマン・ショックで大きく失速し、GMクライスラーは破綻の憂き目に遭った[7]

クロスオーバーSUVの躍進

クロカン系SUVは非舗装路(オフロード・グラベル)の走破性に重きを置いているが、道路の舗装化が進むにつれ、市場ではSUVの実用性に加えて舗装路・高速道路での性能(操縦安定性、乗り心地、燃費)を求める声が多かった。そのため1980年代から、ピックアップトラックやクロカン系SUVのような丈夫だが重いラダーフレーム構造から、軽量な乗用車モノコック構造をベースとし、SUV風のスタイリングと快適性を訴求したクロスオーバーSUVが登場し始めた。また1990年代後半のトヨタ・ハリアーレクサス・RX)や、オンロードでの走破性を重視したスバル・フォレスタートヨタ・RAV4ホンダ・CR-Vの成功以来、BMWボルボアウディポルシェなど、背の高いクルマとはほぼ無縁であった高級車メーカーや高級車ブランドが次々にクロスオーバーSUVを製造するようになった[8]

クロスオーバーSUVは元々はモノコック構造である以外はクロカンSUVとほとんど変わらない外見を持つ物が主流であったが、近年は外観はほとんどセダン・コンパクトカーで、車高を上げクロカン風の装備をつけることでSUVを名乗るものも増えている。

2000年代の原油高騰で、前述の通り昔ながらの燃費の悪いSUVの販売は一時的に失速した一方、比較的軽量で燃費で優位なCUVはその市場を食って成長を続けた。加えて2010年代以降はハイブリッドやクリーンディーゼルといった最新エネルギー技術が発展。現在SUVは、北米・欧州・中国など、市場を問わず最も大きな成長を遂げているカテゴリとなっている。その勢いは従来の売れ筋であったセダンコンパクトカーをも食らうほどで、クライスラーフォードに至っては北米でセダン・コンパクトカーを廃止し、SUVに注力することを決定している[9]

SUVの長所・短所

セダンなど通常の乗用車に比べると車高が高いため、雪道・段差・悪路でボディ下面を擦る心配が少なくなる。全高も高い分アイポイントが高く視界良好、積載性も高いなど主にアウトドアでの実用性に優れる。またそのボディの大きさゆえ豪華性・ステータス性を演出できるメリットもある。

ただし地上高や全高が高いためロール(揺れ幅)が大きく、ドライバビリティの面ではセダンやコンパクトカーに劣る。また重量が大きいため低回転域での大トルクが必要なことや、ピックアップベースのSUVは北米市場の好みから排気量の大きなエンジンを搭載しているものが多く、さらに車体価格が高いことに加えて、頑丈なフレームや足回りの重量と大径タイヤの抵抗、追加された駆動系の抵抗、大きな車体による空気抵抗の増大など、燃費が悪化する要因が多い。このため、中価格以下のSUVはアンダーパワーを承知で小さめのエンジンを搭載して燃費を稼ぐケースも多い。またタイヤは大きめで、車重の重さゆえ摩耗も激しいため、全体的に維持費は通常の乗用車よりも高くなる傾向にある。

衝突安全性面では、車体が大きい分頑丈なフレームを搭載でき、またクラッシャブルゾーンなども大きくとれるため高くなる。その一方で質量が大きくなるため、衝突相手が軽自動車など質量が小さい車であると、運動量保存の法則により相手を吹き飛ばしてしまい、大きなダメージを与えてしまう。アメリカではエクスプローラーファイアストンタイヤの相性問題から事故が急増した結果、保険料は大幅に引き上げられることになった。これには車重の大きさによる相手のダメージの大きさも関係している。

国土交通省の調べではSUVは一般の自動車に比べて最低地上高や車高が高く、視界が広くなるため運転しやすいことから、運転に自信のない人や初心運転者に人気が高いとされる。さらにトヨタ店の資料によると年齢的には20歳代、30歳代の交通事故発生率の最も多い若年層に人気が高いとされており、これら諸々の事情からSUVに対する危険を呼びかける場合が多々ある(車重の大きさも原因)。また、同じ理由(車高が高い)から、かつては立体駐車場に駐車できないことが多く、SUVは路上駐車を助長する要因の一つにもなっていたが、近年はSUV以上に背の高い軽トールワゴンなども出てきており、駐車場側の改善も進んだ。

アイルランドダブリンにあるトリニティカレッジの研究者シムズ講師らによると、米国から取り寄せた重大事故に関するデータを分析した結果、SUVはボンネットなど車体前部が乗用車より高く、歩行者と衝突した場合、歩行者が頭部や腹部などにより深刻な衝撃を受ける恐れがある。1990年代前半から日本などでアクセサリーとしてグリルガード(カンガルーバー、アニマルバー、ブッシュバーともよばれる)を装備することが流行ったが、対人衝突時の危険性が指摘され、プラスティック製の形だけのものへと代わり、現在ではそれも見られなくなっている[10]

