クスノキ

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クスノキ(樟、Cinnamomum camphora)とは、クスノキ科ニッケイ属常緑高木である。一般的にクスノキに使われる「楠」という字は本来は中国タブノキを指す字である。別名クスナンジャモンジャ(ただし、「ナンジャモンジャ」はヒトツバタゴなど他の植物を指して用いられている場合もある)。

暖地で栽培される変種としてホウショウがある。食用となるアボカドや、線香の原料となるタブノキ樹皮香辛料などに利用されるセイロンニッケイ(シナモン)は近縁の種である。

特徴

周囲10m以上の巨樹になる個体も珍しくない。単木ではこんもりとした樹形をなす。木肌は綿密で、耐湿・耐久性に優れている。はつやがあり、革質で、先の尖った楕円形で長さ5-10cm。主脈の根本近くから左右に一対のやや太い側脈が出る三行脈である。その三行脈の分岐点には一対の小さな膨らみがあり、この内部に空洞があって葉の裏側で開口している。これをダニ室という(後述)。4月末から5月上旬にかけて大量に落葉する。

5月から6月にかけて、白く淡い黄緑色の小さなが咲く。10月から11月にかけて、直径7-8mm程度の青緑色で球形の果実が紫黒色に熟す。が食べて種子散布に与るが、人間の食用には適さない。中には直径5-6mm程度の種子が一つ入っている。

各部全体から樟脳の香りがする。樟脳とはすなわちクスノキの枝葉を蒸留して得られる無色透明の固体のことで、防虫剤医薬品等に使用される。カンフル注射のカンフルはこの樟脳を指しており、クスノキが英語でcamphor treecamphorwoodcamphor laurelと呼ばれるように“camphora”という種名にもなっている。

生育地

世界的には、台湾中国ベトナムといった暖地に生息し、それらの地域から日本に進出した。(史前帰化植物)

日本では、主に、本州西部の太平洋側、四国九州に広く見られるが、特に九州に多く、生息域は内陸部にまで広がっている。生息割合は、東海・東南海地方、四国、九州の順に8%、12%、80%である。人の手の入らない森林では見かけることが少なく、人里近くに多い。とくに神社林ではしばしば大木が見られ、ご神木として人々の信仰の対象とされるものもある。

日本最大のクスノキは、鹿児島県蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」(幹周24.2m)で、幹周の上では全樹種を通じて日本最大の巨木である。また、徳島県三好郡東みよし町には、1956年7月19日、文化財保護法により特別天然記念物に指定された大クスがあり、これは樹齢数千余年と推定され、根回り19メートル、目通りの周囲約13メートル、枝張りは東西経45メートル、南北経40メートル、高さ約25メートルである(執筆委員会・監修 金沢 治.『三加茂町史 復刻版』.三加茂町.1973.p.1277)。

他に、特にクスノキが多い神社として、福岡県宇美八幡宮(国指定2本/県指定25本、幹周5m-9.9m 9本、10m-14.9m 1本、15m以上 2本)、愛媛県大山祇神社(国指定38本/県指定1本、幹周5m-9.9m 10本超、10m-14.9m 2本、15m以上 1本)が挙げられる。

台湾には和社神木という世界最大級のクスノキがあり、幹周16.2m、樹高44mを測る。この樹は太い主幹が20m以上も立ち上がる他にあまりない樹形をしている。

利用

全体に特異な芳香を持つことから、「臭し(くすし)」が「クス」の語源となった。「薬(樟脳)の木」が語源とする説もある。またそのことや防虫効果から元来虫除け(魔除けアジア圏では古来から虫()は寄生虫病原菌などの病魔を媒介すると考えられていた)に使われたくす玉(楠玉)の語源であるという説もある。材や根を水蒸気蒸留し樟脳を得る。そのため古くからクスノキ葉や煙は防虫剤、鎮痛剤として用いられ、作業の際にクスノキを携帯していたという記録もある。また、防虫効果があり、巨材が得られるという長所から家具飛鳥時代仏像にも使われていた。

枝分かれが多く直線の材料が得難いという欠点はあるが、虫害や腐敗に強いため、古来から船の材料として重宝されていた。古代の西日本では丸木舟の材料として、また、大阪湾沿岸からは、クスノキの大木を数本分連結し、舷側板を取り付けた古墳時代の舟が何艘も出土している。その様は、古事記の「仁徳記」に登場するクスノキ製の快速船「枯野」の逸話からもうかがうことができる。室町から江戸時代にかけて、軍船の材料にもなった。

クスノキの葉は厚みがあり、葉をつける密度が非常に高いため、近年交通騒音低減のために街路樹として活用されることも多い。

ダニ室について

クスノキの葉に2つずつ存在するダニ室には2形があり、入り口の大きいものと小さいものがある。入り口の大きい方にはケボソナガヒシダニという捕食性のダニが住み込んでおり、これがクスノキの葉を害する植食性のダニを補食することでクスノキを守っていると考えられる。他方で入り口の小さい方には植食性のフシダニの一種が生息している。これはもちろんクスノキから栄養を吸収するものの、それ以上の害を与えることはない。ダニ室で増殖したフシダニは少しずつダニ室の外に溢れ、これをダニ室には侵入できないサイズの捕食性のダニが捕食することでクスノキの樹上には常にフシダニ捕食性のダニが一定密度で維持されている。特にコウズケカブリダニがこれに働いているらしい。このダニ室を人為的に塞いでダニ室のフシダニやコウズケカブリダニを排除すると、クスノキにとって有害な虫えいを形成するフシダニが増殖し、多くの葉がこぶだらけになることが知られている。従って、クスノキの葉のダニ室はクスノキに病変を引き起こすフシダニの天敵の維持に役立っていると考えられている。それも片方では捕食性ダニのシェルターを提供することで、もう片方では捕食性ダニの餌になる植食性ダニを育て捕食性ダニを常駐させることでこれを行っているとみられる。この後者の方法はクスノキの研究で初めて発見されたものである[1]

自治体・大学の木

日本国内

県の木

市・特別区の木

行政区の木

町の木

村の木

大学の木

国外

県の木

出典

  1. 笠井(2006)なお、この時点ではフシダニの種名は確定していないらしく、ダニ室内外の種をそれぞれフシダニsp.1、フシダニsp.2と記するのみである。

参考文献

  • 矢野憲一・矢野高陽 『楠(くすのき)』 法政大学出版局(ものと人間の文化史)、2010年
  • 笠井敦、「クスノキとそのダニ室内外で観察されるダニ類の相互作用に関する研究」、2006、京都大学農学部学位論文

関連項目

外部リンク