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'''双対'''(そうつい、{{lang|en|dual}}, {{lang|en|duality}})とは、互いに[[対]]になっている2つの対象の間の関係である。2つの対象がある意味で互いに「裏返し」の関係にあるというようなニュアンスがある(双対の双対はある意味で "元に戻る")。また、2つのものが互いに双対の関係にあることを「'''双対性'''がある」などとよぶ。双対は[[数学]]や[[物理学]]をはじめとする多くの分野に表れる。
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'''双対'''(そうつい、{{lang|en|dual}}, {{lang|en|duality}}
  
なお読みについて、双対を「そうたい」と読む流儀もあり「相対 (relative)」と紛らわしい。並行して相対を「そうつい」と読む流儀もある。一般には「双対」を「そうつい」、「相対」を「そうたい」と呼び分ける場合が多いようである。
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数学全体において現れる一つの構造論的原理である。 (1) 射影幾何学に関して 射影幾何学の定理は,たとえば,パスカルの定理とブリアンションの定理のように,すべて2つ一組になっていて,互いにまったく対称的で,その構造が同じであって,ただ言葉 (双対要素という)を置き換えるだけで,一方から他方が得られる。このような2つの定理の間にある関係を双対性 dualityといい,2つの定理は互いに他の双対になっているという。このような置き換えによって得られる新しい定理あるいは命題を,もとの定理あるいは命題の双対定理あるいは双対命題という。互いに双対な定理は,その一方が真であれば,他方も証明なしに真であるといえる。このことを「双対の原理」という。以上は平面の場合であるが,空間の場合にも,点を平面に,平面を点に置き換えて,双対定理をつくることができる。
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<html>
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<table cellpadding="3" border="1" width="85%">
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    <tbody><tr>
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      <td nowrap="" align="center">パスカルの定理</td>
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      <td nowrap="" align="center">ブリアンションの定理</td>
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    </tr>
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    <tr>
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      <td valign="top">円錐曲線に内接する6点形の,向い合った3対の辺が交わる3点は1直線で結ばれる。</td>
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      <td valign="top">円錐曲線に外接する6辺形の,向い合った3対の頂点を結ぶ3直線は1点で交わる。</td>
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    </tr>
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    <tr>
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      <td nowrap=""></td>
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      <td nowrap=""></td>
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    </tr>
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    <tr>
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      <td nowrap="">点</td>
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      <td nowrap="">直線</td>
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    </tr>
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    <tr>
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      <td nowrap="">直線</td>
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      <td nowrap="">点</td>
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    </tr>
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    <tr>
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      <td nowrap="">交わる</td>
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      <td nowrap="">結ぶ</td>
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    </tr>
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    <tr>
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      <td nowrap="">結ぶ</td>
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 +
      <td nowrap="">交わる</td>
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    </tr>
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</tbody></table> </html>
  
双対の具体的な定義は、双対関係の成立している対象の種類によって様々に与えられる。
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(2) 線形空間について 射影幾何学は,体 <i>K</i> 上のベクトル空間 <i>V</i> の部分空間で表わすことができる。ここで,<i>V</i> から <i>K</i> への線形変換,すなわち <i>V</i> 上の1次形式全体を <i>V</i> <sup>*</sup> とすると <i>V</i> <sup>*</sup> もベクトル空間になり,<i>V</i> <i>n</i> 次元なら <i>V</i> <sup>*</sup> も <i>n</i> 次元になる。このとき,射影幾何の双対の原理は,<i>V</i> <i>V</i> <sup>*</sup> の部分空間の関係を表わすことになる。 <i>V</i> が無限次元のときは,位相を考えて双対を論じるが,関数解析の中心課題になる。特に,<i>V</i> がヒルベルト空間の場合,それが積分方程式論の基礎となる。 (3) 数学的構造について 同様の関係を一般化して,ある構造の典型 <i>U</i> について,その構造をもった <i>G</i> から <i>U</i> への準同形 <i>G</i> <sup>*</sup> に構造を考えて,<i>G</i> <i>G</i> <sup>*</sup> の関係を論じることがある。たとえば,局所コンパクトなアーベル群については,<i>U</i> を絶対値1の複素数の群とした場合が,ポントリャーギンの双対性で,フーリエ変換論を形式化したものになっている。 (4) 束について 論理で <i>G</i> を提示することと,<i>U</i> で表現することと,いわば外延と内包の双対性でもある。これは,論理の[[ブール束]]の場合であるが,一般に束で順序を逆転させることで双対性が考えられる。射影幾何学も,束と考えれば,この特別な場合になる。 (5) 圏について 順序よりも一般的に,圏論で射の方向を逆転させて双対性を考えることである。このことによって多くの数学の分野の諸結果を包括的に把握できる。
 
