一色正春
一色 正春(いっしき まさはる、1967年(昭和42年)1月3日 - )は、日本の内部告発者、元海上保安庁の海上保安官(最終階級:三等海上保安正)。尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件において、「sengoku38」名で映像を動画共有サービス・YouTubeへ最初に投稿した。国立富山商船高等専門学校卒業、放送大学教養学部卒業、学士(教養学)。妻は韓国籍の韓国人であると報道されている。[1]
Contents
人物・来歴
京都府京都市出身[2]。国立富山商船高等専門学校卒業[3]。学生時代は空手の稽古に熱中していた。商船学校卒業後は、海運業を営む企業に就職し、外航航路の船員として原油や天然ガスを日本に輸送するタンカー船などに乗船した[4]。20代半ばで不況もあって船を降り、サラリーマン、職人見習いのようなことを日本で経験した[4]。その後商船時代の同僚が先に海保にいたこともあり、30歳のとき国家公務員試験を受けて海上保安官となる[4]。
海上保安学校門司分校を卒業後[5]、1998年に釜石海上保安部で巡視艇勤務[6]、2003年に小松島海上保安部の予備員、2004年に姫路海上保安部で巡視艇の航海士として勤務した[7]。2007年、放送大学卒業[8]。2010年には、神戸海上保安部(兵庫県神戸市)の巡視艇「うらなみ」の主任航海士[9] となった[7]。
海上保安庁には国際捜査官と呼ばれる職域があり、一色は語学力と空手で鍛えた身のこなしを生かして、日韓を結ぶ国際捜査にも携わった[7][8]。上司や部下、同僚は、「真面目で気さく」「仕事は優秀だった」と話している[7]。
2010年11月、尖閣諸島中国漁船衝突事件の映像を流出させる。
同年、SPA!の「期待以上の働きをした男」ランキングで8位に入った[10]。
2011年2月9日、創生「日本」の総会に招かれる[11]。同年3月13日に開催予定だった、ゴー宣道場に一般参加者として応募し、当選していたが東日本大震災の影響で道場自体が中止となった[12]。8月15日には、靖国神社境内で執り行われている「全国戦歿者追悼中央国民集会」に出席し、弁士として講演した[13]。
2012年、論文「中国の狙いは尖閣だけではない」で第5回「真の近現代史観」懸賞論文“最優秀藤誠志賞”を受賞。
尖閣諸島中国漁船衝突映像投稿の経緯と処遇
2010年10月下旬から11月初め、尖閣諸島中国漁船衝突事件のビデオ映像が入ったSDカードを、CNNの東京支局に郵送した[14]。この映像を送りつけられたCNNでは、出所不明の怪文書の類とみなしてSDカードを直ちに処分、廃棄した。CNNの動きが無かったため、同年11月4日、神戸市のネットカフェで「sengoku38」というアカウント名でYouTubeに動画をアップロードした。CNNが報道していればYouTubeにはアップロードしなかったと後に語っている[4]。同様に、自らが出演したテレビ番組では「東京では報道陣などに配布するDVDも用意していた」と語った[15]。
一色は動画投稿後、読売テレビに連絡し、事件の詳しい内容を話した[4]。一色はいずれ流出元が自分であると判明すると考えており、読売テレビの取材に応えたのは逮捕された時に「頭のおかしなやつがやったこと」にされないための保険であった[4]。
同年11月10日、動画を流出させたのが自分であると上司に名乗り出、神戸市の庁舎で国家公務員法違反の任意聴取に応じる。以後11月16日まで庁舎宿泊をしながら聴取に応じた。
同年12月17日に辞職届を提出[16]。12月22日、海上保安庁により停職12か月の懲戒処分[17][18]。同時に辞職届が受理され同日付で海上保安官を辞職した[16][17][18]。在任中、長官表彰3回、本部長表彰4回受彰[8]。同12月22日、警視庁により国家公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検された[18]。一色は動画投稿について、「政治的主張や私利私欲に基づくものではない」と述べ、後悔はしていないことを強調した[19]。
2011年1月21日に国家公務員法違反について起訴猶予処分が下された[20]。
sengoku38
YouTubeのプロフィールには、「年齢:25歳」「国:日本」と登録されていたが[21]、実際は43歳であった。
