鰹節

提供: miniwiki
移動先:案内検索

鰹節(かつおぶし)は、カツオを加熱してから乾燥させた日本保存食品。鰹節や#その他の節を削ったものを削り節と呼ぶ。おかかは、鰹節、または削り節のことを指す[1]

日本では、701年には大宝律令・賦役令により、堅魚に分類される干しカツオなどが献納品として指定される。現在の鰹節に近いものでは、室町時代の1489年のものとされる『四条流庖丁書』に「花鰹」とあり、干物ではないかなりの硬さのカツオが想像される。江戸時代には、甚太郎という人物が現在の荒節に近いものを製造する方法を考案し、土佐藩(現・高知)では藩を挙げてこの熊野節の製法を導入した。江戸時代には鰹節の番付、明治時代には品評会などが開催された。

利用

ファイル:Katsuobushi kezuriki.jpg
鰹節削り器(鉋が乗っている)

食用として利用する際には、かんなで削り、削り節とするのが伝統的な方法である。この削り節は、調味料として和食では重宝される。

鰹節からのイノシン酸抽出には水に含まれるミネラルが悪影響を及ぼすので軟水の使用が望ましい[2][3][4]。 水分を十分除去した鰹節は長期保存での腐敗はしないが、カツオブシムシなどの害虫の発生には注意が必要である。

歴史

燻乾法以前

カツオ自体は古くから日本人の食用となっており、縄文時代前期にはすでに食べられていた形跡がある(青森県八戸市一王寺貝塚など)[5]。5世紀頃には干しカツオが作られていたとみられるが、これらは現在の鰹節とはかなり異なったものであったようだ(記録によるといくつかの製法があったようだが、干物に近いものであったと思われる)。

宮下章が、『鰹節考』の中で「カツオほど古代人が貴重視したものはない。(中略)米食中心の食事が形成されて以来、カツオの煎汁だけが特に選ばれ、大豆製の発酵調味料と肩を並べていた」と述べている。

飛鳥時代(6世紀末-710年)の701年には大宝律令・賦役令により、この干しカツオなど(製法が異なる「堅魚」「煮堅魚」「堅魚煎汁」に分類されている)が献納品として指定される。うち「堅魚」は、伊豆・駿河志摩相模安房・紀伊・阿波・土佐・豊後日向から献納されることとなった。

現在の鰹節に比較的近いものが出現するのは室町時代1338年 - 1573年)である。1489年のものとされる『四条流庖丁書』の中に「花鰹」の文字があり、これはカツオ産品を削ったものと考えられる。

燻乾法の確立

江戸時代に、紀州印南浦(現和歌山県日高郡印南町)の甚太郎という人物が燻製で魚肉中の水分を除去する燻乾法(別名焙乾法)を考案し、現在の荒節に近いものが作られるようになった。焙乾法で作られた鰹節は熊野節(くまのぶし)として人気を呼び、土佐藩は藩を挙げて熊野節の製法を導入したという。

大坂・江戸などの鰹節の消費地から遠い土佐ではカビの発生に悩まされたが、逆にカビを利用して乾燥させる方法が考案された。この改良土佐節は大坂や江戸までの長期輸送はもちろん、消費地での長期保存にも耐えることができたばかりか味もよいと評判を呼び、土佐節の全盛期を迎える。改良土佐節は燻乾法を土佐に伝えた甚太郎の故郷に教えた以外は土佐藩の秘伝とされたが、印南浦の土佐与一(とさのよいち)という人物が安永10年(1781年)に安房へ、享和元年(1801年)に伊豆へ製法を広めてしまったほか、別の人物が薩摩にも伝えてしまい、のちに土佐節・薩摩節・伊豆節が三大名産品と呼ばれるようになる。

江戸期には国内での海運が盛んになり、九州や四国などの鰹節も江戸に運ばれるようになり、土佐(高知)の「清水節」、薩摩[6]の「屋久島節」などを大関とする鰹節の番付表が作成された。