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== 数学における双対概念 ==
 
=== 正多面体の双対 ===
 
[[正多面体]]の'''双対'''、あるいは'''双対関係'''にある正多面体とは、与えられた正多面体の各面の中心(面心)に頂点を取り、それらを結んで造られる立体(これも正多面体)のこと。双対の双対はもとの正多面体と[[図形の相似|相似]]になる<ref>[[東京リーガルマインド|LEC東京リーガルマインド]] 公務員試験 過去問 新クイックマスター 判断推理・図形 第4版 319ページ 正多面体の双対性</ref>。''通常の多面体への拡張は、[[双対多面体]]を参照''
 
 
 
* 正六面体(立方体)と正八面体。
 
* 正四面体と正四面体自身。
 
* 正十二面体と正二十面体。
 
 
 
=== グラフの双対 ===
 
与えられた平面グラフに対し、その外面も含む各面に新たな頂点を対応させ、もとのグラフでは隣り合う面に対応する頂点同士を結んで得られるグラフを、与えられたグラフの'''双対グラフ'''という。 形式的には 平面グラフ ''G'' = (''V'', ''E'', ''F'') (''V'':頂点集合、''E'':辺集合、''F'':面集合)に対して、その双対グラフは ''G''<sup>*</sup> = (''F'', ''E'', ''V'') で与えられるグラフである。
 
[[Image:Four Colour Planar Graph.svg|center|]]
 
 
 
=== 論理の双対 ===
 
命題を論理式として表したとき、[[論理和]] &or; と[[論理積]] &and; とをすべて入れ替え、[[全称記号]] &forall; と[[存在記号]] &exist; とをすべて入れ替えたものをもとの論理式の'''双対'''といい、入れ替えて得られた命題をもとの命題の'''双対命題'''と呼ぶ。双対の双対はきっちり元に戻る。
 
 
 
元の論理式が証明可能ならばその双対の否定が証明可能であり、ある論理式の否定が証明可能ならば、その論理式の双対が証明可能になる。
 
 
 
=== ベクトル空間の双対 ===
 
''V'' を[[可換体|体]] ''K'' 上の[[ベクトル空間]]とし、''V'' から係数体 ''K'' への[[線形写像]](一次形式)の全体の成すベクトル空間を ''V''<sup>*</sup> と書いて ''V'' の'''[[双対ベクトル空間]]'''または'''双対空間'''と呼ぶ。
 
 
 
任意のベクトル空間は、その双対空間の双対空間に自然に (canonical) 埋め込まれる(つまりこの埋め込みは基底のとり方によらない)。特に有限次元のベクトル空間の双対の双対は、もとの空間と自然に[[準同型|同型]]である。
 
 
 
===アーベル群の双対===
 
[[アーベル群]] ''G'' から、0 を除く複素数全体のなす乗法群 '''C'''<sup>&times;</sup> への準同型(これは(1 次の)'''[[指標]]''' (character) と呼ばれる)全体のなす群 ''G''<sup>^</sup> を'''双対群'''(または '''[[指標群]]''')という。指標の間の演算は、写像の値の複素数としての積によって入れる。
 
 
 
アーベル群 ''G'' が有限のときには、双対群はもとの群と同型になり、双対群の双対群 ''G''<sup>^^</sup> には元の群との間に自然な同型がある。アーベル群とその指標群との双対性は'''[[ポントリャーギン双対]]'''の一種である。なおポントリャーギン双対は、一般には局所コンパクト位相群で考えられる双対性であり、有限アーベル群は離散位相を入れてコンパクト群(したがって局所コンパクト)である。
 
 
 
