国債

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国債(こくさい、: government bond)は、

概要

国債は、国家が証券発行という方式で行う借入金のことである。

発行時に償還期限と利率が定められており、基本的には、購入者はこれに応じた利息を受け取ることができる。償還期限を迎えると、元金である国債の発行時の金額(額面額、または額面価格という)が支払われる。ただし国債は、条件の変更などに関して政府によって一方的に決定が行われることがある。また国債に関しては、その保有者は債務の履行に関して強制力が無い。

国家が元本・利子の支払いを保証しているため、金融商品の中でも比較的、安全性は高い[4]。ある国債が安全であるか、あるいは安全でないかということは、それを発行している国家の財政の状態などによる。格付け機関が各国の国債の評価・格付けを行っている。

国債は他の債券同様に発行された後でも市場で売買できるため、価格は常に変動している。国債価格とその裏返しとしての国債金利(長期金利)は世界情勢や、国債を発行している国の社会動向、財政状態・経済状態を反映するため、政治的にも非常に重要な要素である。

歴史

国債をめぐる政策は、広義の近代化である大航海時代以来、長く社会問題の軸になってきた。君主が発行する公債は、君主の私的債務か国家の公的債務かの区別が曖昧だった。償還の原資が必ずしも保証されておらず、資金繰りに困った君主により恣意的に債権放棄させられる危険性ばかりでなく、次代の君主が先代の債務を引き継がないなどの原因でしばしばデフォルトに陥った。そのため、公債は償還期限が短期でリスクを反映して利率が高く、それゆえ君主が返済に困ってデフォルトを繰り返すという悪循環を繰り返していた。絶対王政の時代には欧州の君主はしばしば戦争を行い、それらの戦費はこうした公債で賄われることがしばしばであった。

償還期限が長期で利率の低い(すなわちリスクが低い)国債が安定して発行されるのは、恒久的な議会国家歳出歳入課税に関する権利を国王から奪取し、君主の私的財政と国家の財政(国庫)を分離する時代まで待たなければならなかった。オランダではホラント州の議会がそのような先鞭を付け、オランダ国王はホラント州議会の保証を裏付けとして公債を発行することができた。

イギリスウィリアム3世の時代にオランダの制度を導入して、国債の発行時に返済の裏付けとなる恒久的な税を創設することなどが行われるようになった。名誉革命権利章典により、議会が国庫と課税を管理し、君主は議会の同意なしに課税も国庫からの支出も行えなくなった。イギリス議会はコンソル債とよばれる単一の国債に既に発行済みの複数の公債を一元化し、金利の安定化と流動性の確保に務めた。それにより、コンソル債は欧州でもっともリスクの低い債券として信用され、各国の国債のベンチマークとなった。この過程でイングランド銀行は国家の歳出・歳入口座をもつ唯一の銀行、すなわち中央銀行としての地位を確立した。

欧州では18世紀までの度重なる戦争で、諸国政府は莫大な国債発行残高を抱えていた。イギリス19世紀初頭には国民所得の数倍に達するほどの発行残を抱えていた。その後、産業革命による活発な民間投資経済成長夜警国家政策により国民所得に対する比率を低下させた。

中央銀行による国債購入

中央政府が発行した国債を中央銀行が直接引き受けることは財政規律や通貨安定を損なう恐れがあるため、各国で財政規律や通貨安定を損わないことを目的に、中央銀行の直接引き受けについて一定のルールが設けられている。

日本における財政法第5条のように[5]、中央銀行が国債を直接引き受けることは原則として禁止している国が多いが、中央銀行が市中から購入することは広く行われている(公開市場操作)。

2010年11月にアメリカFRBは、8ヶ月間で総額約50兆円(約6000億USドル)の米国債を買い取る決定をした。その際にFRB議長であるベン・バーナンキは、この国債の引き受けの目的を「長期金利の上昇を抑制するため」と述べている[6]

経済学者ミルトン・フリードマンは、国債の中央銀行引き受けを「当局が勝手にできる増税」とし、国債引き受けでインフレにしてしまえば、通貨価値が目減りするため、国民から徴税するのと同じこととなり、増税幅が物価上昇率に束ねられて事前に決められずによくないと批判している[7]

日本の動向

日本における財政法第5条には、但し書きで、特別な理由がある場合には国会の議決の範囲内で直接引き受けは可能であるとしている[8][9]

