ロドデノール

提供: miniwiki
移動先:案内検索

ロドデノール(Rhododenol)はカネボウ化粧品が開発した医薬部外品有効成分。高いメラニン生成抑制効果があるとして美白化粧品に使用された。別名 4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール で、ラズベリーケトンのケトン基を水酸基に還元した形の化合物である。白樺樹皮メグスリノキなどに多く含まれている[1]。正確にはロドデンドロール(rhododendrol)というが、一般名であるロドデノールの方が広く知られている。

1942年日本ハクサンシャクナゲRhododendron fauriaei )から発見・命名された[2]

開発・販売

ロドデノールは、濃度依存的にチロシナーゼ(チロシンヒドロキシラーゼ)を阻害し、ヒドロキシチロシンの生成を抑制することでメラニンの生合成を抑止する[3][4]

2008年1月、「メラニン生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ効果を有する」[5]新規医薬部外品有効成分として厚生労働省の認可を取得[6]。カネボウ化粧品は開発の過程で成人女性約330人を対象に試験などを実施、安全性を確認した[7]

2008年から2013年4月にかけて、ロドデノール配合の美白化粧品が全国の百貨店量販店など約1万5千店で累計436万個販売された[8]

2013年5月13日[9]、ロドデノール配合の製品を使って肌がまだらに白くなった人が3名いるとの連絡が皮膚科医からカネボウ化粧品に入り、これにより社長が被害を把握した[10]。それまでは担当者が「化粧品による症状ではない」と判断して医師を紹介する対応に留め経営陣には伝わらず[10]、社内の被害情報システムにも登録していなかった[11]。2週間後の5月27日に同社が医療機関を訪問して調査を開始し[12]、6月には2011〜13年にかけ34件の症例が見つかった[13]。その後調査が進み8月には症状が確認された人数が5702人となった[14]

健康被害と自主回収

日本

医薬品医療機器総合機構に報告書を提出し、カネボウと親会社である花王のそれぞれの経営会議を経て自主回収に踏み切ることとした[13]。なお強制的な自主回収を命じられる薬事法上の重篤なものに当たらず、厚生労働省からは対応の判断を委ねられた[15]

2013年7月4日、カネボウ化粧品と関連会社の株式会社リサージ、株式会社エキップは皮膚がまだらに白くなる症状(白斑)との関連性が懸念されるとしてこの成分を配合する8ブランド54製品を自主回収すると発表した[16]。日本国内では販売済みの約45万個と店頭にある58万個、あわせて100万個以上が対象となり[17][18]、回収費用は約50億円[6]消費者庁は「ただちに使用を中止し、相談窓口に連絡する」ことを呼び掛けた[5]。その時点で約25万人が使用[8]しておりカネボウ化粧品が4日に設置したフリーダイヤル300回線には当日だけで約1万5千件の問い合わせが殺到し対応できない状態が続いた[19]

7月17日日本皮膚科学会内に「ロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会」(委員長:松永佳世子教授)を設置、対応していくこととなった。

7月23日、カネボウ化粧品および関連2社が自主回収発表後の状況と対応について第2報を発表。それによると7月19日現在までに寄せられた問い合わせはフリーダイヤル約10万5千人、店頭約5万8600人。回収状況は顧客から80%、店頭から86.8%。「該製品を使用し、白斑様症状を発症したお客様には、完治するまで責任をもって対応する」を基本方針とする「ロドデノール対策本部(本部長:代表取締役社長執行役員夏坂真澄)」を設置。白斑についての申し出数は6,808名(不安を感じる方を含む。うち「3箇所以上の白斑」「5cm以上の白斑」「顔に明らかな白斑」のいずれかの症状を含む方が2,250名)であり、19日までに3,181名を訪問。社員による全員の訪問にむけて活動中であるとした。またこの発表とは別に、社員247人に症状がみられたことも明らかになった[20]。症状が確認された利用者には医療費や医療機関への交通費、慰謝料を支払う方針で、補償基準の詳細は今後検討する[21][22]