モータースポーツ

高い走破性を活かして、ラリーレイド(クロスカントリーラリー)やオフロードレースを主戦場とする。市販車無改造クラス(グループT2)ではラダーフレーム構造のクロカン系SUVが一般的であるが、改造車クラス(グループT1/T3)ではマーケティングの観点からモノコック構造のSUVの採用が多く、中にはセダンコンパクトカーをSUVに仕立てるケースもある。またグループT1では四輪駆動と同等に戦えるように規制が緩くなっているため、二輪駆動のSUVも多数参戦しており、中でも後輪駆動のプジョー・3008 DKR Maxi は2016〜2018年にダカール・ラリーを3連覇してみせた。


近年は乗用車化の著しいクロスオーバーSUVSSラリーへ参戦するケースも増えてきている。2008年にスズキ・SX4、2011年にはMINI・クロスオーバー(カントリーマン)がWRCに参戦した他、2017年にはトヨタ・RAV4が北米ARAナショナル選手権の二輪駆動部門王者となっている[11]。2018年にはAPRC(アジアパシフィックラリー選手権)でもSUVで争う「SUVカップ」が創設されている。またパイクスピーク・ヒルクライムではレンジローバーベントレーのSUVが参戦した例がある。

サーキットレースでの使用は非常に例が少ないが、トヨタが2005年にレクサス・RX400h(日本名・ハリアーハイブリッド)[12]、2016年にC-HRニュルブルクリンク24時間レースに参戦している。またジャガーフォーミュラEのサポートレースとして、電気自動車のSUVであるI-Paceを用いたワンメイクレースを開催する計画を立てている[13]

各社の商標・ネーミング

商業的な理由から、BMWはSUVではなくSAV(Sports Activity Vehicle)という名称を使用している。またスバル(富士重工業)は乗用車種「レガシィ」をベースにしたワゴンタイプのクロスオーバーSUVレガシィアウトバックにSUW(Sports Utility Wagon)という独自の呼称を用いている。そしてヒュンダイ・ベラクルスはLUV(Luxury Utility Vehicle)を名乗っている。さらに、キャッチコピーとしてではあるがトゥーソンixの韓国向けCMでは"Sexy Utility Vehicle"と言う語が登場した。

また個別の車種についても、トヨタ・RAV4(Recreational Active Vehicle 4Wheel Drive)、ホンダ・CR-V(Comfortable Runabout-Vehicle)、ボルボ・XC60(X《=cross》 Country)、レクサス・GX(Grand Cross-over)など、似たコンセプトの名称を使う車種が多い。

従来のピックアップ系・クロカン系と区別して、クロスオーバーSUVを指す略称としてCUV(Cross-over Utility Vehicle)またはXUV(Cross=X)が用いられることがある。

一方で、米国に限られるが、スポーツ性や居住性を重視したスペシャリティーピックアップトラックSUTSport utility truck)、CUT(Crossover utility truck)などと呼んでいる。

車種

脚注

  1. なぜ脱セダン、SUV全盛なのか? 水野和敏 語る『SUVは非常識の組み合わせ』ベストカーWeb編集部 2017年7月30日
  2. 新モデルの投入が続き、今もっとも注目のジャンル 国産車がリードしてきた「SUV」の歴史と最新トレンド
  3. The Roller Coaster History of the SUV July 13, 2015 by SUVS Editor
  4. 「VEZEL(ヴェゼル)」が2016年度 SUV新車販売台数 第1位を獲得 ~年度においても3年連続SUVベストセラーに~
  5. 第40回 アメリカの初期SUV/MPV
  6. ハイラックスだけじゃない。ピックアップトラックを見てみよう GAZOO.com 2017.09.24 10:00
  7. Ⅳ-3. 米国ピックアップトラック産業にみる保護主義政策の功罪 みずほ銀行産業調査部
  8. ただしアウディは前身のひとつであるDKWムンガ(ドイツ語版)で、ボルボはTerrängpersonvagn m/43(スウェーデン語版/イタリア語版)TP21(英語版)で、それぞれクロスカントリービークルの開発・生産経験がある。
  9. フォードが「セダン」の販売中止へ SUVなどに集中 ニューヨーク=江渕崇 朝日新聞デジタル 2018年4月27日11時49分
  10. キース・ブラッドシャー 『SUVが世界を轢きつぶす―世界一危険なクルマが売れるわけ』 片岡夏実訳、築地書館、2004年、ISBN 4-8067-1280-9
  11. Toyota’s Rally RAV4 clinches championship along with NHRA Mile-High triumph over weekend
  12. ニュルブルクリンクへの挑戦 2007 ニュルについて
  13. JAGUAR WILL TAKE ITS I-PACE ELECTRIC SUV RACING Collin Woodard September 12, 2017

関連項目