経済学者の高橋洋一によれば、直接引き受けについても、実際には満期を迎える国債の借換債の引き受け等という形で日本銀行による国債の直接引き受けは毎年行われており「国債の日銀引受は禁じ手」というのは文学的表現に過ぎないとする[10]2011年末時点で日本銀行は67.6兆円(8.95%)の日本国債を保有している。さらに、国債のほかに政府短期証券(FB)も24兆円保有している。

森永卓郎は「日銀の国債買い切りオペは、国債の買い支えを意味するため、国債暴落を防ぐ手段の一つとなっている」と指摘している[11]

第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生は、政府が国債発行による債務返済を完済するという約束が通貨の信用をつなぎとめている一方で、消費税増税への反対論にある日銀の国債引受けは、日銀が政府の当座預金に無制限に資金を振り込むことになる。これはお札の増刷と同じことであり、国民が貨幣価値を疑い始めるおそれがあると指摘。日銀の国債引受けが「悪魔的手法」と呼ばれるゆえんであると述べている[12]

2012年11月17日、自民党の安倍晋三総裁は講演で「建設国債を、できれば直接日銀に買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく」と発言。これについて「現実離れしていると債券市場ではみているものの、為替が反応しているため、無視できない」(六車治美・三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニア債券ストラテジスト)、「日銀による国債引き受けを前提としたインフレ脱出策は禁じ手。これは悪いインフレを創り出し、インフレが収束しないリスクを伴うからだ」(菅野雅明・JPモルガン証券チーフエコノミスト)等の見方が出ている[13]


債務不履行

2000年アルゼンチンがデフォルト(債務不履行)を宣言している。これはアルゼンチンがアメリカから、アメリカ・ドル建てで借りていた債務(公的対外債務)が支払い不可能に陥ったためにデフォルトを宣言する事態になったものである。

国家が債務不履行に陥るのは、上記アルゼンチンの他に1998年ロシア2012年ギリシャユーロ建て国債)のように、外国から外国通貨建て(共通通貨建てを含む)で借金している場合である。

各国の国債

日本

参照: 日本国債

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国では、1990年代始めごろ、政府は史上最悪の財政赤字を抱えていたが、1998年には財政黒字に転換した。背景には、クリントン政権の財政再建政策(所得税の最高税率引き上げなど)とITを軸とした活発な民間投資がある。しかしその後、2002年に再び赤字になってからは財政赤字の状態が続いている。

英国

参照: 英国債

ドイツ

参照: ドイツ国債

オーストラリア

21世紀に入って、資源価格高騰などで活況を呈するオーストラリアは、とうとう累積国債の完済を実現できる段階にまで達した。完済により、長期金利の基準がなくなることが憂慮されるほどである。

外国国債

発行国の国外で売り出しまたは売出の取次がなされる外国の国債は、海外債券の一種で外国債と言う。主に証券会社の証券外務員ネット証券のルートを中心に販売されている。

アメリカトレジャリーノート・、トレジャリービルなどの米国財務省証券)、イギリスなど先進国のものから、金利が比較的高いオーストラリア、更にアルゼンチン南アフリカ共和国などの開発途上国まで、リスクとリターンは多種多様である。ただし、外国債は海外債券であるため、海外債券保護預かり口座などの名目で毎年口座管理手数料が徴収される場合が多く、預け入れ資産が一定以上でなければ、手数料で元本割れする可能性が高い。

また、サムライ債を除いて、基本的に本国通貨建て(米ドルユーロオーストラリアドルなど)で購入することが一般的であるため、邦貨と外貨の為替変動リスクでも損益が大きく変動する点も留意しなければならない。

