日本の中高一貫校

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日本における中高一貫校(ちゅうこういっかんこう)には、複数の形式の中高一貫教育が存在する。

従来から存在するのは、中学校から無試験あるいはそれに近い形で併設・連携の高等学校に進学できるシステム(エスカレーター式)を取り、学校運営が一体化され、もしくは連携をして6年間一貫の教育が行われている中学校および高等学校である。

また、1998年平成10年)6月の学校教育法改正により中等教育学校が新設され、これは中学校課程に相当する前期中等教育と、高等学校課程に相当する後期中等教育を一貫して行う学校である。

概説

従来から同一の学校法人が設立する私立中学校および高等学校において、中学校と高等学校のスムーズな連携を志向して中高一貫化は行われてきた。中等教育の多様化を図った1998年の学校教育法改正で制度化されて以降、公立の中高一貫校も徐々に作られてきている。

また、一部では小中高一貫校を作ろうという動きもある(早稲田大学系属早稲田実業学校初等部・中等部・高等部玉川学園小学部・中学部・高等部開智小学校・中学校・高等学校 (埼玉県)奈良学園小学校奈良学園登美ヶ丘中学校・高等学校ぐんま国際アカデミー初等部・中等部・高等部江戸川学園取手小学校・中学校・高等学校2014年4月茨城県取手市江戸川学園取手中学校・高等学校に併置される形で、取手市立野々井中学校の跡地に江戸川学園取手小学校が開校)、洛南高等学校・附属中学校・附属小学校(2014年4月に洛南高等学校・附属中学校に併設される形で、京都府向日市洛南高等学校附属小学校が開校)、日本大学藤沢小学校・中学校・高等学校2015年4月1日神奈川県藤沢市日本大学藤沢中学校・高等学校に併設される形で日本大学藤沢小学校が開校)など)。なお、田園調布雙葉学園小学校・中学校・高等学校田園調布雙葉中学校・高等学校へ入学は、田園調布雙葉幼稚園に入園し、または田園調布雙葉小学校に入学した者に限られる)のような完全小中高一貫校もすでに存在する[1]ほかに、聖心女子学院初等科・中等科・高等科(聖心女子学院中等科・高等科への入学も、2014年度以後は聖心女子学院初等科に入学し、または聖心女子学院初等科の第5学年に転入学もしくは編入学した者に限られる)も完全小中高一貫校になった[2]

歴史的な観点から見ると、旧制中学校(5年制)が、新制高校に移行する過程で併設された新制中学と連続して教育を行う、旧学制の名残りということもできる[注釈 1]

本来、中等教育学校の場合は途中で外部に出ることを想定しなくてもよいが、中学校は卒業時点で内部進学以外の進路も取れるような対応がなされていることが望ましい。

中高一貫校には、高校からも外部からの生徒募集を行う学校と、行わずに併設中学校の卒業生のみをそのまま入学させる、完全中高一貫校がある[注釈 2]。近年の傾向としては完全中高一貫校への移行が多い。完全中高一貫校は実質的には中等教育学校と形態はほぼ変わらないが、完全中高一貫校が中等教育学校へと移行する動きは見られない。その理由は、高等学校からの生徒募集を行わず、完全中高一貫教育を行う私立の中高一貫校が少なくないことが考えられる。私立の完全中高一貫校の場合、わざわざ中等教育学校に改める必要はないからである[3]

法制面での分類

1998年の学校教育法改正に伴い、中高一貫教育が制度化された。中高一貫校は法制上、以下に分類することができる[4]

中等教育学校

中等教育6年間を一体のものとして教育を施す学校。うち、中学校に相当する3年間を前期課程、高等学校に相当する3年間を後期課程と呼ぶ。

前期課程を修了したものには中学校を卒業したものと同じ資格が与えられる。また、前期課程を修了した後、他の高等学校や高等専門学校などを受験する道は閉ざされていない。併設型・連携型中高一貫教育校とは異なり、後期課程開始時点で大規模に生徒の編入を募集することは通常ない。

6年間一貫教育が可能であるため、前期課程・後期課程間で学習指導要領に指定されている内容の一部入れ替えや先取り等が教育課程の特例として認められており、これに基づき教育内容の整理・精選が可能となる。

設置例

併設型中高一貫教育校

同一の設置者が中学校と高等学校を併設し、接続して中高一貫教育を行うもの。中学校の卒業者は無試験で高等学校に進学することができる。これに加えて、外部からの高等学校入学希望者に対して入学試験を行うことも可能である。