7月24日消費者庁阿南久長官は定例の記者会見で「5月の時点で使用中止を呼び掛けていれば、被害を少しでも減らせたはずだ」と指摘[9]。今後の消費者庁としての対応について、カネボウ化粧品の対応を注視し「製品の回収状況や被害の広がり、被害者の回復の状況などは、週に1度は報告を求めたい」とした[23]。消費者の間で同社商品の買い控えが広がった[24]

日本国外

台湾香港大韓民国タイ王国シンガポールマレーシアインドネシアミャンマーフィリピンベトナムのアジア10か国・地域で販売の製品も回収対象となる[25]。台湾での対象は10万個を超え、化粧品の回収数としては台湾史上最大[26]台湾でも181人が症状を訴え、うち58人は肌の症状と該当の化粧品に直接の関係がないことが確認されたが、残り54人はカネボウ製品の台湾販売代理店「東方美企業」の職員同伴で診察を受けているという[27]中国では該当製品を販売していなかったがオンラインショッピングなどさまざまなルートから中国本土に流入しており7月21日までに176件の返品を受け付けた[28]

疫学調査

2014年10月に日本皮膚科学会より、ロドデノール含有化粧品の安全に関する特別委員会報告書が公表された[29]。その特徴的な点は、1.患者の43.8%に炎症があり、その炎症部位が製品使用部位と概ね一致していた。2.医師の85%が尋常性白斑との鑑別不能・困難であると答えた。3.一年の内、7月と8月に患者が比較的多く見られた。4.患者年齢は多い順に 60代>50代>40代>30代≒70代等であった 事である。

白斑の発現メカニズム

ロドデノールによる白斑形成のメカニズムの詳細は未だ明らかにはなっていないが、2014年9月、株式会社カネボウ化粧品 価値創成研究所は、ロドデノールのチロシナーゼ代謝産物(ヒドロキシロドデンドロール)が小胞体ストレス応答活性化またはカスパーゼ3活性化、あるいはその両方の機序によってアポトーシスを誘導する可能性が示唆されたことを発表した[3][4]

