ゴボウ

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ゴボウ

ゴボウ牛蒡または牛旁、悪実、: Burdock、学名: Arctium lappa L. )は、キク科多年草ユーラシア大陸原産。大阪弁では「ごんぼ」と呼ぶ[1]

特徴

日本で自生はしていないが、縄文時代の遺跡からは植物遺存体として確認されており、縄文時代か平安時代に日本に伝わったともいわれる[2]。日本人が食すようになったのは江戸時代から明治にかけてであり、根や葉を食用とする。茎の高さは1mほど、主根の長さは品種にもよるが50cm〜1mほどある。花期は6〜7月。紫色のアザミに似た総苞にトゲのある花を咲かせる。

大別すると長根種と短根種がある。栽培の主流となっているのは長根種の「滝野川ごぼう」とその改良種であり、収穫時には直径3センチ、長さは1メートル前後となる。一般に関東は長根種が多く、関西では短根種が多い。ゴボウは連作を嫌うため、同じ畑では2-3年後でないと作れない[3]

利用

食用

日本ではを食用としてきんぴら天ぷらかき揚げなどに使われるほか煮物に用い、近年では細切りにした根を湯がいてサラダにもする。旬は初冬で、新ゴボウは初夏となる。柳川鍋には欠かせない食材とされる。

根は、日本の他、日本が統治していた朝鮮半島台湾中国東北部の一部以外では食材としない。太平洋戦争中に英米人捕虜がゴボウを「木の根」だと思い、木の根を食べることを強要し虐待されたとして、戦後、日本人将兵が戦犯として裁かれたこともあった(下記)。

ゴボウにはポリフェノールであるクロロゲン酸が豊富に含まれている。クロロゲン酸は、ゴボウを水にさらしたときに出てくる茶褐色の成分であり、コーヒーにも含まれ、抗酸化作用がある。ゴボウを長く水にさらすとクロロゲン酸が失われてしまうので、「皮はむかない」「水にさらさず、すぐ調理する」「大きめにゴロンと切る」ことがゴボウ調理の三大新常識となっている[4]

ゴボウは、食物繊維、特に水溶性食物繊維が豊富であり[5]イヌリンが水溶性食物繊維の主体を成している[6]。また長期冷蔵すると、このイヌリンが分解され糖化することで甘味が出るという[7]

なお、アザミの根もヤマゴボウ[8]キクゴボウ菊ごぼうという名前で食されることがある[9]

薬用

欧米ではを薬用としてハーブ(バードックと呼ばれている)として用いられている。また、ゴボウは生薬漢方薬に用いられ、利尿発汗、血液浄化、皮膚疾患ニキビ湿疹乾癬)の薬の材料としても使われている[10][11]

日本には薬草として中国から伝来。薬草としては発汗利尿作用のある牛旁根(ごぼうこん、: Burdock Root)のほか、浮腫、咽頭痛、解毒に用いる種子悪実(あくじつ)、または牛旁子(ごぼうし))を用いる。日本では乳腺炎に種をそのまま食べるか、煎じる使用法も有効として民間に口伝で知られる。繊維質が多く、便秘予防に効果があるとされる。大腸がん・直腸がん予防に効果があるとするむきもあるが、これは正確ではなく、現在のところでは試験管レベルの実験で酸素状態の悪い成長した大腸がんの細胞に対して選択的に倍加した毒性を発揮する性質があるとされている[12]

ゴボウの根の部分を野菜として利用するのは日本と朝鮮半島だけの特徴であり、先述のように葉の部分を野菜として、根や種の部分を漢方薬として使用されることが多い。

アレルギー

キク科植物に対しアレルギー性を有している場合は、注意が必要である[13]

ゴボウが関連する言葉

  • ごぼう抜き - リレー走駅伝競走などで、後方からほかの選手を一気に抜き去ること、または、多数抜き去ることをごぼう抜きと言うことがある。『広辞苑』(第5版)には、「(牛蒡を土中から引き抜くように)一気に抜きあげること。」とある。なお、「ごぼう抜き」という言葉には、座り込みなどを行う人物を力ずくで排除するという用法もある。
  • ごんぼ(牛蒡)掘り - 青森県の方言に「ごんぼほり」(牛蒡掘り)というのがある。ぐずぐず不平を言って譲らない、酔ってくだを巻く(時に居座る)、強情である、ふてくされる(特に子供)、といった態度(あるいはそのような態度の者)ぐらいの意。なだめたり、お引き取り願うことはゴボウを「掘る」ことと同じくらい難儀であることから、であろうか。秋田県にも同様の言い回しがあり、秋田のローカルヒーローである「超神ネイガー」には「ゴンボホリー」という悪役が登場する。
  • 太平洋でごぼうを洗う - 男女の性交において、女性のの締め付けがゆるいと同時に、男性の陰茎が細いため、男女とも十分な満足感が得られないたとえ。
  • 牛蒡剣 - 三十年式銃剣の俗称。
  • 牛蒡積み - 石垣の工法の一つで、野面積みの一種。奥行きのある石を短径面が外側になるように積んでいく工法で、名称の由来は石の積み方がゴボウの束を積み重ねたようであるため[14]大洲城若松城彦根城松江城などで見られる。