基本的に併設されている中学校の生徒はそのまま高等学校に進学するが、他の高等学校や高等専門学校などを受験する道は閉ざされていない。

中等教育学校と同様に教育課程の特例が認められている。

設置例

連携型中高一貫教育校

そもそも学校として一体となっている中等教育学校、設置者が同一である併設型中高一貫教育校とは異なり、異なる設置者間での設置が可能である。一つの高等学校に複数の中学校、あるいは複数の高等学校に一つの中学校が対応していることもある。

連携中学校から連携高等学校への選抜は調査書および入学試験によらない簡便な方法で実施することが可能である。また、連携していない中学校からも一般の入試で受験することができる。連携中学校から他の高等学校や高等専門学校などへの進学も可能である。

中学校の教師が高等学校で授業を受け持ったり、高等学校の教師が中学校の授業に参加し、中学校の教育内容の理解を深めたりする。また、中学校と高等学校が合同で部活動を行ったり、芸術鑑賞会を合同で鑑賞したりして生徒同士が交流を深めている。

ただし、他の高等学校などに進学する者や連携中学校以外から入学してくる生徒がいるため、中等教育学校・併設型中高一貫教育校に比べ大幅なカリキュラムの変更ができないという欠点がある。

主に、地域と結びつきの強い高等学校とその地域の中学校が連携して取り組む。

設置例

中高一貫教育制度に基づかない中高一貫校

1998年以降に制度として導入された中等教育学校および併設型・連携型中高一貫教育校は届出等の手続が必要になる代わりに教育課程の特例が認められている。一方、教育課程の特例は認められないものの、私立や国立の中学校・高等学校を中心に、それ以前から実質的な学校運営の一体化および中高一貫教育を独自に行っている学校は多い[5][6]

設置例

高等学校入学者の扱いにおける分類

中高一貫校は、高等学校時点からの入学者をどのように扱うかによって分類することもできる。この項目では、『平成12年度版 全国 注目の中高一貫校』(学習研究社1999年8月発行)の「第1部 「中高一貫校」これだけは知っておきたい!」のうち「中高一貫校タイプ別分類(システム編)」(pp.30-33)で記載されている内容に基づいて記載する。

完全中高一貫校

完全中高一貫型の学校では、高等学校での生徒募集を行わない。中等教育学校は原則としてこの形を採るし、中学校と高等学校を併設する種の中高一貫校(制度上の併設型中高一貫教育校であるかは問わない)にもこの種の学校はみられる。ただし、高等学校での生徒募集数を欠員補充程度にしたり、若干名の帰国子女などの通学圏外からの転居者を受け入れる準完全一貫制の中高一貫校(準完全中高一貫校)もある。

完全中高一貫校のメリットは、前掲の「1 完全一貫型」(p.30) に次のように記載されている。

中高完全一貫校のメリットは学習指導だけでなく、情操教育やしつけ教育なども、6年間の長いスパンのもとに、効率的に行えることにある。特に学習指導の面では、中高6年間にわたる学校独自のカリキュラムを編成して、無駄のない学習指導を行っている。

併設型中高一貫校(別クラス型)

別クラス型の中高一貫制の学校では、高等学校から入学した生徒と中学校から入学した内部進学の生徒とは、3年間別クラスになる。

前掲の「2 別クラス型」(p.31) には、次のように記載されている。

別クラス型一貫校とは、中学校を卒業した内部進学生(以下内進生)が高校に進学する際、高校から入学してくる外部進学生(以下外進生)とクラス編成を別にするもので、内進生は高校卒業まで外進生とは別のクラスで授業を受ける。つまり、中学から入学した生徒は、高校では持ち上がりクラスになり、6か年一貫のカリキュラムに従って学習する。

内進生と外進生の学習進度の違いを考慮して生まれてきた合理的なシステムであるともいえる。

併設型中高一貫校(混合型)

混合型の中高一貫制の学校では、中学校から入学した内部進学の生徒と高等学校から入学した外部進学の生徒を混合する時期が、高等学校第1学年から、高等学校第2学年から、高等学校第3学年からの3つのパターンに分類される。

前掲の「3 混合型」(p.32) の「混合する時期に3パターン」には、次のように記載されている。

中高一貫進学校のうち、60%以上の学校が、内進生と外進生を一緒にクラス編成をする混合型を採用している。混合する学年は、高1から、高2から、高3からの3タイプがある。

混合型で気になるのは、内進生と外進生の学習進度の違いをどうするかという問題であるが、高2からの混合型が最も多いのもその辺の事情をあらわしている。

高1から混合する場合でも、高1の数学は内進生と外進生は別クラス、高1の英語・数学・物理と国語の一部は別授業といったように進度差の大きい教科においては別授業を行う学校が少なくない。

