田舎

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田舎(いなか)は、都市都会(みやこ)などの対義語となる概念。

本項では田舎(いなか、: countryside, rural area)や田園(でんえん)、(ひな)や(ごう、さと)と呼ばれるものについて解説する。学術や政策においては、村落農村地域農山漁村地域多自然居住地域などの表現が用いられることが多い。これらの表現は、価値の置き方により使い分けられる。

都市と田舎

ファイル:La campagna-Petritoli-Marche.JPG
イタリアでは中世、の上に、城が築かれたり、有力者の邸宅を中心にして城壁に囲まれた小さな街が多数作られた。

「田舎」「鄙」「郷」とは、都会から離れた土地を意味する[1]、人口や住宅がまばらで辺鄙な地域を指す概念用語である。もう少し具体的に言うと、農村漁村山村離島などとなる。また、「田舎」は故郷を指す場合もある。

日本語では日本書紀万葉集には「田舎」の語が現れていた。

『鄙』という字は訓読みでは「ひな」と読み、「鄙びた地域」「鄙にはまれな」というように用いられている。又、『鄙』という字は「蔑む」という意味で用いられる例が多い(例:鄙夷、鄙棄、鄙視、可鄙)為に、『鄙』を嫌い、『郷』を用いる場合もある。

「田舎」という概念は、都市というものが出来てはじめて(対比的に)登場した。一般に、都会ではない場所、人口や住宅の少ない地域が田舎とされている。とはいえ、「田舎(地方)」と「都会(都市)」に二分するとしても、はっきりとそのような境界線があるわけではなく、線引きのしかたは様々ありえて曖昧である。

都市部の人口が飛躍的に増加するなど世界規模で都市化が進んでおり、都市周辺の「田舎」も都市文化へと吸収されるなど多様な文化が単一化しつつあるという指摘もある[2]

長所

  • 夏場、田舎の夏の夜は涼しく夕涼みが快適である。(対する都市部ではヒートアイランド現象により蒸し暑く寝苦しい夜が続く)
  • 家賃や地価が安い。住宅が比較的広めにゆったりと設計されていることが多い。広い付きの住宅も多い。
  • 田舎は大都市に比べ車社会の利便性が大きい。
    • (賃貸住宅で)駐車場が無料(または家賃に含まれる形)で貸し出される場合が多い。都市部と違って軽自動車の車庫証明も不要であり、結果として自動車(特に軽自動車)の維持費が安い。
    • 地域や時間帯にもよるが渋滞の頻度や信号が少なく、ドライブが快適。店舗や施設なども車社会を前提にしており、しばしば自動車でドア・ツー・ドアで用事を済ませられる。乗り換えは不要で、満員電車に乗らなくても済む。
  • 鉄道・バスが空いていることが多く、折畳み自転車やベビーカーが持ち込みやすい。三大都市圏以外の地方の列車やバスでは首都圏のように満員乗車が常態化している現象はみられない(だが近年は鉄道事業者の過度の合理化により編成車両数が削減され、ラッシュ時には詰め込み輸送に陥っている地方線区も出てきている)。
  • 林業漁業農業などに興味がある人にとっては、格好の職場が近くにある。
  • アウトドア活動が好きな人にとっては、それができるフィールドが近くにある。
  • 星空が美しく天体観測に向く。(都市部は空気が汚く光害もあり、星はほとんど見えない)
ファイル:Campo sfondo valle.jpg
イタリアモンテルポーネの民家、樹木、野原、ペットのたち
  • 大型犬などの大型動物を飼いやすい(都市部の集合住宅では小型犬や猫も含めペットの飼育が禁じられている物件のほうが多い)。
  • 人と人の「助け合い」がある。
  • スローライフを送りやすい。

短所

  • 雇用の選択肢は少ない。賃金も低い傾向がある。
  • モータリゼーションの負の面。交通困難地交通弱者買い物難民医療難民も参照。
    • 公共交通機関(バス、鉄道)の本数が多くて1時間1往復、田舎の中でもへんぴな地域では1日2-3往復程度と少なく、運賃も高いため、自動車を運転しない(できない)者はかなりの負担を強いられる。
    • 店舗の密度が低い。日々の買い物でかなりの距離移動することになる。
    • また近年モータリゼーションの要となるガソリンスタンドの廃業が相次ぎ、「ガソリン版買い物難民」の存在が指摘される。一部ではこれを(自宅で充電できる)電気自動車への追い風とする向きもあるようである。
  • 放送・通信において情報格差が発生することがままある。
    • 放送に関しては(道府県および市町村単位において)地上波民放のチャンネル数が少ない場所[3]がある。起伏の激しい山村では地形の影響で地上デジタル放送(地デジ)や衛星放送衛星波)が受信できない場合がある。ただし、地デジが受信できなくてもケーブルテレビによる代替で受信できる場合はある。
    • FTTHADSLのサービスをあまねく全市・町・村へ提供する、単一の事業者が存在しないことと、採算性の問題からインターネットへの高速接続のサービスが十分に受けられない。

文化と人口移動

都市へ

都市文化は進歩的あるいは近代的というイメージがもたれることが多い[4]

日本の場合は、飛鳥時代から奈良時代にかけて、藤原京平城京などの大規模な都市が初めて建設されたが、貴族層を中心として、これらの都市の住民の中に都市住民としてのアイデンティティが形成され、その裏返しとして、都市以外の地域や住民に対する優越意識(都市部を優先する意識)が生まれたことが、『万葉集』などから読みとれる。これにより、都市以外の地域を別世界、すなわち「田舎」と捉える概念が発生したと考えられている。『日本国語大辞典』によると、中古平安京の外側すべてが「田舎」とされていた、という。