食文化の違いによる誤解

太平洋戦争時の捕虜虐待とゴボウ

ゴボウにまつわる食文化の違いがもたらした悲劇的な逸話として、「戦時中、外国人捕虜にゴボウを与えたところ、木の根を食べさせられたと誤解され、戦後にBC級戦犯として虐待の罪で処罰された」というものがある。1952年昭和27年)12月10日に行われた第15回国会参議院法務委員会法務省保護局長齋藤三郎が行った米国派遣報告では

裁判のときには相当国情が違い、日本の事情を知らない人が裁判をしたため不当と言えば不当と言える裁判があるのだ。一例としては、俘虜収容所の所員が、終戦真際食糧が非常に不足している。併しこれに対してできるだけいい食物を与えたいというのでごぼうを買つて来て食わした。その当時ごぼうというのは我々はとても食えなかつたのだ。我々はもう大豆を二日も三日も続けて食うというような時代で、ごぼうなんてものはなかなか貴重品であつた。そのごぼうを食わしたところが、それが乾パン代りに木の根を食わして虐待したというので、五年の刑を受けたという、こういう例もある

と述べている[15]。また、翌1953年(昭和28年)7月2日の参議院厚生委員会では日本社会党藤原道子が「ごぼうを食べさしたものを木の根を食べさせたのだということで二十五年の禁錮を受けておる」と発言している[16](ただし、量刑が異なっている)。漫画 『はだしのゲン』でも「捕虜にヤマゴボウを食べさせて25年の重労働を課された」とあり、映画『私は貝になりたい』では「ゴボウを食べさせて5年の懲役を受けた」という話が出てくる。

新潟県直江津町(現上越市)にあった東京俘虜収容所第4分所の所長らが、終戦後、収容されていたオーストラリア人捕虜達から「木の根を食べさせられた」という告発を受け、うち所長を除く8名が横浜裁判で絞首刑となった(直江津捕虜収容所事件[17])。また、長野県下伊那郡天龍村にあった東京俘虜収容所第12分所(満島捕虜収容所)に勤務していた警備員1名が無期懲役の判決となり、その裁判中にゴボウを食べさせたことが虐待として扱われた[18]相馬暁は1996年の著書の中で「アメリカ人捕虜にゴボウを食べさせたために、昭和21年に、横浜の戦犯裁判で捕虜収容所の関係者が、二人が死刑、三人が終身刑、二人が十後年以上の有期刑の判決を受けた」と述べている[19]。また、村山有が捕虜にゴボウを差し入れたことを理由に戦犯容疑者としてGHQに逮捕された[20]。このほか東京裁判時の弁護団だった清瀬一郎は「ある捕虜収容所」のケースとして「牛蒡をオックス・テイル(牛の尾)、豆腐をロツン・ビーンズ(腐った豆)と誤訳したため、捕虜から不満が出た」と述べている[21]

参考画像


脚注

  1. 札埜和男『大阪弁「ほんまもん」講座』新潮社、2006年、p96
  2. 日立 世界・ふしぎ発見!」 2010年5月22日放映
  3. 講談社編 2004, pp. 50-53.
  4. 「ゴボウの新常識、アク抜き最低限に、抗酸化成分を保つ」2005.11.26 日本経済新聞
  5. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「mext7」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  6. 牛蒡ノ成分ト「ヂフテリー」毒素ノ関係、肥田 音市、片山、細菌學雜誌、Vol.1908 (1908) No.146
  7. ガッテン! - 「ザ・食物繊維!ごぼうがコクだし調味料に早変わり」2017.6.21 NHK
  8. 標準和名としての「ヤマゴボウ」はヤマゴボウ科ヤマゴボウ属の一種Phytolacca esculentaの和名である。
  9. kotobank > キクゴボウとは。株式会社日立ソリューションズ。
  10. Chan Y.-S., Cheng L.-N., Wu J.-H., Chan E., Kwan Y.-W., Lee S.M.-Y., Leung G.P.-H., Yu P.H.-F., Chan S.-W.,"A review of the pharmacological effects of Arctium lappa (burdock)" [Article in Press] Inflammopharmacology 2010
  11. Herbal Medicine From Your Garden”. Herbal Medicine From Your Garden. . 2012閲覧.
  12. [1] (PDF) (2010年12月16日時点のアーカイブ
  13. 流行中の「ゴボウ茶」、副作用報告があるなんて! 日経メディカルオンライン 記事:2012年6月8日
  14. 石垣の分類
  15. 参議院会議録情報 第015回国会 法務委員会 第4号”. . 2012閲覧.
  16. 参議院会議録情報 第016回国会 厚生委員会 第7号”. . 2012閲覧.
  17. 上坂冬子『貝になった男 直江津捕虜収容所事件』1986年、文春文庫1989, p.136
  18. 1996年11月10日朝日新聞連載記事『地球・食材の旅』。ただし、この警備員はまもなく釈放されたといい、実際に本人に取材を行ったがこの話については語ってくれなかった、と述べられている。
  19. 1996年『野菜学入門』
  20. 飯田正孝信濃毎日新聞記者による報告、松本高麗大学Asi-Pon第30号(1993年12月8日)[2]
  21. 『秘録東京裁判』(中公文庫)

参考文献

  • 講談社編 『旬の食材:秋・冬の野菜』 講談社、2004年ISBN 4062701367 

関連項目