モンスターペイシェント
モンスターペイシェント(モンスター患者、怪物患者などとも)とは医療従事者や医療機関に対して自己中心的で理不尽な要求果ては暴言・暴力を繰り返す患者や、その保護者等を意味する和製英語である。教育現場で教師に理不尽な要求をつきつける親を“怪物”に喩えて「モンスターペアレント」と呼ぶのと同様、医療現場でモラルに欠けた行動をとる患者をこのように呼ぶようになっている。
背景
医学・医療技術の進歩に伴い様々な病気の治療法が見つかり、治療されている。しかしながらまだ全ての病気を治癒させることができるわけではない。また結核のように、治療法が発見されている病気でも死に至ることがある。
しかし、医療知識が乏しい一般人は「病院に行けばすぐに治る」「薬を飲めば(つければ)すぐに治る」という希望ないし過度の期待を抱きがちである。自分のイメージした治癒にならない場合に病院や医療従事者に対して強い不満をぶつけたり理不尽な要求を繰り返す患者が増え始め、社会問題化している。
また医師法第19条には医療機関に患者の診療義務を課すいわゆる「応召義務」が規定されているが、その結果病院は度を越した行動をとる患者に対しての毅然とした対応をとりにくく、病院に診療拒否権がないことを盾にとる患者が増加していることもモンスターペイシェントの増加の背景になっているとの指摘がある[1]。
マスコミで医療事故が大きく扱われ患者の権利が声高に叫ばれ、病院で患者が「患者様」と呼ばれるようになった時期にこうした患者は増え始めたという[2]。小説家・医師の久坂部羊は「病院がまちがったことをしたら許されないが、患者はまちがったことをしても許される、という風潮が蔓延しているのではないか。一部の不心得な自称社会的弱者がこれを悪用し、理不尽な要求を押し通そうとする」と論評している[3]。
影響
モンスターペイシェントの対処に追われ医師・看護師などの医療従事者や対応した事務員などが精神的に疲れ果て、病院から去ってしまうなどして医療崩壊の一因となっている[4]。また、医療費の不払いという問題も出てくる。
対策
警察OBを職員に雇い患者への応対に当たらせる、暴力行為を想定した対応マニュアルを作成する、院内暴力を早期に発見・通報するため監視カメラや非常警報ベルを病棟に設置するなどの対策をとる病院が増加している[5]。
海外の例では「コード・ホワイト」なる院内放送にて患者の暴言・暴力への緊急対応を呼びかけ体格のいい看護助手チームが興奮する相手と交渉し、必要に応じてけがをさせずに押さえつけるなどの方策をとっている病院もある[6]。
国内においても、「コード・ホワイト」を導入した病院の例があり、放送により、関連スタッフが現場に駆けつけるシステム整備のほか、警察とのコミュニケーションを積極的にとり、防犯セミナーの開催や護身術の指導などを行っている[7]。
具体例
- 医師から兄への治療法の説明の場に同席し執拗な質問を繰り返し、医師に無料で長時間の時間外労働を強要する[8]。
- 緊急性のない蓄膿症で夜間に救急外来を受診し、緊急CT検査と同日の結果説明を強要する[9]。
- かつて厚生省が医療機関に奨励した「●●様」という患者の呼び出し方が過度なお客様意識を患者に与えたとの反省から、医療機関が独自の判断で「●●さん」という呼び方に変更する動きが静かに広がっている。また番号での呼び出しもプライバシー保全と両立できるため、導入している医療機関も多い。
- マスコミの医療機関への偏向報道が、所謂B層を中心に、過剰な権利意識もつ患者を増殖させているという指摘も一部にある。
脚注・出典
- ↑ 暴言患者、拒めぬ医師「診療義務」法の壁(読売新聞 2007年10月10日)
- ↑ 【溶けゆく日本人】蔓延するミーイズム(7) 疲弊する医療現場(産経新聞 2008年2月13日)
- ↑ 【断 久坂部羊】モンスター弱者の弊害(産経新聞 2007年11月28日)
- ↑ 「いのち見つめて地域医療の未来:第6部医療と向き合う:29:委縮する現場:一部患者が医療浪費」、『日本海新聞』、2007年11月18日記事、2009年3月17日閲覧
- ↑ 横暴な患者に病院苦悩…暴力430件 暴言990件(読売新聞 2007年8月19日)
- ↑ 医療従事者を暴言・暴力から守る カナダのマギル大学附属病院の取り組み
- ↑ 「警察OB&トラブルバスターが直言 院内暴力・難クレームにはこう対応する」日経ヘルスケア 2008年9月号
- ↑ 毎日新聞 2009年2月6日
- ↑ 毎日新聞奈良版 2009年11月12日
関連項目
外部リンク
- 患者の暴力深刻 全国の病院半数以上で被害(産経ニュース 2008年4月13日)
- 院内暴力 医療崩壊の現場から(日経ビジネス 2008年3月4日)
- 勤務医の疲弊、患者にも原因(CBニュース 2008年2月27日)
- 「外患」 暴力・訴訟 しぼむ熱意(朝日新聞 2008年2月13日)
- 患者は“神様”? 悲鳴を上げる勤務医(日経ビジネス 2008年2月4日)
- 「モンスターペイシェント」にムカっ!(日経メディカル 2007年12月26日)
- 患者の暴言、暴力、無理難題 医療者だって…つらい 「ホンネと悩み」調査(産経新聞 2007年12月5日)
- いのち見つめて 地域医療の未来 第6部 医療と向き合う(29)委縮する現場(日本海新聞 2007年11月18日)
- 【溶けゆく日本人】快適の代償(2)“怪物”患者「治らない」と暴力(産経新聞 2007年11月14日)
- (2)患者の「院内暴力」急増(読売新聞 2007年5月1日)