さらに、有限アーベル群 ''G'' の部分群 ''H'' に対し、''G''<sup>^</sup> の部分群 ''H''<sup>*</sup> を、
 
:<math>H^* :=
 
  \{\chi \in \hat{G}\mid \chi(h)=1 \mbox{ for all }h \in H\}
 
</math>: 全ての ''H'' の元を 1 に写す指標全体
 
で定義し、''G''<sup>^</sup> の部分群 &Phi; に対して ''G'' の部分群 &Phi;<sup>*</sup>
 
:<math>\Phi^* :=
 
  \{ g\in G \mid \phi(g)=1 \mbox{ for all } \phi \in \Phi \}
 
</math>: &Phi; の任意の指標によって 1 に移されるような ''G'' の元全体
 
と定義すると、自然な同型
 
:<math>
 
  H^* \simeq (G / H)^\wedge, \quad
 
  \Phi^* \simeq (\hat{G} / \Phi)^\wedge
 
</math>  
 
が成立する。さらにまた ''H'' を ''H''<sup>*</sup> に対応させるような ''G'' の部分群全体から ''G''<sup>^</sup> の部分群全体への写像は全単射で、(''H''<sup>*</sup>)<sup>*</sup> = ''H'' が成り立つ(&Phi;<sup>*</sup> に関しても同様)。
 
 
 
そして有限性や可換性の条件をゆるめると問題は急速に難しくなる。
 
{{節スタブ}}
 
 
 
=== 圏の双対 ===
 
与えられた圏において、圏の対象を共有し射の向きを逆にして得られる新たな圏を、もとの圏の'''双対圏'''という。
 
 
 
また、ある圏の対象と射からなる図式で射の向きを逆にしたものをもとの図式の双対であるという。圏では図式を用いて種々の概念や対象を定義することが多いが、そのそうな概念に対し、対応する双対図式で定義される概念をもとの概念の双対概念と呼ぶ。たとえば「直積と直和」や「極限(逆極限)と余極限(直極限)」は互いに双対な概念である。
 
 
 
== 双対問題・双対定理 ==
 
{{Main|双対問題}}
 
 
 
== 電気と磁気における双対概念 ==
 
 
 
[[電磁気学|電磁気]]において、静的な[[電気]]と[[磁気]]([[電場]]と[[磁場]])には双対性が現れる。すなわち、片方についてのある公式が成り立つとき、他方についても類似した公式が成り立つ。電磁気の双対性の起源をたどると、最終的には[[特殊相対性理論]]にゆきつく。即ち、電場と磁場は[[ローレンツ変換]]によって密接に結びついている。
 
 
 
* 電場 — 磁場
 
* [[電束密度]] — [[磁束密度]]
 
* [[ファラデーの電磁誘導の法則|ファラデーの法則]] — [[アンペールの法則]]
 
* [[電荷]]の[[ガウスの法則]] — [[磁気単極子]]のガウスの法則
 
* [[電位]] — [[磁位]]
 
* [[誘電率]] — [[透磁率]]
 
* [[圧電効果]] — [[磁歪]]
 
* [[強誘電体]] — [[強磁性|強磁性体]]
 
* [[静電モーター]] — [[電動機|磁気モーター]]
 
* [[エレクトレット]] — [[永久磁石]]
 
* [[ファラデー効果]] — [[カー効果]]
 
 
 
== 物理学における双対概念 ==
 
* [[AdS/CFT対応]](反ド・ジッター (anti de Sitter)/共形場理論 (conformal field theory) 対応)、マルダセーナ双対性とも呼ばれることもある
 
* {{仮リンク|双対共鳴モデル|en|Dual resonance model}}
 
* {{仮リンク|エングラート=グリーンバーガー双対関係|en|Englert–Greenberger duality relation}}
 
* [[ホログラフィック原理|ホログラフィック双対]]
 
* [[クラマース=ワニエ双対性]]
 
* {{仮リンク|双対性一覧表|en|List of dualities#Science: Physics}}
 
* [[ミラー対称性 (弦理論)|ミラー対称性]]
 
* {{仮リンク|モントネン=オリーブ双対|en|Montonen–Olive duality}}
 
* [[M-理論|ミステリアスな双対性]]
 
* {{仮リンク|弦双対性|en|String duality}}は[[対称性 (物理学)|対称性]]のクラスである
 
** [[S-双対]]
 
** [[T-双対]]
 
** {{仮リンク|U-双対|en|U-duality}}
 
* [[粒子と波動の二重性|粒子と波動の双対性]]
 