また、外進生に対して放課後補習や夏休みの補習などによって内進生の進度に追いつくようにしている学校もある。

高等学校から第3学年から、中学校から入学した内部進学生と高等学校から入学した外部進学生を混合する場合は、高校入学後最初の2年間は内進生と外進生は別クラスになるほか、高等学校第3学年の生徒は学年の途中で満18歳の誕生日を迎え、国連子どもの権利条約第1条本文による子どもではなくなるとともに、中高一貫校に相当するドイツギムナジウム (Gymnasium) の上級段階(第11学年~第13学年)については、第11学年(日本の高等学校第2学年・中等教育学校第5学年)では学級単位で授業が行われるが、第12学年(日本の高等学校第3学年・中等教育学校第6学年)・第13学年(日本の大学教養部)では共通の授業集団としての学級が廃止され、生徒が選択した教科毎に授業集団が形成される[7]以外に、高等学校第3学年は旧制高等学校高等科若しくは大学予科の第1学年又は旧制専門学校高等師範学校若しくは女子高等師範学校の第1学年に相当する[8]ことから、高校3年からの外部混合については、準別クラス型の併設型中高一貫校に分類されることもある。

教育区分

中高一貫校の6年間を3つ以上の教育区分を設定している。一般的には、中学校の第1学年および第2学年を前期、中学校第3学年および高等学校第1学年を中期、高等学校の第2学年及び第3学年を後期に区分している2-2-2制(6年間を2年ごとに基礎・充実・発展の3つに区分)を採用している[9]。この教育区分を寸胴型とも呼ばれる。これ以外に中学校の第1学年および第2学年を前期、中学校第3学年ならびに高等学校の第1学年および第2学年を中期、高等学校第3学年を後期に区分する2-3-1制を採用し、中学校段階の学習内容を中学校第2学年で終了し、高等学校段階の学習内容を中学校第3学年から始めて高等学校第2学年までに終えて、高等学校第3学年では大学受験にシフト化する中高一貫校もあるほか[10]名古屋大学教育学部附属中学校・高等学校では、中学校第1学年を入門基礎期、中学校の第2学年および第3学年を個性探求期、高等学校の第1学年および第2学年を専門基礎期、高等学校第3学年を個性伸張期に区分する1-2-2-1制を採用している[11]

中高一貫の発達区分では、中学校第1学年の前期(特に第1学期)は様子見期、中学校第1学年の後期(特に第3学期)および中学校第2学年は混乱期(自分くずし・選別)、中学校第3学年は模索期1(居場所作り)、高等学校第1学年は模索期2(グループ化)、高等学校第2学年は模索期3(グループ強化・居場所構え)、年度中に満18歳の誕生日を迎える高等学校第3学年は大人化(気の合う仲間と他者との交流)と位置付けられる[12]。中高一貫校では、教育課程以外に、学校行事・進路指導でもこの発達区分に合わせて設計される。

日本の中高一貫校の最終学年(高等学校第3学年・中等教育学校第6学年)では、大学受験対策演習の授業が専ら提供され、外国の中等学校の最終学年のように、大学教養部旧制高等学校高等科)レベルの高度な一般教養教育を行っている中高一貫校は少ない[注釈 3]

問題点

近年首都圏を中心に私立の中高一貫校への進学熱が加熱しており、ある程度の家計の豊かさを象徴するものとして、

公立中高一貫校には以下の問題点が指摘されている。

「選ばれた生徒だけの特別の学校」とする問題

いくら一貫校を受験エリート校にしないため、学力試験による選抜を認めないといっても、広域募集・広域選抜を行う限り、一貫校が「選ばれた生徒だけの特別の学校」になるのは構造的に必然である[13]。普通の小学生が遠くの学校を自主的に選ぶということは一般的にはありえず、親の関心・選択が優先することになり、一貫校は教育熱心な恵まれた家庭の子供ばかりになる可能性が高い[14]。また一貫校は特別の期待のもとに設立されるので、予算面や施設面、運営面や教員配置の側面で一般の中学や高校よりも優遇される[13]

中等教育の複線化

小学生は、中学入学段階で広域募集・広域選抜を行う中高一貫校か、区域内の生徒を無選抜で受け入れる3年制中学校のどちらかを選ばなければならないことになる[15]。かくして、一貫校に通う生徒と非一貫校に通う生徒、中学受験を経て入った一貫校の生徒と無試験で入った地元の中学校の生徒というように、中学生に実質的にも象徴的にも地位の分化が起きることになる[16]。一貫校のほうが高い評価を得るであろうから、この地位の分化は水平的ではなく、垂直的・序列的なものになるのは必至である[16]。一貫校がある程度多くなると確実に中等教育に新たな歪みを持ち込み、3年制公立中学の教育を今よりはるかに難しいものにする[16]

学校選択の不公平

公立中学校の選択の自由は原則的に認められていないが、公立中高一貫校には選択の自由がある[17]。そのため一貫校の入学者と3年制の公立中学校の入学者の間で不公平が生じることになる[17]