鎌倉時代の文書には「叡山、園城、高野、京中、田舎」(『鎌倉遺文』12620号)と見え、「重要な地域」以外はすべて「田舎」と称されていたことがわかる。また、同時期の他文書によれば、京郊外や鎌倉、在地の荘園も田舎と認識されていた。17世紀初頭に成立した『日葡辞書』は五畿内以外を一般に田舎と呼ぶとしている。

都市文化の進歩的・近代的というイメージは人々を田舎から都市へと流入させる契機にもなっている[4]

国連の調査によれば、1,500人以上を擁する都市部の人口は、1900年代には世界の総人口の10分の1であったが、2000年代には世界の総人口の半分となり、2025年には世界の総人口の3分の2に達するとされている[2]

しかし、田舎から都市を目指した人々も、チリのCampamentoや、ブラジルファヴェーラなど都市の中心部からは離れてスラム街を形成している場合もある[5]。アフリカ最大の都市であるカイロでは数十万人が郊外の墓地で生活している[5]

田舎へ

ファイル:Paddy fields Japan 0884.jpg
日本の田園と古民家

ヨーロッパ(なかでもフランスなどでは)、夏季の長期休暇(バカンス)で、都市住民は田舎で暮らすということが定着している。

1980年代後半頃から、価値観の多様化が急速に進展し、それまで否定的な面ばかりが強調されていた田舎を見直す風潮が現れた。それが具現化したのは、1990年代後半頃から顕著となったグリーンツーリズムの動きである。これは、田舎の生活を「一時的に体験」する旅行を指しており、都会に流れた人口を、「移住」という形ではなく、観光という形で一時的に田舎へ呼び返そうという試みである。このような交流によって、変化に乏しく閉鎖的な田舎へ刺激を与えようという意図も含まれている。都市住民においても、多忙な都市生活から抜け出して、田舎を指向する傾向が強まってきており、十分に需要が存在している。

ヨーロッパでは、都市住民が夏季に長期休暇(バカンス)を取得し、田舎で暮らすという生活様式が定着している。日本のグリーン・ツーリズムは、こうしたヨーロッパの生活様式を導入しようという動きである。

1980年代頃より、都市から田舎へ回帰するUターン現象が現れた。

また、都市部で生活している人々が、自分の出身地とは別の田舎に移り暮らそうという動きも一部で見られ、これをIターン現象と呼ぶ。例えば、定年退職者で定年後に田舎を永住地とするよう本格的に農業を営みつつ暮らす人や、30~50代のうちに田舎で林業の仕事を始めつつ暮らす人、漁師の仕事を始める人、農業を始める人などがいる。最近では、人口減に悩む地方自治体が、全国のIターン希望者を視野に入れつつ、都市部での生活では受けられない様々な好条件(新築で現代的な鉄筋コンクリートの町営住宅などの格安提供や数年間の無料提供、医療の無料化、学校・教育費などの無料化、子育て支援費など)を高付加価値として提示しつつ、そのような生活を希望する人を募集することが行われるようになっている。


都市文化への吸収と単一化

世界的に都市文化への吸収と単一化が指摘されている[6]

都市に住む人口が増加して世界規模で都市化が進んでいることが一つの要因となっている[2]。また、都市は田舎の村落とは異なり自給自足で生活を維持し発展することはできず、郊外の田舎を都市に組み込みながら増殖するしかない[5]

都市化により従来存在していた文化の境界があいまいになり、多様性のない画一的な文化が出現しつつあるという指摘がある[7]

田舎や田舎暮らしをテーマにした作品・番組、田舎を舞台にした作品

書籍
  • ピーター・メイル『南仏プロヴァンスの12か月』河出文庫、1993年 ISBN 4309202098。 (KINDLE版、2013年、ASIN B00CJCLXY4)
番組
テレビゲーム、およびゲームの派生作品

田舎を舞台にした作品

日本の漫画やアニメ

ドラマや映画といった「実写」のメディアでは田舎が舞台の作品は多数制作されていたが、近年では漫画・アニメ[8]などで実在の田舎(またはモデルの地域)を舞台として描かれる作品も増えつつあり、作品の舞台が巡礼地域おこしの対象として注目されることもある。

テレビゲーム、およびゲームの派生作品

参考文献

  • 錦昭江「田舎」項(ことばの中世史研究会編『「鎌倉遺文」にみる中世のことば辞典』東京堂出版、2007)

脚注

  1. 広辞苑 第六版「いなか(田舎)」
  2. 2.0 2.1 2.2 伊佐雅子 編 『多文化社会と異文化コミュニケーション』2007年。
  3. もっとも、政令指定都市である仙台市新潟市静岡市浜松市広島市熊本市および近接する市・町・村でも民放が4局しか受信できないため、決して田舎特有の問題ではない(その他の県庁所在地や市・町・村でも、民放が3局以下の場合がある)。
  4. 4.0 4.1 伊佐雅子 編 『多文化社会と異文化コミュニケーション』2007年、98-99。
  5. 5.0 5.1 5.2 伊佐雅子 編 『多文化社会と異文化コミュニケーション』2007年。
  6. 伊佐雅子 編 『多文化社会と異文化コミュニケーション』2007年、97-101。
  7. 伊佐雅子 編 『多文化社会と異文化コミュニケーション』2007年、99-100。
  8. 漫画やライトノベルがテレビアニメ化されれば、ほとんどの作品が首都圏・関西圏のキー局独立U局(特にテレビ東京TOKYO MXなど)で、ローカル局より先行して放送されるため、視聴できる地域の住民から注目を集めることになるが、その反面、作品の舞台である「地元の局」で放送されることが少ない(放送に踏みきるとしても、キー局より数日以上遅れての放送になる)。

関連項目

oc:Campagne