参考・文政五年(1822年)の諸国鰹節番付
ファイル:Nan'yo-bushi.JPG
南洋庁時代のトラック島における鰹節(1930年頃)
  • 大関 - 清水節(東方・土佐)、役島節(西方・薩摩[6]
  • 関脇 - 宇佐節(東方・土佐)、御崎節(西方・土佐)
  • 小結 - 福島節(東方・土佐)、須崎節(西方・土佐)
  • 以下、行司、前頭、世話方、勧進元が続く。
    • なお、土佐節、薩摩節などは土佐、薩摩などで作られた節の総称である。

枯節のカビは当初自然発生させていたが、昭和以降は純粋培養したカツオブシカビ(コウジカビの一種、学名Aspergillus glaucus)を噴霧することで完成までの日数短縮と、好ましくないカビが発生する問題の回避を行なうのが主流になっている。

1883年明治16年)に東京の上野公園で「第一回水産博覧会」で、1908年(明治41年)に「大日本水産会第一回鰹節即売品評会」が開催されるなど、各地で鰹節の品評が行なわれ、東の焼津節・西の土佐節の品質が高く評価された。

明治以降、尖閣諸島魚釣島や日本が国際連盟委任統治領としていた南洋諸島(ミクロネシアの島々)や20世紀に日本が統治をしていた台湾でも製造されるようになった。特に南洋ものは安価であったことから大いに市場を拡大したが、南洋諸島が第二次世界大戦後に日本の統治を離れたことで、この地域での鰹節産業は終焉を迎えた。しかし、台湾では、日本食品として鰹節の利用も根付いた。「柴魚」と呼び、現在も東部の台東県花蓮県で製造されており、麺線などの台湾料理スープを取るのにも用いられる。花蓮県新城郷には「七星柴魚博物館」という鰹節をテーマにした博物館がある。

モルディブ起源説

モルディブ起源説は、鰹節の製法が交易によりモルディブから東南アジアを経由して日本にもたらされ、その後日本においてカビ付けの工法が考案されたとする説である。今日、鰹節が広く伝統的な食習として定着している国は日本だけであるが、インド洋島国モルディブには、モルディブ・フィッシュ(Maldive fish)と呼ばれる、サバ科のハガツオSarda orientalis)を原料とするカビ付けをしていない荒節が古くから伝わる。本説は、このモルディブ・フィッシュの製法が日本に伝わった、というものである。本説においては、鰹節の日本における最古の起源は沖縄にあると言われている[7]スリランカ等を含む周辺地域で郷土料理の味つけに用いられるものの、削って用いるのではなく、袋に入れて棒でたたき割ってから用いられる。手間を省くために工場で粉砕した粗い粒状の製品も市販されている。しかし、明確な伝来過程などは証明されていない。

実際のところ、魚を乾燥させて固くした食品は、中国の咸魚スペインバカラオなど、世界各地に存在し、日本でも他に棒鱈が存在するため、製法が伝播したというよりも普遍的なものである。また、煮出して出汁として用いる魚、魚の加工品も多々存在し、日本には他に煮干しが存在する。鰹節とモルディブ・フィッシュの共通性は、細かくしたものを煮出し、出汁として用いるという点にある。つまり、鰹節に似た使い方をする魚を乾燥させた食品が、別の地域にあった、という程度の説である。