アカウント名に含まれる"sengoku"は、当時の内閣官房長官仙谷由人を意識したものと報道された[22][23]。"38"については読みをもじった多数の説が挙げられた他、「sengoku」で登録を試みたところ既に使われている名前のため、無作為に自動作成された候補の中から採用しただけ、といった説が浮上した[22][23]。このアカウント名について仙谷は記者会見で、「あれっ、と思いました」、「私あんまり自分でユーチューブとかそういうところに投稿したりすることしておりませんので」などと述べた[24]。
"sengoku38"の名前の意味について、一色は当初は"sengoku"について「官房長官の仙谷でもあるし、戦国時代の戦国かもしれない」と話していた[25]。後に"sengoku38"で投稿した意味については捜査当局、家族、弁護士にも話していないとし[26]、「事件が忘れられてしまうので、謎が残った方がいい[27]」「まあ、1つくらい秘密が残った方が事件が忘れられない感じになる、という気持ちがあります。『あんまり気にしないでください』と言えば、逆に気になるでしょうけど、それが狙いなので[28]」と話した。
流出ならびにsengoku38というワードは、マスメディアにおいて多数使用され、2010年ネット流行語大賞の銀賞に選ばれた[29]。
名前を考えた時期については「ネットカフェに行く途中」と答えている[15]。
主張
憲法9条に関して「日本国憲法第9条のおかげで日本の平和が保たれているとお考えの方は、是非とも9条第3項に「他国が日本にミサイルを撃ち込むことを禁止する」という条項を追加してくれ」などと主張している。[30]
出演
テレビ
- 読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」(2011年5月29日、2011年7月10日、2012年4月22日、2012年9月23日)
- 読売テレビ「かんさい情報ネットten!」(2011年7月19日)
- テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」(2011年8月15日)
- BS11「INsideOUT」(2011年11月14日)
- 読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」(2012年7月10日)
- TBSテレビ「サンデー・ジャポン」(2012年8月19日)
- テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」(2012年8月20日)
- フジテレビ「情報プレゼンター とくダネ!」(2012年8月28日)
- 日本文化チャンネル桜
ラジオ
- ニッポン放送「勝谷誠彦のこれがニュースだ!」(2011年6月13日)
- 文化放送「夕やけ寺ちゃん 活動中」(2011年10月12日)
著書
- 『何かのために sengoku38の告白』(朝日新聞出版 ISBN 9784023309203、2011年2月18日)
- 『日本を守りたい日本人の反撃』(産経新聞出版 ISBN 9784819111553、2012年4月3日)田母神俊雄との共著
論文
脚注
- ↑ AERA 2010年11月22日 20ページ
- ↑ 一色 著者プロフィール
- ↑ “日本のアウンサンスーチー、尖閣ビデオを一部公開した一色正春(sengoku38)”. 地球ネットワークス(Chikyu NetworX) (2010年11月17日). . 2011閲覧.
- ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 情報デモクラシー2011:尖閣映像流出の真意は 一色元海上保安官にインタビュー 毎日新聞 2011年2月22日
- ↑ 一色 p13
- ↑ 一色 p19
- ↑ 7.0 7.1 7.2 7.3 “激励の声続々! 流出海上保安官の素顔…出馬情報も”. 夕刊フジ/ZAKZAK. . 2011閲覧.
- ↑ 8.0 8.1 8.2 『(独占手記)一色正春元海上保安官が尖閣ビデオを徹底分析する』 WiLL 2011年4月号 p.28-41 ワック
- ↑ 読売新聞2010年11月11日の記事で「巡視船うらなみにおける実質ナンバー3の立場」と報道された。
- ↑ “紳助「あざとい金儲けが…」嫌いな男ナンバーワンは?”. 週刊SPA! (扶桑社). (2011年3月2日). オリジナルの2011年3月14日時点によるアーカイブ。 . 2013閲覧.
