カドミウム

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カドミウム: cadmium)は原子番号48の金属元素である。元素記号Cd で、いわゆる亜鉛族元素の一つ。安定な六方最密充填構造 (HCP) をとる。融点は320.9 °C。化学的挙動は亜鉛と非常に良く似ており、常に亜鉛鉱と一緒に産出する(亜鉛鉱に含まれている)ため亜鉛精錬の際回収されている。軟金属である。

カドミウムは体にとって有害(腎臓機能に障害が生じ、それによりが侵される)で、日本ではカドミウムによる環境汚染で発生したイタイイタイ病が問題となった。またカドミウムとその化合物はWHOの下部機関IARCよりヒトに対して発癌性があると (Group1) 勧告されている。

ホタテガイ中腸腺(ウロ)にはカドミウムが蓄積することが知られている。

性質

銀白色の軟らかく展性に富む金属であり、比較的さびにくく美しい金属光沢を持つが、湿気の多い空気中では徐々に酸化され灰色になり光沢を失う。塩酸および希硫酸などとは徐々に反応し無色の2価の水和カドミウムイオンを生成する。薄いアルカリ水溶液とはほとんど反応しない。

<ce>Cd\ + 2 H^+(aq) -> Cd^2+(aq)\ + H2</ce>

2価の水和カドミウムイオン Cd2+(aq) は多少加水分解して極めて弱い酸性 (pKa = 10.2) を示すが、その程度はよりイオン半径の小さい亜鉛イオン Zn2+(aq) より低い。カドミウムイオンはHSAB則では中程度のルイス酸として分類され、ヨウ化物イオンなどハロゲン化物イオンおよびアンモニアなどと錯体をつくりやすい。

沸点は金属元素としては水銀およびアルカリ金属についで低く、したがって蒸気圧が比較的高く、カドミウム蒸気は有毒である。

用途

ウッド合金の成分材料、顔料カドミウムイエロー・レッド・オレンジ等)、二次電池ニッカド電池)の電極などさまざまな工業製品に利用されているほか、中性子を吸収する性質から、原子炉の制御用材料にも使われている。

カドミウムはめっき材料として自動車関連業界で古くから用いられてきた。めっきが均質で、亜鉛よりはやや小さいイオン化傾向を持ち、犠牲電極として良好な性質を持つからである。また潤滑油とのなじみがよく、焼付きを防ぐ性質がある。やや黄色味がかっためっきは1960年代までのアメリカ車のエンジンルームでよく見られるものである。

後述するが、近年は毒性が懸念されて利用が忌避される傾向が強い。

化合物

一般に原子価酸化数)は2価が安定であるが、稀に不安定な1価 (Cd22+) 状態を取ることもある。塩化物および硫酸塩など強酸の塩は一般的に無色のものが多く水溶性であるがカルコゲンとの化合物は有色であることが多く極めて難溶性である。

同位体

代謝

カドミウムは人体に体重1kgあたり約0.7mg含まれると見積もられている。カドミウムは多くの生物種において蓄積性がみられ、ヒトでは体内に約30年間残留すると言われている。したがって、一度カドミウムに暴露されると、長期間その毒性にさらされる危険性がある。さらに、亜鉛と同族元素であるために、生体内での挙動も類似しており、カドミウム除去の際に、生体に必須な亜鉛をも除去してしまう可能性がある。

カドミウムの毒性については、関節が脆弱となるイタイイタイ病が大きな社会問題となった。さらに、慢性毒性では、肺気腫腎障害蛋白尿が見られる。腎障害では糸球体ではなく、尿細管が障害を受けると言われている。また、カドミウムは発ガン性物質としても知られている。これらの毒性の一部は、亜鉛と類似の生体内挙動を示すことから、亜鉛含有酵素のはたらきを乱すことによるものと考えられる。

これらの毒性に対する生体側の防御として、金属結合性タンパク質のメタロチオネインが誘導され、カドミウムを分子内に取り込み毒性を軽減している。

食物の汚染

カドミウムは亜鉛に伴って産出するため、公害への関心が薄かった時代には亜鉛の精錬過程で環境に放出され、精錬所の下流域の土壌に蓄積された。土壌中のカドミウムは、土壌のpHが中性からアルカリ性では難溶であるため吸収されにくいが、土壌の酸化条件によりイオンとして溶出し農作物に吸収、蓄積される。日本国内の土壌は大半が中性から酸性であるためカドミウムの溶け出しやすい環境であり、このため食物はカドミウムによる汚染を受けやすい状況にある。日本人は食事によって1日あたり26μg摂取していると見積もられている[1]

米をはじめとして食物には含有基準が設けられており、基準値以上のカドミウムを含む農作物は販売することが出来ない。食品衛生法上では玄米において1 ppmと規定され、これを超過したものは全て焼却処分となっている。また、食糧庁通達により玄米中0.4 ppm以上の検出がされた米については、食用にされず全て工業用に利用されていることになっているが、2008年に発覚した汚染米問題で明らかになったように、糊原料には小麦粉が用いられており米の工業用用途は確認されていない。

尚各国の含有基準は、台湾:0.5 ppm、韓国・中国・EU:0.2 ppm、タイ・オーストラリア:0.1 ppm。平成18年7月に開催されたコーデックス委員会総会において、国際基準が精米中0.4 mg/kgとされた。


国立がん研究センターによると、食品に含まれるカドミウムの長期摂取と、がん発症のリスクに明確な関連が見られないことが分かった。研究では、9府県の男女約9万人を対象に、喫煙や飲酒など、他のリスクを除いて、カドミウムの摂取量とがんの発症を調べた所、相関関係は見られなかった。理由として、食品に含まれるカドミウムの量が少ないことと、吸入ではなく摂取であることが考えられている[1][2]

脱カドミウムの動き

欧州では、カドミウムの人体への蓄積を防ぐため、カドミウムを含む製品の製造・輸入に関してRoHSとして知られる厳しい制限を課している。

2001年、ソニー・コンピュータエンタテインメントは、オランダ政府より、ゲーム機PS oneの周辺機器から基準値を超えるカドミウムを検出したとして対応策を求められた。配線の赤いビニール被覆の顔料にカドミウムが用いられていたのが原因である。ソニー・コンピュータエンタテインメントは欧州全域で100億円以上の費用を投入し、製品の回収と対策品の置き換えを余儀なくされた。

この出来事は、世界の電機部品メーカーに強いショックを与え、工業製品の生産現場からカドミウム離れが起こった。

前後して市販の二次電池も負極に水酸化カドミウム Cd(OH)2 を使用するニッケル・カドミウム蓄電池(いわゆるニッカド電池)からより大容量かつカドミウムを使わないニッケル・水素蓄電池リチウムイオン二次電池への転換が進められている。

歴史

1817年ドイツの科学者フリードリヒ・シュトロマイヤーによって、菱亜鉛鉱(炭酸亜鉛)から不純物として発見された[3]。名前は、ギリシャ語で菱亜鉛鉱を意味するカドメイア (Kadmeia) が由来。

出典

  1. 1.0 1.1 食事からのカドミウム摂取量とがん罹患との関連について 国立がん研究センター
  2. 『読売新聞』2012年4月30日付朝刊2面
  3. 桜井弘 『元素111の新知識』 講談社1998年、226頁。ISBN 4-06-257192-7 

関連項目

外部リンク

テンプレート:カドミウムの化合物