公然わいせつ罪

提供: miniwiki
移動先:案内検索

公然わいせつ罪(こうぜんわいせつざい)は、日本の刑法174条で規定される犯罪である。

公然わいせつ罪
100px
法律・条文 刑法174条
保護法益 性的感情
主体
客体 -
実行行為 わいせつ行為
主観 故意犯
結果 挙動犯
実行の着手 -
既遂時期 公然とわいせつな行為をした時点
法定刑 6ヶ月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
未遂・予備 なし
テンプレートを表示

概説

公然とわいせつな行為をした者は、6ヶ月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する(刑法第174条[1]

  • 「公然」とは不特定または多数人が認識しうる状態を指す(最決昭和32年5月22日刑集11巻5号1526頁)。
    • ストリップ劇場のように密閉した空間で特定の客を相手になされたものである場合であっても、客は不特定多数の人から勧誘された結果であるので、公然性の要件を満たす(最決昭和31年3月6日裁集刑112号601頁)
  • インターネット上に、わいせつな動画等をアップロードする行為はわいせつ物頒布等の罪を構成するが、リアルタイムのわいせつなショーを不特定多数のインターネット利用者に閲覧させる行為は、公然わいせつ罪を構成する(岡山地方裁判所平成12年6月30日判決)。

性的感情に対する罪

公然わいせつ罪及びわいせつ物頒布罪の保護法益社会的法益である善良な風俗である。

刑法第174条の「わいせつ」について、判例は「徒に性欲興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反するもの」とされる(大判大正7年6月10日新聞1443号22頁、最判昭和26年5月10日刑集5巻6号1026頁)。

わいせつという概念は、法的に定義された概念であるものの、時代と場所を超越した固定的な概念ではない[2]。何がわいせつであるか否かは、その時代、社会文化に対応した一般人のに関する規範意識を根底に置きながら、社会通念によって相対化され、これに対して具体的に判断されるものである。したがってある時代や状況における「猥褻」の判断が普遍的に他のそれにおいて適用されるわけではない。

判例も「性一般に関する社会通念が時と所とによつて同一でなく、同一の社会においても変遷がある」としつつ、「性に関するかような社会通念の変化が存在しまた現在かような変化が行われつつあるにかかわらず、超ゆべからざる限界としていずれの社会においても認められまた一般的に守られている規範が存在することも否定できない」としている(最判昭和32年3月13日刑集11巻39号97頁)。

2017年平成29年)7月8日現在、下着姿になることもわいせつ行為とされる場合がある[3]

表現の自由との関係

わいせつ的表現と日本国憲法第21条で保障される表現の自由との関係については学説上も争いがあり、未だに定説がない。

表現の自由が特に重要な人権とされるのは政治問題等に関する自由な言論活動が民主政治の基盤であることを強調する論者は、多くは、営利的表現活動の一部にすぎないわいせつ的表現は憲法21条で保障されるとしても、刑法175条により制約することは許されるとする。

これに対して、表現の自由全体に及ぼす萎縮効果を重視する論者を中心に、刑法175条が過度に広範な規制であるとして日本国憲法の精神の自由に違反するとする見解もある。

判例は、一貫して刑法175条が憲法21条に違反しないとする見解をとっている(最高裁判所大法廷判決昭和32年3月13日刑集11巻3号997ページ(チャタレー事件)及び最高裁判所大法廷判決昭和44年10月15日刑集23巻10号1239ページ(悪徳の栄え事件))。

わいせつ性の判断

わいせつ性の判断について判例は「文書のわいせつ性の判断にあたつては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否かなどの諸点」を検討することが必要とし、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして判断すべきであるとしている(最判昭和55年11月28日刑集34巻6号33頁)。

一方、学界では、相対的わいせつ概念の法理が注目されている。これは、わいせつ物の規制は一応は妥当であるとしつつも、思想性や芸術性の高い文書については、わいせつ性が相対化され、規制の対象から除外されるという理論である。田中二郎判事が初めて提唱した。

わいせつをめぐる最高裁判例の推移

  • チャタレー事件、最高裁大法廷判決、1957年昭和32年)3月13日、刑集11巻3号997頁
    • 「わいせつ文書」に当たるかどうかは、法解釈の問題であり、その判断は裁判官に委ねられている
    • わいせつ三要件
      1. 通常人の羞恥心を害すること
      2. 性欲の興奮、刺激を来すこと
      3. 善良な性的道義観念に反すること
  • 悪徳の栄え事件、最高裁大法廷判決、1969年(昭和44年)10月15日、刑集23巻10号1239頁
    • 芸術的・思想的価値のある文書でもわいせつの文書として取り扱うことは免れない
  • 四畳半襖の下張事件、最高裁第二小法廷判決、1980年(昭和55年)11月18日、刑集34巻6号432頁
    • わいせつ性の判断に当たっては、文書全体としてみたとき、読者の好色的興味に訴えるものであるかどうか否かなどの諸点を検討することが必要で、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、チャタレー事件で示したわいせつ三要件に該当するといえるかどうか判断すべきである。
    • 本判決で、全体的考察という手法を取り入れるとともに、「その時代の」社会通念に照らして判断することを要求することにより、わいせつ概念の無制限な拡大防止を図ったものとされている。
  • 松文館事件、最高裁判所第一小法廷、2007年(平成19年)6月14日、平成17年(あ)1508号
    • チャタレー事件の最高裁判決等を判例として、憲法における表現の自由の侵犯には当たらないと判断、上告不受理を決定。これにより、二審判決の漫画もわいせつ物に当たるという判断を支持し、二審判決が確定した。
  • メイプルソープ事件最高裁判所第三小法廷、2008年平成20年)2月19日、平成15年(行ツ)157号
  1. 我が国において既に頒布され、販売されているわいせつ表現物を税関検査による輸入規制の対象とすることは、日本国憲法第21条1項に違反しない。
  2. 写真芸術家の主要な作品を収録した写真集が関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等に該当しないとされた事例。

わいせつ物頒布等の罪

わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする(刑法第175条)。

脚注

関連項目