水素自動車

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水素自動車(すいそじどうしゃ)とは、水素をエネルギーとする自動車のことである。既存のガソリンエンジンディーゼルエンジンを改良して直接燃焼を行うものと、燃料電池により発電するものに大別することができるが、後者は燃料電池自動車として別な枠で扱うことが一般的である。本項では前者について述べる。

開発史

ファイル:Rivez Engine.jpg
1807年に製造されたcharette of de Rivaz. A:シリンダー, B:点火栓, C:ピストン, D:水素を充填した風船, E:ワンウェイクラッチ, F:給排気弁, G:給排気弁を作動するための取っ手

水素内燃機関燃料として使用するという発想は内燃機関の黎明期から既に存在して、実際に水素自動車も製造された。世界初の内燃機関で走行する自動車は1807年François Isaac de Rivazによって製造されたDe Rivaz engineで水素を燃料として使用した。ジャン=ジョゼフ・エティエンヌ・ルノアールによって1863年に製造されたHippomobileも同様に水素を燃料として使用した。

日本国内では1970年代から武蔵工業大学(現在の東京都市大学)の古濱庄一教授がレシプロエンジンを改造した水素エンジンを搭載した車両「MUSASHIシリーズ」の研究を行っていた[1][2]

1990年代からマツダBMWが既存のエンジンを改良する形で水素燃料エンジンの開発を進めている。

2005年、トヨタ自動車日野自動車が共同でFCHVバスを開発。2005年愛・地球博では会場間のシャトルバスとして8台を運行し100万人が利用した[3]

2006年、水素エネルギー開発研究所が水素と水を燃料とするエンジン(HAWエンジン)を開発し、世界35カ国で特許を取得。

2009年、広島市にマツダ・RX-8水素エンジン搭載車が納入される。マツダはフォードと提携している。

主要メーカー

東京都市大学

1970年武蔵工業大学(現在の東京都市大学)が日本で初めて水素燃料エンジンの運転を成功させ、1974年に同大学は水素エンジンを搭載した日本初の水素自動車の試作とデモ走行を実施、成功させた。10台の水素自動車を次々に開発、試作しており、開発した車両の中にはスズキ・セルボ(E-SS20)を改造した「武蔵3号」、日産・フェアレディZ(Z32)を改造した「武蔵8号」、トラック(日野・レンジャー)を改造した「武蔵7号」「武蔵9号」などがある。

最新の「武蔵10号」は1997年12月に行われた地球温暖化防止に関する京都国際会議(COP3)に出展された。これは日産・アベニールをベースとした実用車で、燃料は液体水素を使用しており100リットルのタンクを搭載している。4サイクルエンジンターボ過給、着火及び燃料噴射方式は、火花点火、電子制御低圧吸気管間欠噴射方式である。最高時速150km、走行距離は300km。現在は国家プロジェクトである「次世代低公害車開発促進プロジェクト」に参加し、フル電子制御エンジンの研究開発を行っている。

また同大学は2009年4月3日、日野自動車の協力で、水素燃料を活用した水素燃料エンジンバスの開発に成功したと発表。大気汚染原因物質である窒素酸化物二酸化炭素をほとんど排出しない環境対応バスとして普及拡大が期待される。日本自動車研究所の技術審査に合格し、水素燃料バスとして日本で初めて公道走行を可能にした。窒素酸化物排出量は従来のディーゼルエンジンに比べて約90分の1程度にまで抑えられており、またCO2を排出しない[4]