伝統的製法の例

  1. 生切り - カツオを解体する。頭部、内臓を取り除き、三枚におろして形を整える。
  2. 釜立て - 籠に入れて、釜で100分前後煮る。沸騰すると身が傷つくので、煮立たせないように慎重な温度管理を要する(現在は多くが自動化されている)。副産物の煮汁は風味調味料の原材料に使われる。
  3. 骨抜き - 取り出した後に冷まし、水中もしくはそのままカツオの鱗を剥ぎ、脂肪や骨の除去を行う。この段階ではまだ柔らかく、生利節(生節とも)としてそのまま食材に使うことができる。
  4. 焙乾 - 身に傷があれば、余った頭部や中落ちの身をペースト状にしてすり込み、補修した後、燻蒸して乾燥させる。ナラシイなどの木を用いる。必要に応じて幾度か繰り返す。この工程を途中まで行った物が「さつま節」、終えた物が「荒節」で、荒節はいわゆる「花かつお」の原料となる。
  5. 天日干しカビ付け - 表面を削って汚れを除いて(裸節)から、水分を落とし、天日干しで乾燥させる。その後純粋培養したカツオブシカビを噴霧し、閉め切った室に入れ、カビを繁殖させ熟成させる。このカビによって身のタンパク質が分解され、うま味成分のイノシン酸やビタミン類が生成される。
  6. カビが繁殖したらこれを削り落とし、5の工程を繰り返す。

工程5→6の繰り返しで、最終的に水分が失われて硬い銘木のように硬くなり、カビも付かなくなる。重量は加工前のカツオの20%以下となり、鰹節(枯節本枯節)の完成となる。良質の鰹節どうしをぶつけると、「キンキン」と金属(もしくは硬い銘木)同士を叩いたような乾いた音を発し、割れるとルビーに似た透明感のある、濃い赤色の断面が現れる。完成までの期間はさつま節が1週間程度、荒節が1か月程度、枯節が数か月以上である。本枯節では2年以上の長期熟成のものもある。

製法

サバ科のカツオを材料とし、魚体から頭、、腹皮と呼ばれる腹部の脂肪の多い部分を切り落とし、三枚以上におろし、「」(ふし)と呼ばれる舟形に整形してから加工された物を指して鰹節と言う。

鰹を三枚におろしたものを亀節、三枚から背と腹におろしたものを本節、本節の中でも背側を使ったものを雄節(または背節)、腹側を使ったものを雌節(または腹節)という。

鰹の死後、熟成する段階で自己消化核酸より生成されたイノシン酸は、これ以後の化学反応を経て腐敗を防ぐために酵素の活性を失うべく、高温の熱湯に漬ける「煮熟(しゃじゅく)」をすることにより、イノシン酸が固定される。煮熟の過程で湧出されたエキスも回収されて市販の製品に利用される。[8]

加工工程の差異によって、鰹を茹で干したのみの生利節(なまりぶし)、それを燻製にしたさつま節荒節(あらぶし)、荒節にカビを付けることにより水分を抜きながら熟成させる工程を繰り返した本節枯節(かれぶし)・本枯節(ほんかれぶし)・仕上げ節がある。鰹節という呼称は燻製法ができる江戸時代以前にすでに用いられており、上記のような各種のものを総じて呼ぶ事もある。

カビを生やした枯節には、うま味成分やビタミン類が他の鰹節より多く含まれ、高級品として扱われている。血合いをそのままにしたものと除いたもの(血合い抜き)があり、用途にもよるが後者の方が繊細で上品な味になるため高級品とされる。

日本では江戸時代の昔より鰹節の製造に使われてきた手火山式と呼ばれる特有の工法がある。手火山式とは、生切りした鰹をセイロに乗せた後、薪を使い高温に燻煙させて作る工程をいう。手火山式は原料の劣化が少なく香ばしさが生まれ、美味しい鰹節に仕上がるのが特徴であるが、近年では製造工程上の手間とコストの削減のため、急造庫などの設備を使った製造が主流になりつつある。

その他の節

同様の製法(荒節までの場合が多い)でカツオ以外の魚を用いた類似のものに

他にも秋刀魚を使用した製品など多種存在している。

健康リスクと輸出・海外生産

鰹節とかつお節加工残滓の黒粉には、摂取すると発癌性など人体に有害があるとされるベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素(PAHs)が多く含まれるものがある[9][10]。PAHs は燻煙に使用する煙が凝固した煤とタールや原料魚に含まれる油脂の燃焼煙に由来するとされている[9]。かつお節黒粉は工業的に抽出され出汁や調味液の原料として利用されているため、かつお節黒粉抽出物中の PAHs 低減のための技術開発が行われている[9][10]