中学受験の弊害

中高一貫校のメリットとして、高校入試がないのでゆとりのある教育が実現できることが挙げられているが、実際には高校入試が小学校の段階に移るだけである[18]。選択肢としての各学校の違いは単なる好み(個性)の違いとして表れるのではなく、優劣・序列の差となって表れるから、受験競争の弊害が確実に小学校の教育に影を落とすことになる[19]。中学校も現に序列化されている高校と同じ問題が起きるようになり、相対的に低位に位置づく学校が今よりはるかに大きな難しさを抱え込むであろうことは想像に難くない[19]

その他

1959年東京都立世田谷工業高等学校が附属中学校を設置、技術者志望の学生を中高一貫教育で育成しようとした。公立校における中高一貫教育の試みとしては先駆的なものではあったが、1973年に附属中学校を廃校している。

脚注

出典

  1. 田園調布雙葉中学高等学校-よくある質問による。
  2. 聖心女子学院初等科・中等科・高等科のHPによる。2012年11月4日閲覧。
  3. 学研編集部編『中学受験実践ブックス 中学受験はじめの一歩から』(学習研究社、2002年10月初版発行)の「第3章 学校選び編」のうち「中等教育学校ってナニ」(pp.90-91) による。
  4. 文部科学省. “中高一貫教育の概要”. . 2013閲覧.
  5. 文部科学省. “中高一貫教育Q&A:趣旨・目的に関すること”. . 2013閲覧.Q3, Q4
  6. 文部科学省. “中高一貫教育Q&A:種類・制度・入学に関すること”. . 2013閲覧.Q6
  7. 文部科学省編『諸外国の初等中等教育』(2002年3月発行)の「ドイツ」(丹生久美子執筆)の「2 教育内容・方法」の「(5) 授業形態・組織」のうち「ギムナジウム」に基づく。
  8. 昭和23年文部省告示第47号(学校教育法施行規則第150条第4号に規定する大学入学資格に関し高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者)(抜粋)(1948年5月31日告示)の第1号、第2号および第3号による。
  9. おおたとしまさ著『中学受験という選択』(日本経済新聞出版社2012年11月8日発行)の「第3章 中高一貫校の「ゆとり教育」」の「6年間思春期教育を分断してはならない」(pp.67-71) による。
  10. 東海中学校・高等学校など
  11. 月刊高校教育編集部編『中高一貫教育推進の手引き』(学事出版2000年7月21日発行)の「4 中高一貫教育校の事例等」の「名古屋大学附属中学校・高等学校」(丸山豊執筆、pp.91-100)による。
  12. 中高6年間における「心の成長課程」の分析-筑波大学附属駒場附属中・高等学校研究部(筑波大学附属駒場論集、2002年3月発行)による。
  13. 13.0 13.1 藤田 1997, p. 80.
  14. 藤田 1997, pp. 80-81.
  15. 藤田 1997, pp. 82-83.
  16. 16.0 16.1 16.2 藤田 1997, p. 83.
  17. 17.0 17.1 藤田 1997, p. 84.
  18. 藤田 1997, p. 88.
  19. 19.0 19.1 藤田 1997, p. 86.

注釈

  1. 現在の中高一貫校と修業年限が近い教育機関として旧制7年制高等学校も挙げられるが、7年制高校は旧制中学校の課程を4年制の尋常科で修めた後に3年制の高等科に学ぶ場所であり、中等・高等教育を一貫して行う点が、中等教育のみを前期・後期まとめて行う現在の中高一貫校と異なっている。学制改革に際して、7年制高校の高等科は新制大学に、尋常科は新制中高に移行したが、旧制武蔵高等学校の場合は全課程が新制武蔵中学校・高等学校武蔵大学に改組されている。
  2. 例として、女子学院中学校・高等学校桜蔭中学校・高等学校雙葉中学校・高等学校麻布中学校・高等学校武蔵中学校・高等学校駒場東邦中学校・高等学校海城中学校・高等学校鴎友学園女子中学校・高等学校吉祥女子中学校・高等学校浅野中学校・高等学校栄光学園中学校・高等学校聖光学院中学校・高等学校などがこの形を採る。
  3. 中島忠直編著『世界の大学入試』(時事通信社1986年8月10日発行)p.223によると、スペインの大学予科(日本の高等学校第3学年に相当)の履修内容は日本の新制大学の一般教養課程に相当するほか、天野正治結城忠別府昭郎編著『ドイツの教育』(東信堂1998年7月20日発行)のp.123によれば、ドイツのギムナジウム上級段階は、日本の高等学校段階であると同時に大学の教養課程に相当する。

参考文献

関連項目

関連図書・関連文献

外部リンク