水素燃料エンジンバスの仕様概要


BMW
ファイル:BMW Hydrogen7.JPG
ハイドロジェン7
BMWは7シリーズをベースとして、水素とガソリンの双方を燃料に使用できるV12気筒レシプロエンジンを搭載した750hLを開発した。燃料として液体水素を使用したときの走行距離は約350kmである。
BMW H2RBMW760iのガソリンエンジンを原型としたバルブトロニックDouble-VANOSEnglish版技術を取り入れた排気量6.0リットルのV型12気筒エンジンを搭載している。この水素動力の高性能エンジンの出力はテンプレート:Convert/hpで187.62 mph (301.95 km/h)以上に到達する。[5]
ハイドロジェン7は上述の2車の成果を取り入れて開発された。
フォード
2001年、試験車両を発表した。
マツダ
ファイル:Mazda RX8 hydrogen rotary car 1.jpg
RX-8水素ロータリー車(2004年5月3日)
他社の水素自動車がレシプロエンジンであるのに対し、マツダロータリーエンジンを採用している。
2003年、東京モーターショーにおいて、マツダはRX-8を改良し、水素ロータリーエンジンを搭載したモデルを出品した。水素のみによる走行距離は約150km。
2004年11月、試験車両がナンバーを取得。公道上での試験走行が可能となった。燃料は、水素ガスとガソリンの2種類を切り換えて使用可能となっている。両燃料を合わせて約630kmまで走行距離を伸ばしている。
水素エネルギー開発研究所

2006年7月28日、国土交通省大臣認定を受け公道上での試験走行を開始した。試験車両は日産の市販車を改造したものである。このエンジンの特徴は、水素を直接燃焼させ、燃焼熱で水を蒸気にし(水蒸気爆発を起こさせ)運動エネルギーにするという点である。走行距離は約150km、最高時速は180kmである。

フレイン・エナジー

2008年2月、ガソリンと水素を混焼させる有機ハイドライド水素自動車を発表した。「有機ハイドライド水素」とは水素を結合した有機化合物で常温・常圧でも保存できる特徴がある。

Ronn Motor

2008年11月4日、米テキサス州のRonn Motor社は『H2GO』というリアルタイム水素供給システムを搭載した車両を発表した。水を電気分解して気体の水素を取り出し、ガソリンと混燃させることで燃費が向上し、エンジンからの排出物が減少するとしている。水素供給の為の貯蔵タンクなど特別なインフラを必要としない。Scorpionというスポーツカータイプで少量販売を行った[6]

課題

安全面

各国各社のメーカーが、総合熱効率に優れる燃料電池自動車の開発にしのぎを削っている現在、水素自動車は影の存在となりがちであるが、普及に当たって支障となる水素の取り扱いに関する問題点は燃料電池自動車と共有するものであることから、この点に関しては燃料電池車と歩調を合わせて開発、普及が進展してゆくものと考えられる。また、既存のエンジン技術を応用できるメリットがあり、エンジンを使って加速するというモーターでは得られない内燃機関独特の走行感は、燃料電池自動車とは違うマーケットを形成できるものとも言われている。

ヒンデンブルク号爆発事故のイメージなどから、水素は危険だというイメージがつきまとっている。だが実際はヒンデンブルク号は真っ赤に燃え上がっており、実際の事故原因は船体外皮の酸化鉄アルミニウム混合塗料(テルミットと同じ成分)によるものとされている。。しかしながら、水素は燃焼時に炎がほとんど見えず、爆発濃度域(燃焼範囲/爆発限界)が非常に広い。ガソリンの燃焼範囲が1.4〜7.6vol%であるのに対し、水素のそれは4.1〜71.5vol%である。それゆえ、引火の危険性が非常に高い。発火後の消火は容易でないことが予想される。

また水素の物性として分子が極小のため、シリンダーブロックなどを構成する金属中に拡散・浸透し、脆くしてしまう現象(水素脆化)、および、温度変化、衝撃、衝突時の車体変形などにも考慮した水素の車両への搭載方法に関する問題が挙げられる。また、水素レシプロエンジンでは、水素の燃焼速度が高いため吸気-圧縮過程で混合気が高温の点火プラグや排気バルブに接触した際に爆発が起こりやすく、ノッキングバックファイアーなどが起こりやすい(ロータリーエンジンは構造上、バックファイアーが起こりにくい)。このため、水素混合率を極めて低くする必要があり、ガソリンを用いた場合と比較すると、出力は50 %程度に留まる。更に、水素と空気の混合気を燃焼させた場合、二酸化炭素や硫黄酸化物は生成されないが、高温燃焼過程に酸素窒素が共存する結果、窒素酸化物が生成されるという本質的な問題がある。