出典

  1. メラニンの生成を抑制する研究2 -- ロドデノールの開発
  2. Kawaguchi R et al. J. Pharm. Soc. Japan 1942, 62, 4
  3. 3.0 3.1 Minoru Sasaki; Masatoshi Kondo; Mai Umeda; Keigo Kawabata; Yoshito Takahashi; Tamio Suzuki; Kayoko Matsunaga; Shintaro Inoue (2014-09). “Rhododendrol, a depigmentation-inducing phenolic compound, exerts melanocyte cytotoxicity via a tyrosinase-dependent mechanism”. Pigment Cell & Melanoma Research 27 (5). doi:10.1111/pcmr.12269. PMID 24890809. 
  4. 4.0 4.1 ロドデノール(rhododendrol)誘発性白斑に関する基礎研究について”. . 2014閲覧.
  5. 5.0 5.1 株式会社カネボウ化粧品 - 消費者庁 2013年7月4日 (PDF)
  6. 6.0 6.1 “カネボウは美白化粧品54製品を自主回収、回収費用約50億円”. ロイター. (2013年7月4日). http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE96303I20130704 
  7. “「異常」の訴えを軽視 カネボウ化粧品被害拡大”. 中日新聞. (2013年7月24日). http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130724073628211 
  8. 8.0 8.1 “カネボウ、「美白」化粧品を回収 「肌がまだらに白く」の被害報告”. 中日新聞. (2013年7月4日). http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130704162039891 
  9. 9.0 9.1 “消費者庁長官、カネボウを批判 美白化粧品の被害対応”. 時事ドットコム. (2013年7月24日). http://www.47news.jp/CN/201307/CN2013072401001407.html 
  10. 10.0 10.1 “カネボウ“美白効果”製品による健康被害、白斑症状の実態”. 毎日放送. (2013年7月25日). http://www.mbs.jp/news/jnn_5392546_zen.shtml 
  11. “化粧品の「白斑」 被害に対応誠意を示せ”. 中日新聞. (2013年7月29日). http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013072902000119.html 
  12. “カネボウ 白斑指摘2週間後に調査開始”. NHK. (2013年7月31日). オリジナル2013年8月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130803044708/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130731/k10013436341000.html 
  13. 13.0 13.1 “花王-カネボウ連合の誤算 美白化粧品回収で、資生堂との"王座争い"に悪影響も”. 東洋経済オンライン. (2013年7月4日). http://toyokeizai.net/articles/-/14615 
  14. “カネボウ化粧品:「白斑」の原因、治療法はなお不明”. 毎日新聞. (2013年8月11日). http://mainichi.jp/select/news/20130811k0000m040110000c.html。 
  15. “「メカニズムがわからない」 カネボウ化粧品・夏坂社長、まだら美白問題で困惑隠せず”. SankeiBiz. (2013年7月4日). http://www.sankeibiz.jp/business/news/130704/bsc1307041801020-n1.htm 
  16. お詫びと自主回収についてのお知らせ カネボウ化粧品 2013年7月4日
  17. “ブランドに痛撃=美白化粧品の自主回収-カネボウ”. 時事ドットコム. (2013年7月4日). http://www.jiji.com/jc/c?g=ind_30&k=2013070400909 
  18. “カネボウ自主回収 親会社・花王にも打撃 経営戦略に影響”. MSN産経ニュース. (2013年7月5日). http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130705/biz13070507100000-n1.htm 
  19. “カネボウ化粧品回収、問い合わせ殺到 治療費負担へ”. 中日新聞. (2013年7月5日). オリジナル2013年7月5日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130705040300/http://www.chunichi.co.jp/s/article/2013070401001665.html 
  20. “カネボウ、対応遅れ認める 夏坂社長「病気と思い込み」 社員247人にも症状”. SankeiBiz. (2013年7月24日). http://www.sankeibiz.jp/business/news/130724/bsc1307240700003-n1.htm 
  21. “カネボウ化粧品、被害報告相次ぐ 重い症状の申し出2千人超”. 時事ドットコム. (2013年7月23日). http://www.47news.jp/CN/201307/CN2013072301001876.html 
  22. “カネボウの美白化粧品回収、まだら被害申告2250人”. 日本経済新聞. (2013年7月23日). http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2304W_T20C13A7CR8000/ 
  23. “カネボウ問題 公表遅れ指摘”. NHKニュース. (2013年7月24日). オリジナル2013年7月28日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130728024605/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130724/k10013263641000.html 
  24. “カネボウ、経営さらに打撃 美白化粧品回収で顧客流出”. 日本経済新聞. (2013年7月23日). http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD230MI_T20C13A7TJ0000/ 
  25. “カネボウ、54製品を自主回収 美白化粧品で「肌まだらに」”. AFPBB News. (2013年7月4日). http://www.afpbb.com/article/economy/2954235/11003718 
  26. “台湾では過去最大の化粧品回収に カネボウ製品のまだら美白問題”. SankeiBiz. (2013年7月5日). http://www.sankeibiz.jp/business/news/130705/bsc1307051310008-n1.htm 
  27. “カネボウ化粧品の「白まだら」被害、台湾でも54人確認”. 中央通訊社. (2013年7月24日). http://japan.cna.com.tw/news/asoc/201307240003.aspx 
  28. “カネボウ:台湾でも100人以上に「白斑」症状、中国では返品が増加”. 財経新聞. (2013年7月25日). http://www.zaikei.co.jp/article/20130725/142497.html 
  29. 一次全国疫学調査報告書” (2014年10月21日). . 2014閲覧.

参考

  • グアノフラシン白斑:1950年に発生したグアノフラシン点眼薬で発生した白斑。1951年厚生省が使用を禁止した。

関連書籍

  • フレグランスジャーナル (FRAGRANCE JOURNAL) No.371 (フレグランスジャーナル社、2011年5月15日

〔特集〕最近の美白研究と有効成分の開発

4(-4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール:ロドデノールのメラニン生成抑制メカニズムとその美白効果(カネボウ化粧品 価値創成研究所)

外部リンク