第18族元素

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18
周期
1 2
He
2 10
Ne
3 18
Ar
4 36
Kr
5 54
Xe
6 86
Rn
7 118
Og

第18族元素(だいじゅうはちぞくげんそ)とは、長周期表における第18族に属する元素、すなわち、ヘリウムネオンアルゴンクリプトンキセノンラドンオガネソンをいう。なお、これらのうちで安定核種を持つのは、第1周期元素のヘリウムから第5周期元素のキセノンまでである。貴ガス (: noble gas) のほか希ガス稀ガス: rare gas)と呼ばれる。

概要

ファイル:Edelgase 1.jpg
電球に封入した希ガスの発光。

第18族元素は、原子における最外殻電子閉殻となっているため、化学的に非常に不活性であり、しばしば単原子分子として存在する。かつて第18族元素には化合物が知られていなかったために、不活性ガスinert gas)類と呼ばれた。しかし、化学的な不活性さの度合いは、第1周期元素のヘリウムを筆頭として、周期が進むにつれて弱くなる。安定核種が存在する最後の周期である第5周期のキセノンに化合物が見つかったことを皮切りに、他の第18族元素にも化合物が見つかったため、今日において不活性ガスという言い方は、この族の性質を正しく言い表していないと言える。

日本語の希ガスの名称は「稀(まれ)な」に由来する。これもかつて化学的分離や抽出が困難であった時代の名称の名残である。空気中には0.9%のアルゴンが含まれている。これは二酸化炭素 (0.03%) の30倍であり、それほど稀な元素というわけでもない。一方、英語ではIUPAC(国際純正・応用化学連合)の2005年勧告を受けて貴ガスに相当する、 noble gas の表記がされている。日本の高等学校化学の教科書では、全ての出版社が「希ガス」と表記(一部で「貴ガス」と併記)しているが、これについて日本化学会は2015年3月17日に、今後は日本国外の高校教科書が例外なく使用している「noble gas」に合わせて、「貴ガス」表記に変更するよう提案している[1]

ヘリウムを除いて、常圧かつ凝固点以下で弱いファンデルワールス結合による結晶(単原子分子による分子性結晶)を形成する。

化合物

希ガスの性質を研究する中で、既に水和物クラスレート型の化合物が見つかってはいた。しかしながら、これらの化合物においては水素結合の網目構造の中に希ガス原子が閉じ込められているだけであり、真の化合物とは呼べない。化学結合を備えた最初の希ガス化合物は、1962年5月、カナダブリティッシュコロンビア大学のネイル・バートレットとD・H・ローマンによって合成されたヘキサフルオロ白金酸キセノン (XePtF6) である[2]酸素分子 O2酸化するヘキサフルオロ白金酸の反応から類推し、O2 (12.2eV) とほぼ同じイオン化エネルギーを持つキセノン (12.13eV) を酸化できるのではと考えたことが成功の鍵であった。8月には XeF4 が、同年末は XeF2 と XeF6 も合成された。

1963年には、放電を用いてクリプトンの化合物 (KrF2) が合成され[3]、また同年にラドンの化合物も合成された。

ハロゲン化物としては、キセノンあるいはクリプトンのフッ化物が知られている。2000年にはアルゴンの安定な化合物、アルゴンフッ素水素化物(HArF) も報告された[4]

酸化物としては、六フッ化キセノン XeF6 または四フッ化キセノン XeF4と反応した三酸化キセノン XeO3 が知られる。

利用

放電管中にこれらの気体を充満させ、放電を行うと気体により様々な色の光を発する。この性質はネオン管ネオンサイン)や消毒ランプなどに利用される。また、反応性が低いことから、太陽系形成初期の同位体組成比を維持していると考えられるため、極微量の希ガス分子でも高感度に検出できる専用の質量分析計を利用し、地球内部[5]及び地球外岩石の由来や様々な過程の情報を分析することが可能である[6]。例えば、小惑星探査機はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワのサンプル解析に用いられた[7]。この他、やはり反応性が低いことを利用して、地球の大気に比較的多く含まれるアルゴンは、第18族元素の中では比較的安価なので、食品などの酸化を防ぐために、何らかの密封容器に食品と共にアルゴンを封入するといった用途に用いられることもある。また、かつて用いられた白熱電球のフィラメントからタングステンが気化することを防止するために、電球内に封入するという利用のされ方もした。

なお、理由は不明だが、キセノンには麻酔作用があることが知られていて、麻酔に利用することが一応可能ではある。

発光色

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ヘリウム ネオン アルゴン
(「Ar」の文字のものは水銀が混ざっている)
クリプトン キセノン

気体の放電による発光の色は、いくつかの要因によって変化する。例えば:[8]

  • 放電時のパラメータ。局所的な電流密度電場、温度など。一番上の列の写真では、放電管の中の位置によって色が様々に異なっている。
  • 気体の純度。わずかに他の気体が混入しても色に影響する。
  • 放電管の材料。一番下の列の写真では、厚いがふつうのガラスの管によって、紫外光および青色光が抑えられていることに注意。

参考文献

出典

  1. “高等学校化学で用いる用語に関する提案(1)” (プレスリリース), 日本化学会, (2015年3月17日), http://www.chemistry.or.jp/news/press/1-1.html . 2015閲覧. 
  2. Bartlett, N. Proc. Chem. Soc. 1962, 218.
  3. MacKenzie, D. R. Science 1963, 141, 1171. doi:10.1126/science.141.3586.1171
  4. Khriachtchev, L.; Pettersson, M.; Runeberg, N.; Lundell, J.; Räsänen, M. Nature 2000, 406, 874. doi:10.1038/35022551
  5. 同位体・希ガストレーサーによる地下水研究の現状と新展開 日本水文科学会誌 Vol.37 (2007) No.4 P221-252
  6. 希ガス同位体地球惑星科学 東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設・惑星化学研究室
  7. はやぶさが持ち帰った小惑星の微粒子を分析 -希ガス同位体分析からわかったこと- 東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設・惑星化学研究室 (PDF)
  8. Ray, Sidney F. (1999). Scientific photography and applied imaging. Focal Press, 383–384. ISBN 0-240-51323-1. 

関連項目