コスト面

これらの点に加え、触媒レアメタルを使用する燃料電池を搭載しなければならない燃料電池自動車に対し、水素自動車は従来のエンジンを改良するだけでよいため、圧倒的に安価に仕上がるという利点もある。そのため、マツダが開発した水素とガソリンのハイブリッド自動車(RX-8 ハイドロジェンRE)の価格は、従来車よりも100万円程度高いもので済まされると予想されている。

燃料面

元々水素自動車が開発されるきっかけとなっていた、石油の精製過程の副産物として出てきた大量の水素ガスは、公害対策を理由として行われてきた精製設備の更新によって水素ガスが発生しないものへと変わってきている。 原料である水素の製造を伴うため、全体ではカーボンオフセットつまり環境性能の向上にあたらないとの見解は根強い[7]

インフラ面

このため、燃料の供給元となる水素ステーションインフラの整備というのも重大な課題となっている。

熱効率

燃料となる水素は、採掘によって得られる一次エネルギーとは異なり、水素源にエネルギーを与えて初めて得られる二次エネルギーである。現在、水素は天然ガスなどの改質によって工業生産されているが、前述のとおりエネルギーを消費するため、製造効率は60〜70%程度にとどまっている。一方、ガソリンおよび軽油の採掘・精製・運送(中東〜日本の場合)の熱効率は90%以上である。また、水素燃焼エンジン単体の燃焼効率は従来のエンジンと大差無いため、燃料の製造過程を考慮した総合熱効率はガソリンエンジンディーゼルエンジンよりも劣る。このため、水素燃焼型自動車の大量導入によって、単純に自動車用燃料を石油から水素にシフトさせても、結局はそれ以上のペースで天然ガスの消費を招き、二酸化炭素の総排出量が現状よりも増加するという見方がある。一方で、工業的に副産物として生成する水素を利用した場合には、廃棄物の再利用となる。現在、日本においては数百万台分の水素燃焼車の燃料を賄えるだけの水素が廃棄されているとされている。これらを回収・精製し、効率的に配分するインフラの構築が望まれている。

水素燃料タンク

燃料タンクについては、気体水素の密度が低く、高密度貯蔵が困難であることから、従来のガスタンク内圧(15 MPa程度)を大きく超える高圧タンクが開発されている。現在は炭素繊維複合材にアルミ合金ライニング(内張り)を施した35 MPa級高圧タンクが各所で開発され、燃料電池自動車で実用試験に供されている。DOE(アメリカ・エネルギー省)の試算によると、ガソリン車と同程度の走行距離を得るためには70 MPa級の高圧タンクが必要とされており、各研究開発機関がこの要求値を満たすタンクの開発をすすめている。これらのタンクはいずれも極めて高圧の水素をガソリン程度の安全性を維持して貯蔵する必要があるため、安全性保証のために、水素充填時のタンクをライフルで撃つガンファイアテストなどをクリアする強度を持たなければならない。

このような貯蔵密度の問題を回避するために、BMWGM、そしてGM傘下のオペルは液体水素タンクを開発し、実用評価を行っている。液体水素は極低温であるために、断熱対策が万全でないと貯蔵されている水素が気化する。BMWは、貯蔵開始後からボイルオフが始まるまでの時間を3週間程度まで延ばすことに成功している。さらに、事故などでタンクが破損した場合の危険性もガソリンと同程度か、ガソリンより低いと思われる。

水素吸蔵合金の性能が向上すれば、低圧で比較的穏和な水素供給が可能なタンクが開発されると考えられているが、現状では、吸蔵放出温度、吸蔵放出速度、吸蔵放出時の反応熱のやりとり、合金質量などの点において未解決の問題が多い。

その他の低公害車との比較

すでにエタノール、メタノール、液化天然ガスなどの燃料で低公害車は普及している。アルコール系燃料は技術的ハードルが低く、ブラジルでの普及やモータースポーツでの使用などもあり、安全性やインフラなどの技術も確立している。水素燃料はまったく二酸化炭素を出さないという環境面でのメリットがあるが、前述のように非常に沢山のデメリットがあり、それらが実用化を妨げている。

脚注

関連項目

外部リンク

テンプレート:Alternative propulsion