手袋
手袋(てぶくろ)は、保護や装飾のために手(形態によっては腕やその一部を含む)を覆う衣服[1]。
親指用と、他の指をまとめて入れるスペースが二つに分かれている手袋はミトンと呼ぶ[1]。また、指を解放しているタイプのものもあり[1]、「オープンフィンガーグローブ」と呼ばれる。
手袋の素材は多様で、綿や羅紗、ポリエステル、ナイロン、アクリル繊維の布、毛糸、フェルト、牛や羊の革・人造皮革、ゴム、ラテックス、金属、耐熱手袋にはアラミド繊維やシリコン樹脂も使われている。柔らかい布地で作られたウォッシンググローブ (英: washing glove) というものがあり、体を洗うのに使う。
数量単位は双。10双をデカ、12双をダースとして取引に用いられる。
なお、日本では「革又は合成皮革を製品の全部又は一部に使用して製造した手袋」について家庭用品品質表示法の適用対象となっており雑貨工業品品質表示規程に定めがある[2]。
Contents
目的
手袋を着用する主な目的は手の保護である。冬の防寒具としては一般的であるほか、季節を問わず火傷や擦り傷、切り傷の防止、さらに汚れや素手で触ることが危険な化学物質、病原体からも手を保護する。ラテックスやビニル製の使い捨て手袋は、医療従事者の間で感染症を防ぐ有効な手段として使われている。逆に直接手に触れることで価値や有効性が減る対象物を、人間の皮脂などから保護するためにも手袋は装着される。例として各種製造過程での製品接触、美術品や骨董品の取り扱い、警察の捜査等がある。
フィンガーレスグローブは寒さから手を守る必要があり、なおかつ指先を自由に使えることが必要な状況で用いられる。手袋の中には、手首までではなく肘近くまで保護するものもあり、これらをガントレット(籠手)と呼んで区別することもある。
手を保護する必要がない場合でも、装身具として用いられることも多い。
生産地
世界中で手袋は生産されており、日本の「かあさんの歌」(1956年発表)の歌詞で描かれたように各家庭で編まれることも多い。
フランス、イタリア、デンマーク、ハンガリーやカナダでは高価な女性用のブランド物手袋が作られている。アメリカ合衆国ニューヨーク州、特にグラバーズヴィルは手袋の産地であったことが知られているが、近年では多くの手袋が東アジアで作られている。日本では、国内製手袋の約90%が香川県東かがわ市周辺で作られている。
歴史
手袋の歴史は少なくとも古代ギリシア時代に遡る。ホメロスの『オデュッセイア』のいくつかの翻訳によると、オデュッセウスの父ラーエルテースは庭を歩く時に手袋をしていたとしている。しかし、他の翻訳によると、ただ袖で手を覆っただけである。紀元前440年に書かれたヘロドトスの著書『歴史』の中にレオテュキデスという人物が手袋、あるいはガントレット一杯の銀貨を賄賂として受け取った罪に問われていることが記述されている。古代ローマ人の記述の中にも、度々手袋が登場する。西暦100年前後に活躍した小プリニウスによると、大プリニウスは馬車に乗車中に口述筆記させていた速記者に冬の間は手袋を着用させ寒さの中でも文章を書けるようにしていたという。
ファッション、儀式、それに宗教のために手袋は用いられる。13世紀頃からヨーロッパでは女性の間でファッションとして手袋を着用するようになった。リネンや絹でできており、時には肘まである手袋が広まっていた。16世紀にイギリスの女王エリザベス1世が宝石や刺繍、レースで豪華に装飾されたものを着用した時に、手袋の流行は頂点に達した。オペラ・グローブと呼ばれるパーティー用長手袋の場合、食事や握手の時にいちいち外さずに済むよう、手首内側に手を出す為の穴が空けられている。
刺繍と宝石で装飾された手袋は皇帝や王の徽章の一部となっている。1189年にヘンリー2世が埋葬された時には、戴冠式のときに着用したローブと王冠、それに手袋とも共に埋められたと、マシュー・ペリーは記録している。1797年にイングランド王のジョンの墓を開いた時、それに1774年にエドワード1世の墓を開いた時にも、手袋が発見されている。
祭服としての手袋は、主にカトリック教会の教皇や枢機卿、僧侶たちが着用している。教義によりミサを祝う時にのみ着用を許されている。手袋はこの習慣は10世紀に遡り、儀式の際に手をきれいにしておきたいという単純な欲求が始まりかも知れないが、特権階級として豊かになった聖職者たちが己の身を飾るためにつけたものが始まりかも知れない。フランク王国からローマにこの習慣は広まり、11世紀の前半にはローマでも一般的になった。