- ↑ “尖閣映像流出の元海保職員、超党派の勉強会に”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2011年2月9日). オリジナルの2011年4月15日時点によるアーカイブ。 . 2013閲覧.
- ↑ [1]
- ↑ 2/3【各界からの提言】第25回 全国戦歿者追悼中央国民集会[桜H23/8/17] - YouTube
- ↑ “尖閣衝突映像CNNに郵送、海上保安官供述”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2010年11月25日). オリジナルの2010年11月27日時点によるアーカイブ。 . 2011閲覧.
- ↑ 15.0 15.1 “sengoku38”こと一色正春氏がたかじんと番組討論「報道陣に配るDVDも用意していた オリコンニュース 2011年5月28日
- ↑ 16.0 16.1 “保安官「後悔していない」 尖閣ビデオ流出、海保処分”. 神戸新聞 (47NEWS). (2010年12月23日) . 2012閲覧.
- ↑ 17.0 17.1 “映像流出の保安官、停職12カ月 保安官は処分後、辞職”. 共同通信社. 47NEWS. (2010年12月22日) . 2012閲覧.
- ↑ 18.0 18.1 18.2 “海上保安官、停職1年の厳重処分 尖閣の映像流出容疑”. 共同通信社. 47NEWS. (2010年12月22日) . 2012閲覧.
- ↑ “保安官、きっぱり「後悔せず」 書類送検にも淡々”. 共同通信社. 47NEWS. (2010年12月22日) . 2012閲覧.
- ↑ “尖閣事件の元海上保安官起訴猶予 衝突の中国人船長も”. 共同通信社. 47NEWS. (2011年1月21日) . 2012閲覧.
- ↑ “投稿者「sengoku38」の意図は?”. News i (TBSテレビ). (2010年11月5日). オリジナルの2010年11月9日時点によるアーカイブ。 . 2010閲覧.
- ↑ 22.0 22.1 “ハンドルネーム「sengoku38」とは何者?”. スポーツ報知 (報知新聞社). (2010年11月6日). オリジナルの2010年11月10日時点によるアーカイブ。 . 2010閲覧.
- ↑ 23.0 23.1 “ビデオ投稿者「sengoku38」の「38」って?”. 夕刊フジ (産経新聞社). (2010年11月5日). オリジナルの2011年1月9日時点によるアーカイブ。 . 2010閲覧.
- ↑ 阿比留瑠比 (2010年11月5日). “「ユーチューブ見ていない」仙谷官房長官が会見・全文[記者ブログ]”. 産経新聞. オリジナルの2010年11月10日時点によるアーカイブ。 . 2010閲覧.
- ↑ “海上保安官、投稿名について「仙谷でもあるし、戦国・・・」”. 産経新聞. (2010年11月11日). オリジナルの2010年11月20日時点によるアーカイブ。 . 2011閲覧.
- ↑ 【元尖閣保安官 講演(5)】sengoku38の意味は…「一つぐらい秘密あった方が事件忘れられない」 産経新聞 2011年2月14日
- ↑ 朝日新聞 2011年1月22日
- ↑ 堀内彰宏 (2011年2月15日). “平成の二・二六事件!? sengoku38氏が語る「尖閣ビデオ」事件の真相”. Business Media 誠. ITmedia. pp. p. 3. . 2011閲覧.
- ↑ “【Web】ネット流行語大賞2010決定 1位は「そんな装備で大丈夫か?」”. MSN産経ニュース (産業経済新聞社). (2010年12月2日). オリジナルの2011年1月26日時点によるアーカイブ。 . 2013閲覧.
- ↑ https://twitter.com/nipponichi8/status/935851642087383040
参考文献
- “Coast Guard Video Leaker in the Spotlight”. The Wall Street Journal. . February 14, 2011閲覧.
- “元海上保安官『Sengoku38』が講演”. ウォール・ストリート・ジャーナル日本版. . 2011閲覧.
- 一色正春 『何かのために sengoku38の告白』 朝日新聞出版、2011年。ISBN 9784023309203。
外部リンク
- 行雲流水 - ブログ