国債の格付け

国債の信用力については、民間会社による格付けが行われている。参考のため一部の国のみ掲載する。

主な国の信用格付け一覧表(2015年9月19日現在)[14]
ランク 国名 ムーディーズ S&P フィッチ
1 ドイツ Aaa AAA AAA
ルクセンブルク Aaa AAA AAA
オーストラリア Aaa AAA AAA
スイス Aaa AAA AAA
デンマーク Aaa AAA AAA
スウェーデン Aaa AAA AAA
ノルウェー Aaa AAA AAA
カナダ Aaa AAA AAA
シンガポール Aaa AAA AAA
2 オランダ Aaa AA+ AAA
3 米国 Aaa AA+ AAA
4 フィンランド Aaa AA+ AAA
5 オーストリア Aaa AA+ AA+
香港 Aa1 AAA AA+
6 英国 Aa1 AAA AA+
7 ニュージーランド Aaa AA AA
8 フランス Aa2 AA AA
9 ベルギー Aa3 AA AA
10 サウジアラビア Aa3 AA- AA
11 韓国 Aa3 AA- AA-
12 中国 Aa3 AA- A+
13 エストニア A1 AA- A+
チェコ A1 AA- A+
14 日本 A1 A+ A
スロバキア A2 A+ A+
15 アイルランド Baa1 A+ A-
16 ポーランド A2 A- A-
17 マルタ A3 BBB+ A
18 ラトビア A3 A- A-
リトアニア A3 A- A-
19 メキシコ A3 BBB+ BBB+
20 スロベニア Baa3 A- BBB+
21 スペイン Baa2 BBB BBB+
22 イタリア Baa2 BBB- BBB+
23 南アフリカ Baa2 BBB- BBB
24 インド Baa3 BBB- BBB-
25 ブルガリア Baa2 BB+ BBB-
ルーマニア Baa3 BBB- BBB-
26 ブラジル Baa3 BB+ BBB
27 インドネシア Baa3 BB+ BBB-
28 トルコ Baa3 BB+ BBB-
29 ロシア Ba1 BB+ BBB-
30 ハンガリー Ba1 BB+ BB+
31 ポルトガル Ba1 BB+ BB+
32 クロアチア Ba1 BB BB
33 キプロス B3 B+ B-
34 エジプト B3 B- B
35 ギリシャ Caa3 CCC+ CCC
36 アルゼンチン Caa1 SD RD

S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)とフィッチ・レーティングスでは同じ記号でAAA(トリプルA)からA(シングルA)、BBB~B、CCC~C、という形式で表記され、AA~CCCまでに+、ーを付加することでさらに3段階に細分化される。 ムーディーズではAaa~A、Baa~B、Caa~C、という形式で表記され、やはりAa~Caaまでは1,2,3を付加することで3段階ずつに細分化される。 それぞれの意味合いは以下の通り。

Aaa/AAA
信用リスクが最小限(信用力が最大)
Aa/AA
信用リスクが極めて低い(信用力大)
A/A
信用リスクが低い(信用力あり)
Baa/BBB
信用リスクは中程度(信用力中程度)
※ このランク(Baa3/BBB-)までが一般的に「投資適格級」とされる。
Ba/BB
相当の信用リスク
※ このランク(Ba1/BB+)以下は「投資不適格級」「ジャンク級」などと呼ばれる。
B/B
信用リスクが高い
Caa/CCC
信用リスクが極めて高い
SD/RD
選択的デフォルト・一部債務不履行
D
債務不履行

※日本の財務省は、2002年に大手格付け会社のムーディーズが日本国債を格下げしようとした際、日本やアメリカのように先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない(ハイパーインフレーションによって通貨がほぼ無価値になることはありえる)として、各格付け会社に対して「デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。」等と説明を求めている[15]。  

脚注

  1. 広辞苑
  2. デジタル大辞泉
  3. 竹中平蔵 『竹中先生、経済ってなんですか?』 ナレッジフォア、2008年、45頁。
  4. 川村雄介 『日本の金融 (図解雑学シリーズ)』 ナツメ社・改訂新版・第2版、2007年、188頁。
  5. すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
  6. 与謝野大臣が渋る日銀の国債引き受けは、ごくまっとうで安全な復興資金の調達方法だ。欧米の経験に学んで、今こそ大規模な金融緩和を実施せよ。 森永卓郎 Safety Japan 日経BP社 2011年5月17日
  7. 日本経済新聞社編 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、103-104頁。
  8. 「高橋財政」に学び大胆なリフレ政策を――昭和恐慌以上の危機に陥らないために 東洋経済 2009年6月16日
  9. 失われたGDPを取り戻す秘策PHPビジネスオンライン 衆知 2010年1月18日
  10. 「日銀引受は禁じ手」の虚妄 実は毎年行われている 高橋洋一の民主党ウォッチ 2011年4月14日
  11. 森永卓郎 『日本経済50の大疑問』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、75頁。
  12. 日銀の国債引受けは、なぜ「悪魔的手法」なのか――熊野英生・第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミストダイヤモンド・オンライン
  13. 債券は下落、円安・株高や安倍自民党総裁発言を警戒-日銀会合見極め2012年11月19日 bloomberg
  14. 主要国の国債格付けランキング”. Let's GOLD (2015年9月19日). . 2015/09/19閲覧.
  15. 外国格付け会社宛意見書要旨

参考文献

  • 富田俊基『国債の歴史―金利に凝縮された過去と未来』(東洋経済新報社、ISBN 4492620621)

関連項目

外部リンク

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