 
 
== 電気工学における双対概念 ==
 
 
 
[[電気工学]]においても、数々の双対性が成り立っている。双対関係は数式中の電圧と電流を入れ替えることによって得ることができる。また、双対性が成り立つ理由の一部は[[#電気と磁気における双対概念|電気と磁気の双対性]]に遡ることができる。
 
 
 
以下は電気工学における主な双対の例である。
 
 
 
* [[電圧]] — [[電流]]
 
* [[直列回路と並列回路|並列 — 直列]](回路)
 
* [[電気抵抗|電気抵抗(レジスタンス)]] — [[コンダクタンス]]
 
* [[インピーダンス]] — [[アドミタンス]]
 
* [[静電容量|静電容量(キャパシタンス)]] — [[インダクタンス]]
 
* [[リアクタンス]] — [[サセプタンス]]
 
* [[短絡]] — 開放 ([[:en:open circuit|open circuit]])
 
* 短絡電流 — 開放電圧
 
* 直列の抵抗 — 並列のコンダクタンス
 
* [[キルヒホッフの法則 (電気回路)|キルヒホッフの電流則]] — [[キルヒホッフの法則 (電気回路)|キルヒホッフの電圧則]]
 
* [[テブナンの定理]] — [[ノートンの定理]]
 
 
 
== 関連項目 ==
 
* [[対合]]
 
* [[類推]](アナロジー)
 
* [[共役]]
 
 
 
== 外部リンク ==
 
[http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/21/06.html 双対性]
 
 
 
== 脚注 ==
 
{{reflist}}
 
 
 
{{sci-stub}}
 
  
 
{{DEFAULTSORT:そうつい}}
 
{{DEFAULTSORT:そうつい}}

2018/12/29/ (土) 19:35時点における版

双対(そうつい、dual, duality

数学全体において現れる一つの構造論的原理である。 (1) 射影幾何学に関して 射影幾何学の定理は,たとえば,パスカルの定理とブリアンションの定理のように,すべて2つ一組になっていて,互いにまったく対称的で,その構造が同じであって,ただ言葉 (双対要素という)を置き換えるだけで,一方から他方が得られる。このような2つの定理の間にある関係を双対性 dualityといい,2つの定理は互いに他の双対になっているという。このような置き換えによって得られる新しい定理あるいは命題を,もとの定理あるいは命題の双対定理あるいは双対命題という。互いに双対な定理は,その一方が真であれば,他方も証明なしに真であるといえる。このことを「双対の原理」という。以上は平面の場合であるが,空間の場合にも,点を平面に,平面を点に置き換えて,双対定理をつくることができる。

パスカルの定理 ブリアンションの定理
円錐曲線に内接する6点形の,向い合った3対の辺が交わる3点は1直線で結ばれる。 円錐曲線に外接する6辺形の,向い合った3対の頂点を結ぶ3直線は1点で交わる。
直線
直線
交わる 結ぶ
結ぶ 交わる

(2) 線形空間について 射影幾何学は,体 K 上のベクトル空間 V の部分空間で表わすことができる。ここで,V から K への線形変換,すなわち V 上の1次形式全体を V * とすると V * もベクトル空間になり,Vn 次元なら V *n 次元になる。このとき,射影幾何の双対の原理は,VV * の部分空間の関係を表わすことになる。 V が無限次元のときは,位相を考えて双対を論じるが,関数解析の中心課題になる。特に,V がヒルベルト空間の場合,それが積分方程式論の基礎となる。 (3) 数学的構造について 同様の関係を一般化して,ある構造の典型 U について,その構造をもった G から U への準同形 G * に構造を考えて,GG * の関係を論じることがある。たとえば,局所コンパクトなアーベル群については,U を絶対値1の複素数の群とした場合が,ポントリャーギンの双対性で,フーリエ変換論を形式化したものになっている。 (4) 束について 論理で G を提示することと,U で表現することと,いわば外延と内包の双対性でもある。これは,論理のブール束の場合であるが,一般に束で順序を逆転させることで双対性が考えられる。射影幾何学も,束と考えれば,この特別な場合になる。 (5) 圏について 順序よりも一般的に,圏論で射の方向を逆転させて双対性を考えることである。このことによって多くの数学の分野の諸結果を包括的に把握できる。