2015年時点で日本では規制値はないが、欧州連合(EU)カナダ中国韓国などでは規制値が設定されており、鰹節の輸出などの際に問題となることがある[11][10]。一方で鰹節は旨味を抽出できる食材として海外でも知られるようになっており、日本企業による輸出や海外生産の取り組みが増えている。日本国内の鰹節関連事業者が共同で設立した新会社「枕崎フランス鰹節」(鹿児島県枕崎市)は燻煙の燃料・時間を工夫することで規制値を下回るようにする技術を開発し、ブルターニュ地方コンカルノーに建設した工場で2016年9月から生産を始めた[12]

静岡県焼津市の鰹節メーカー・新丸正は製造工程を改良し、EU向け輸出に必要なHACCP認証を2017年に取得した[13]

インドネシアでは現地企業が鰹節を生産しており、ヤマキは提携して仕入先としている[14]。ヤマキはこのほか、鰹節の韓国現地生産にも乗り出している[15]

その他

ギネスブックと鰹節

鰹節は世界一硬い食品として[16]ギネスブックに載っている[17]

脚注

  1. 三省堂. “おかか”. 大辞林 第三版. エキサイト. . 2015閲覧.
  2. 軟水と硬水について
  3. 硬水・軟水で料理の味が変わる
  4. 軟水、硬水はどのように使い分けされているのでしょうか。
  5. 第15回 平成28年度 遺跡調査報告会資料是川縄文館 2017年10月25日閲覧
  6. 6.0 6.1 屋久島は実際は薩摩国ではなく、大隅国に属する。
  7. 宮下章 『鰹節』 法政大学出版局
  8. 山本おさむそばもん ニッポン蕎麦行脚 第8巻』 小学館、2011年。ISBN 978-4-09-184273-2。 より「出汁のあれこれ」。
  9. 9.0 9.1 9.2 かつおぶし・削りぶしの製造における多環芳香族炭化水素類(PAHs) の低減ガイドライン (第1版) 全国削節工業協会 かつお節安全委員会 2015-12-03閲覧 (PDF)
  10. 10.0 10.1 10.2 笠根岳、岡田美緒、遠藤英明、任恵峰、活性炭によるかつお節加工残滓熱水抽出液中の多環芳香族炭化水素類(PAHs)の除去 日本水産学会誌 Vol.81 (2015) No.5 p.826-835, doi:10.2331/suisan.81.826
  11. “時事ドットコム:EUに「万博特例」要請=かつお節、フグ持ち込めず-ミラノ博の和食提供・政府”. 時事ドットコム (時事通信社). (2014年12月9日). オリジナル2014年12月9日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/l564e . 2015-12-3閲覧. 
  12. “仏で初のかつお節工場操業 鹿児島・枕崎の組合”. 日本経済新聞. (2016年9月2日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG01HFU_S6A900C1CR0000/ 
  13. “焼津の新丸正、EUにかつお節輸出”. 日本経済新聞地域ニュース(東海). (2017年2月16日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB15HDG_V10C17A2L61000/ 
  14. “ヤマキ、インドネシアからかつお節独占調達 年500トン”. 日本経済新聞地域ニュース(四国). (2016年7月27日). http://www.nikkei.com/article/DGXLZO05297440W6A720C1LA0000/ 
  15. 韓国に初の削り節製造子会社を設立”. ヤマキ(プレスリリース). . 2017閲覧.
  16. 世界一硬い加工食品 チーズプロフェッショナル協会 2018年1月5日閲覧
  17. 鰹節物語 鰹節工房 2017年4月9日閲覧

関連項目

外部リンク