タイ・カダイ語族
タイ・カダイ語族 | |||
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話される地域: | 中国南部、海南島 インドシナ, インド北東部 | ||
言語系統: | 世界の基本となる語族の一つ。オーストロネシア語族やシナ・チベット語族との類似点が提唱されている。 | ||
下位言語: | |||
ISO 639-2・639-5: | tai | ||
タイ・カダイ語族の分布図
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タイ・カダイ語族(Tai-Kadai languages)またはクラ・ダイ語族(Kra-Dai languages)は、東南アジア(タイ、ラオス、ベトナム)から中国南部で話される言語の語族であり、代表的なものとしてタイ語、ラーオ語があり、その他多数の少数民族の言語を含む。
タイ・カダイ諸語(カム・タイ語群とも)をシナ・チベット語族のシナ語派およびチベット・ビルマ語派、ならびにミャオ・ヤオ諸語(ミャオ・ヤオ語族)と合わせて、シナ・チベット諸語と呼ぶこともある[1][2]。
中国南東部で特に多様性があり、この付近が故地と考えられる。タイ・ラオスには歴史時代に入ってから雲南省方面から住民が移住したのであり、それまでこの付近はオーストロアジア語族住民で占められていた。
基本的に単音節的孤立語で声調言語であり、語順はSVO型で、修飾語は被修飾語のあとにつくのが普通である。これらの性質は中国から東南アジア大陸部の広い範囲の言語と共通するが、これは系統的な性質というより、地域特性(言語連合)と考えられる。
ベトナム語も似た性質を持っているが、基本的にはオーストロアジア語族である()と考えられている。
分類
Edmondson & Solnit(1997)による分類を以下に掲げるが、確定した分類ではない。
- 黎語派 (Hlai)
- カダイ語派 Geyang languages
- カム・タイ語派Kam-Tai languages
話者数
言語名 | 話者数 | 備考 |
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タイ語(泰語) | 4600–5000万人 | 方言:北タイ語 600万人 |
ラーオ語(老撾語) | 約3180万人 | |
チワン語(壮語) | 1800万人 | |
シャン語(撣語) | 330万人 | |
プイ語(布依語) | 265万人 | |
トン語(侗語) | 150万人 | |
タイー語(岱依語) | 148万人 | |
リー語(黎語) | 70万人 | |
黒タイ語またはタイ・ダム語(傣擔語)(en) | 約70万人 | |
タイ・ルー語(傣仂語)(en) | 67万人 | |
オンベ語(臨高語)(en) | 60万人 | |
タイ・ヌア語(傣哪語)(en) | 36万人 | |
スイ語(水語)(en) | 34万6千人 |
系統
タイ・カダイ語族と他語族の系統は定かでないが、オーストロ・タイ語族(ポール・K・ベネディクト)、オーストリック大語族(ヴィルヘルム・シュミット 1906)やシナ・オーストロネシア語族 (ローラン・サガール 2005)がある。
2004年にローラン・サガールが発表した論文では、タイ・カダイ語族は台湾から中国本土に移住したオーストロネシア語族に由来すると仮説を立てた。その後、タイ・カダイ語族はシナ・チベット語族、モン・ミエン語族などの影響を強く受け、多くの語彙を借用し、言語類型学的に収斂した[3][4] 、より最近では、おそらく漢民族が中国南部への南下に誘発され、いくらかのタイ・カダイ系民族が山岳地帯を越えて東南アジアに移住したとした。
タイ族はY染色体ハプログループO1b1、O1a、O2をそれぞれ高頻度にもつ。O1aはオーストロネシア語族、O1b1はオーストロアジア語族、O2はシナ・チベット語族、モン・ミエン語族を担う系統である。タイ・カダイ語族の元来の担い手がこれらのどの系統かは定かでないが、複数系統の混合言語である可能性もある。
近年の研究では現代のタイ族はO1b1が東南アジアにやってくる前の集団の遺伝子を多く受け継いでることがわかった。タイ祖語とオーストロネシア祖語はアンダマン諸語のオンガン語族と遠縁である可能性も示され[5]、オーストロネシア語族、タイ・カダイ語族、オンガン語族は東アジア・東南アジア最古層のハプログループD (Y染色体)が担った言語の残存である可能性がある。(オンガン語族の話し手ジャラワ族、オンゲ族はDが100%である。)最近の研究で、タイ族にハプログループDが10%ほど観察されたこと、そしてアイヌ語(Dが85%)とオーストロネシア語族の関連性をしばしば指摘する研究が存在することも、この仮説を支持するかもしれない。ただし台湾先住民からハプログループDは全く発見されていない。
しかしながらいっぽうで、オーストロネシア語族、タイ・カダイ語族、シナ・チベット語族を同系とする「シナ・オーストロネシア語族」仮説も存在するなど、東アジアの語族は基層(ハプログループD)から上層(O1,O2)まで様々な系統の言語が複雑に混合した状態であると考えられる。
関連項目
脚注
- ↑ 『講座 言語 第6巻 世界の言語』北村甫編、橋本萬太郎ら共著(大修館書店)
- ↑ 『世界の言語と国のハンドブック』下宮忠雄(大学書林)
- ↑ http://hal.archives-ouvertes.fr/docs/00/09/09/06/PDF/THE_HIGHER_PHYLOGENY_OF_AUSTRONESIAN.pdf Sagart, L. 2004. The higher phylogeny of Austronesian and the position of Tai–Kadai. Oceanic Linguistics 43.411-440.
- ↑ Stratification in the peopling of China: how far does the linguistic evidence match genetics and archaeology?
- ↑ Blevins, Juliette (2007), "A Long Lost Sister of Proto-Austronesian? Proto-Ongan, Mother of Jarawa and Onge of the Andaman Islands" (PDF), Oceanic Linguistics 46 (1): 154–198, doi:10.1353/ol.2007.0015