日本では、鎌倉時代に武士が身につける籠手として発達した。当時は「手覆」(ておおい)とも呼ばれた。15~16世紀に南蛮貿易によって西洋式の手袋が輸入され、珍重された。やがて国内生産も始まり、手袋づくりは貧乏武士の内職として盛んになっていく。手袋は俳句における冬の季語でもある。
女性皇族は常に白の手袋を携帯しているが、これは帽子と共にその貴族性を象徴する為の物である。
用途
医療用手袋
手術や鑑識の際に着用される医療用手袋の基礎となるゴム手袋は、「レジデント制度の父」と呼ばれるジョンズ・ホプキンス大学のウィリアム・スチュワート・ハルステッドが1890年に自身の恋人であった看護婦のキャロラインの為に発案した。当時は消毒のために強力な消毒液に手を漬けて手術に挑まなければならず、手の皮膚が弱いキャロラインが消毒液による手荒れを防げるよう、ゴム手袋を発案した。殺菌性についても今まで行っていたとされる消毒液に手を漬けて行うものよりも強力であったために注文が殺到し、全世界の手術の現場で普及することになる[3]。ちなみにその後、二人はこのことがきっかけで結婚することになったが、当のキャロラインはハルステッドと結婚して看護婦を引退したため、このゴム手袋を使うことは無かった。ラテックス製の手袋は、1964年にオーストラリアのアンセル社が開発した。一般用は食品産業や精密作業などで使用されるのに対し、手術用は管理のため一双ずつ梱包してあり、価格も10倍以上違う。
スポーツ用手袋
サッカーのゴールキーパーグローブや野球のバッティンググローブ、ゴルフ用、ドライブ用などのものは通常の手袋の目的の一つである手の保護以外にも、掴んだものを滑りにくくするグリップ性を重視している。
野球用グラブ・ミット、ボクシンググローブなど競技ごとに特化した手袋も存在する。
作業・運転用手袋
工場や農作業、工事現場での作業時には軍手をはめる場合が多い。軍手は防水性がない又は乏しいことが多いため、水仕事など液体を扱う時にはゴム製や合成樹脂製の手袋を、油や電動工具の研磨などを取り扱う場合は怪我防止や粉塵に触れないために豚革や牛革の手袋を使うこともある(軍手は繊維を巻き込むので危険のため使えない)。シンナーやトルエンなどを扱う時は溶剤専用のゴム手袋を使う。
また自動車やオートバイ、自転車などを運転する時に、滑り止めや防寒のために手袋を付けることもある。
スマホ用手袋
スマートフォンの操作に必要な指が発する静電気や指紋認証を妨げないように、導電性素材の使用や形状が工夫されている[4]。
礼装用手袋(ドレスグローブ)
モーニングコート等の礼服に用いられたり、警備員が手旗の代わりに用いたり、タクシー等の運転手が礼装をアピールしたり手やハンドルを汚さない為に用いる。なお、礼服ではドレスグローブという言い方をし、ボタンかスナップで留めるのが特徴。材質は革か布、色は白か灰色である。礼装は白・灰共に用いられ、ピンタックという三ツ山の装飾が外側に付いている。女性向けの礼装用ドレスグローブには、二の腕あたりまですっぽりと覆うロンググローブタイプのもの(オペラ・グローブ)もある。
神事用手袋
神社で神職が御霊代奉戴などを行う時、手が触れないように専用の手袋を用いる。白布製で拇指と四指とに分けた仕立てで、手元の紐で手首を括るようになっている[5]。
色
作業用は白が多い。一部の警備会社では略して「白手」(しろて)と呼ぶ。本来は燕尾服やタキシードなど夜の正装に用いて、モーニングコートなど昼には用いなかったが現在は関係なく用いられている。色は白が幅広く用いられているが厳密には燕尾服には白、モーニングコート・フロックコートには灰色、タキシードは黒となっている(背広で代用した場合も同じ)が現在は気にせず白や灰色を用いることも多い。弔事には服装を問わず灰色や黒を用いる。
種類
- アームカバー
- グラブ (野球)・ミット
- ゴールキーパーグローブ
- スキー用手袋
- 米国の輸入カテゴリーとして次の項目を満たすものと定義されている: ナスカンがついていること、掌側に補強層があること、甲側関節部に補強層があること、手首に伸縮処理があること。
- ボクシンググローブ
- フィンガーレスグローブ
- ミトン
- 親指と他の指を入れるところが二股に分かれている手袋。
- ゆがけ
- 籠手
製造方法
手袋製造のポイントは、親指の位置に起因する3次元性と、着脱時手幅と装着時手首幅の両方を受け入れる手首部分の柔軟性にある。
