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− | '''チェビシェフの不等式'''(チェビシェフのふとうしき)は、[[不等式]]で表される、[[確率論]]の基本的な[[定理]]である。[[パフヌティ・チェビシェフ]]により初めて証明された。 | + | '''チェビシェフの不等式'''(チェビシェフのふとうしき) |
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− | [[標本]]あるいは[[確率分布]]は、[[平均]]のまわりに、ある[[標準偏差]]をもって分布する。この分布と標準偏差の間に、どのような標本・確率分布でも成り立つ関係を示したのが、チェビシェフの不等式である。例えば、平均から 2[[標準偏差]]以上離れた値は全体の 1/4 を超えることはなく、一般にn標準偏差以上離れた値は全体の
| + | 確率変数を <i>x</i> ,<i>x</i> の平均値を μ ,正の分散を σ<sup>2</sup> とするとき,任意の正の数 ε に対して |<i>x</i>-μ|≧ε となる確率は σ<sup>2</sup>/ε<sup>2</sup> より大きくない。すなわち確率の記号を使って式に表わせば Pr(|<i>x</i>-μ|≧ε)≦σ<sup>2</sup>/ε<sup>2</sup> である。この式をチェビシェフの不等式という。関数解析的にいえば,平均収束と測度収束の関係を表わしている。 |
− | 1/n<sup>2</sup> を超えることはない。
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− | ==一般的表現==
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− | この不等式は[[測度論]]を使って一般的に述べることができ、それから特別の場合([[測度空間]]の[[次元]]が 1)として、確率論での形が導かれる。
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− | ===測度論的表現===
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− | (''X'',Σ,μ) を測度空間、''f'' を ''X'' 上で定義された拡張[[実数]]([[無限大]]を含む)値可測[[関数 (数学)|関数]]とすると、任意の実数 ''t'' > 0 に対して
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− | {{Indent|<math>\mu(\{x\in X\,:\,\,|f(x)|\geq t\}) \leq {1\over t^2} \int_X f^2 \,d\mu</math>}}
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− | となる。より一般的には、 ''g'' が非負実数値可測関数で、 ''f'' の範囲で減少しないとすれば、
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− | {{Indent|<math>\mu(\{x\in X\,:\,\,f(x)\geq t\}) \leq {1\over g(t)} \int_X g\circ f\, d\mu</math>}}
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− | となる。最初の式は、ここで''g''(''t'') を
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− | {{Indent|<math>g(t)=\begin{cases}t^2&\mbox{if}~~~t\geq0\\0&\mbox{otherwise,}\end{cases}</math>}}
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− | で定義し、''f'' の代わりに |''f''| を用いれば導かれる。
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− | ===確率論的表現===
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− | ''X'' を、[[期待値]]が ''μ'', 有限の[[分散 (確率論)|分散]]が ''σ''<sup>2</sup> である確率変数とすると、任意の実数 ''k'' > 0 に対して
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− | {{Indent|<math>\Pr(\left|X-\mu\right|\geq k\sigma)\leq\frac{1}{k^2}</math>}}
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− | ただし ''k'' > 1 の場合にだけ意味がある。
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− | 例として、''k'' = √2 を使えば、少なくとも半数の値は区間 (''μ'' − √2 ''σ'', ''μ'' + √2 ''σ'') 内に存在することがわかる。
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− | チェビシェフの不等式は[[大数の法則]](弱法則)の証明に用いられるものとして特に重要である。
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− | ===応用例===
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− | わかりやすい例として、大量の文書があるとしよう。その文章の長さは平均1000文字、標準偏差は200文字であることがわかっているとしよう。するとチェビシェフの不等式から、少なくとも75%の文章が600から1400文字の長さであることが導かれる(''k'' = 2 の場合)。
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− | ==証明==
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− | ===測度論的な証明===
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− | ''A''<sub>''t''</sub> を ''A''<sub>''t''</sub> = {''x'' ∈''X''| ''f''(''x'') ≥ ''t''} で定義し、
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− | {{Indent|<math>1_{A_t}</math>}}
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− | を集合 ''A''<sub>''t''</sub> の[[指示関数]]とすると、簡単にわかるように
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− | {{Indent|<math>0\leq g(t)1_{A_t}\leq g\circ f\,1_{A_t}\leq g\circ f</math>}}
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− | であり、従って
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− | {{Indent|<math>g(t)\mu(A_t)=\int_X g(t)1_{A_t}\,d\mu\leq\int_{A_t} g\circ f\,d\mu\leq\int_X g\circ f\,d\mu</math>}}
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− | となる。上の不等式を''g''(''t'')で割れば、目的の不等式が得られる。
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− | ===確率論的な証明===
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− | 任意の実数ランダム変数 ''Y'' と任意の正の実数 ''a'' に対して、[[マルコフの不等式]]から Pr(|''Y''| > ''a'')≤ E(|''Y''|)/''a'' であることがわかる。 ''a'' = (σ''k'')<sup>2</sup> として、確率変数 ''Y'' = (''X'' − μ)<sup>2</sup> にマルコフの不等式を適用することで、チェビシェフの不等式が証明できる。
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− | また直接証明する方法もある。事象 ''A'' に対し''I''<sub>''A''</sub> が ''A'' の指示関数に従う確率変数である(つまり ''A'' が起これば ''I''<sub>''A''</sub> は 1 に等しく、そうでなければ 0 である)とする。すると
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− | {{Indent|
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− | {{Indent|<math>\Pr(|X-\mu| \geq k\sigma) = \operatorname{E}(I_{|X-\mu| \geq k\sigma})= \operatorname{E}(I_{[(X-\mu)/(k\sigma)]^2 \geq 1})</math>
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− | }}
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− | <math>\leq \operatorname{E}\left( \left( {X-\mu \over k\sigma} \right)^2 \right) = {1 \over k^2} {\operatorname{E}((X-\mu)^2) \over \sigma^2} = {1 \over k^2}</math>
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− | }}
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− | と証明される。
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− | == 関連項目 ==
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− | * [[マルコフの不等式]]
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| + | {{テンプレート:20180815sk}} |
| {{DEFAULTSORT:ちえひしえふのふとうしき}} | | {{DEFAULTSORT:ちえひしえふのふとうしき}} |
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