ランフラットタイヤ
ランフラットタイヤ(Run flat tire)は、パンクした後でも100km程度の走行が可能であるように設計されているタイヤ。一部の乗用車および新交通システムの鉄道車両で採用されている。
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概要
通常のタイヤではパンク直後に操縦性能が急激に悪化し、ドライバーが車を制御できなくなり事故に至る可能性がある。仮に停車できたとしても、後続車にとっては予測不可能な急停車になり、後続車に追突される可能性がある。ランフラットタイヤでは、パンク後もしばらくは走行が継続できるため、事故に遭遇するリスクを回避できる。特に、交通量の激しい道路や高速道路のほか、諸外国では治安の悪い地域や、軍用車両では戦闘中やNBC環境下など、危険な状態や場所で自動車を停止させてのタイヤ交換やパンク修理を回避できる。
ランフラットタイヤでもタイヤバースト(破裂)やショルダー部(サイドウォール)やホイールリム変形を伴う大きな損傷など、ランフラットタイヤ自体が機能しなくなる損傷はまれである。よって、パンク修理剤が効かない広範囲なパンクに対してもランフラットタイヤの効果は絶大である。 よって、ノーマルタイヤでパンク修理が可能なトレッド面であれば、ランフラットタイヤも同様にパンク修理が可能である。
また、スペアタイヤの搭載が不要になり、トランクスペースの拡大、デザイン自由度の向上、車両の軽量化(スペアタイヤを積まないことによる軽量化分>ランフラットタイヤ化によるタイヤ質量増加分)による燃費の向上(ランフラットタイヤ自体はノーマルタイヤに比較して重くなり回転慣性マスも増加するため加減速時のタイヤ慣性マス加減速分のエネルギーは多く必要でありその分燃費は悪化する)、それによるCO2削減などといったメリットがある。さらに、自動車が廃車にされると、走行距離が伸びない、サイズの問題(テンパータイヤが採用されているなど)などの理由でタイヤローテーションを行わない/行えない車両の場合、ほとんどのスペアタイヤは未使用にもかかわらずそのまま廃棄され、大きな環境問題となるため、この問題も解消できる。
主な種類
- サイドウォール強化タイプ
- 現在のランフラットタイヤはほとんどがこのタイプである。タイヤのショルダー部(サイドウォール)の剛性を強化したタイプで、ショルダー部強化タイヤとも呼ばれる。気体が抜けた後はこの部分でタイヤの形状を維持し支える。弾性不足による乗り心地の低下、重量車の荷重には耐えられないことが難点。ブリヂストンを中心としたメーカーで開発された。
- 中子(なかご)タイプ
- タイヤ内部に構造(中子)を持たせたタイプで、気体が抜けた後はこの構造でタイヤの形状を維持し支える。中子のぶん、重量とコストがかさむのが難点。ミシュラン、グッドイヤー、ダンロップ、ピレリなどのメーカーで開発されたが、一部の車種や新交通システムの車両が採用する程度でほとんど普及していない。ランフラットタイヤではないが、NASCARの高速サーキット用に、タイヤの内部にもう一つタイヤが組み込んだタイヤ(Goodyear Lifeguard Inner Liner Safety Spare)が使用されている。
タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム
ランフラットタイヤではパンクしても運転者は感知できない。このためタイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム(TPMS)と組み合わせ、パンクして空気圧が低下すると警告灯が点灯するシステムを搭載した自動車で使用することができる。このシステムを搭載していない自動車でもランフラットタイヤは装着できるが、基本的に協定でセット利用が定められている。
メリット・デメリット
第二世代のランフラットタイヤのデメリット
(2001年 - )は、まだ開発途上の製品のため、ノーマルタイヤに比較して下記の点が劣っている。
- 乗り心地や段差通過時のショック。
- 重量増によるバネ下重量の増加。
- 製品数、流通量が少なく納期の遅れや価格が高い。
- スタッドレスタイヤの設定が限定され、サイズによっては、国内向け製品の入手が不可能なため、諸外国向けの輸入品となる。
- タイヤ交換時にランフラットタイヤに対応したタイヤチェンジャーの普及率が低い。
- また、通常のタイヤよりも重いため、燃費の悪化が起こる。
第三世代のランフラットタイヤのメリット
(2010年 - )は、欠点に対する改善が見られる。また、BMWが標準装備化(2003年)を実施し、市場の普及率も向上していることが挙げられる。
- 乗り心地の改善。(ノーマル100に対して105の固さ)
- エンジンのダウンサイジング、多段AT化による燃費向上は、従来のノーマルタイヤモデルに比べても燃費向上。
- ランフラットの普及率向上による販売価格の低下、専用タイヤチェンジャーの普及率が向上。
ノーマルタイヤ変更時の注意点
ラジアルタイヤ交換時はパンクリスクへの対処の他、下記の点に注意が必要である。
- ランフラットタイヤ用に設定されたサスペンションにより、ノーマルタイヤ変更後にふらつき・タイヤのよれなどの不具合が発生するケースがある。
普及状況
日本車では1999年市販の日産・ハイパーミニでTPMSと会わせて標準装備され、2001年、トヨタ・ソアラにオプションで設定された。その後、レクサス、日産・GT-Rなど高価格の乗用車を中心に装備が進められている。BMWでは2003年のBMW・5シリーズからMモデルを除く全車にランフラットタイヤを標準装備化した。米国のみ2012年モデルからは通常タイヤとランフラットタイヤの併売に切り替えている。初期、第二世代のランフラットタイヤから第三世代に進化しており、ユーザーから不満の多かった乗り心地についても改善されつつある。
JAFの年間パンク件数は30万件(2014年)を超え増加傾向にある。パンク件数軽減のためにランフラットタイヤの効果が市場でも認められつつあり、今後のさらなる普及が見込める。
BMWは、Mモデルを除く全車標準装備となり、メルセデスやアウディ、レクサスなどの高級車でも標準装備化が進んでいる。第三世代ランフラットタイヤの登場により、乗り心地の改善と流通量の増大に伴うコストダウンにより、今後、普及モデルへの市場拡大が見込まれている。
タイヤ記号
タイヤメーカーによって、ランフラットタイヤを示す記号が異なっている。ここでは、ランフラットタイヤとして定着しつつある、サイドウォール強化タイプの記号を示しておく。
- ブリヂストン:RFT(Run-Flat Technology)
- ピレリ:r-f(RunFlat)
- コンチネンタル:SSR(Self Supporting Runflat tyres)
- グッドイヤー:EMT(Extended Mobility Technology)
- ダンロップ:DSST(Dunlop Self-Supporting Technology)
- ミシュラン:ZP(Zero Pressure)
- 横浜ゴム:ZPS(Zero Pressure System)
- 東洋ゴム:TRF(Toyo Run Flat)
- クムホ:ERP(Extended Runflat Performance)
関連項目
- セルフシールタイヤ - タイヤ内面に塗布されたシーラント(密封剤)が、小規模なパンクを自動的に塞ぐタイヤ。コンチネンタルが実用化。ブリヂストンが「マクシール」、横浜ゴムが「シーレックス」の名で商品展開させていた。
- ムースタイヤ - タイヤの内部にムース(スポンジ状のゴム)を組み込んだタイヤ。パンクしてもムースが支えとなってそのまま走り続けることができる。悪路を走るラリーやオフロードレースで使用されているが、一般走行用としては実用化されていない。工事現場や農作業等で使う手押し車(一輪車・ネコ)では、ノーパンクタイヤと言う名称ではじめから装着されていたり、交換用タイヤとしての販売もされている。
- 大統領専用車 (アメリカ合衆国)