- ラテックスを含むゴム手袋は、手の形をした立体型に層を形成して製造する。素材の伸縮性により手首の柔軟性に問題はない。
- 裁断方法:革手袋や繊維生地手袋(縫い手袋)は、立体性を持たせるため主な裁断方法に「手型」と「ガンカット型」がある。前者は指4本を含む本体(掌と甲)をマチ(手の厚みである指側面)を中間に置いて縫い合わせ、後者は人差指と小指のマチを一体で裁断し 中指と薬指部分をマチ一体で別途裁断して縫い合わせる(中指と薬指の「付け根」を本体に縫い合わせる)。革の作業手袋など素材価格より縫製コストを抑えたい場合や躍動的感覚を持たせたい場合は後者となる。手首は、手が入りやすいように型に広がり(フレア)をつけておくか、ベンツ(開き)をつけておくか、伸縮性のあるマチまたは手首部分の材料を使うかのいずれかを施す。高級皮革手袋では、皮革を事前に湿らせて引き伸ばした状態で粗裁ちし、型抜きするテーブルカットという手法で、皮革自体に伸縮性を持たせる。園芸用やムートン手袋は、生地費用を節約するため、端材を利用できるような裁断・縫製を施すことがある。
- 縫製方法:素材の表面同士を縫い合わせて裏返す「内縫い」、素材の裏面同士をミシンや手で縫う「ゲージ縫い」、素材の裏面同士まつり縫いする「まつり縫い」、素材の表面と裏面をあわせる「ピケ縫い」がある。
- 工程:裁断後、マチを介し掌と甲を縫い合わせ、親指をつける。裏地も同様に縫製したあと本体に挿入し指先を本体に止める。手首を縫い合せる(折り返しやパイピングなど)。手の型をした金属片またはアイロンにかぶせ熱でアイロンがけする。検品後、タグ付けし袋詰めする。
- 毛糸手袋や軍手は縫製ではなく編み(ニット)手袋で、軍手は右手・左手に関係なく親指を広げた平面に全体を編む。対して毛糸手袋は本体を円筒形に編み、親指は後付する。ニットの伸縮性により手首の柔軟性に問題はない。手を入れると手の大きさにあわせて全体が拡張する「のびる手袋」は、弾力性のある糸で編んだあと洗濯して縮ませ、アイロンをかける。
用語
- ラテックス (語源:英: latex)
- 編み手袋
- 掌
- 甲
- マチ
- 手首
- 手首広がり
- ベンツ (語源:英: vents)
- ゲージ (語源:英: gauge、gage)
- 内縫い
- まつり
- ピケ (語源:英: pique)
- 半ピケ
- ガンカット (語源:英: guncut)
- 指下(親指最下部から手首までの長さ:一般に日本で売られる物は短い)
- 裏地
- 三本飾り
「片手袋」にまつわる文化
通常は2つで1セットとして扱われる手袋が、不注意などで片方だけ落とし物となり、路上などに放置されることがある。こうした「片手袋」に注目する人もおり、ドイツの版画家マックス・クリンガーは1880年代、こうした片手袋を女性が拾ったことから始まる連作『手袋』を制作した。
アメリカの俳優トム・ハンクスは街などで見掛けた落とし物をTwitterで発信しており、その中には片手袋も多い[6]。
日本でも石井公二が片手袋の写真を数千枚撮影し、場所や状況などを記録・分類する研究を行っている[7][8]。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 意匠分類定義カード(B2) 特許庁
- ↑ “雑貨工業品品質表示規程”. 消費者庁. . 2013閲覧.
- ↑ “院長コラム Vol.09 外科医の恋心から生まれた手術用手袋”. 医療法人徳洲会 新庄徳洲会病院 (2005年11月15日). . 2016-8-27閲覧.
- ↑ 手袋でも指紋認証可能!この冬おすすめの最新スマホ手袋3選&Androidの便利ワザKDDI「TIME&SPACE」(2017年11月22日)2018年2月11日閲覧
- ↑ 神社本庁『神社有職故実』1951年7月15日発行全129頁中70頁
- ↑ トム・ハンクスが、なぜが「街の落し物」をツイートし続けているBuzzFeed(2016年3月22日)2018年2月11日閲覧
- ↑ 片手袋大全(2018年2月11日閲覧)
- ↑ 「ワンダフルライフ:“片手袋”のある風景を撮り続けて13年。東京という大都市で人生が交差する――石井 公二さん」『ビッグイシュー日本版』326号
関連項目
- 決闘:欧米では、白手袋を相手に投げる、又はそれで相手を叩いて決闘の挑戦とする伝統があった。