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− | [[数学]]、特に[[曲線の微分幾何]]において、'''伸開線'''(しんかいせん、{{lang-en-short|''involute'', ''evolvent''}}){{#tag:ref|英名 involute の語感は、曲線に真っ直ぐに張った糸を付けて曲線に沿って巻きつけていく操作を表している。{{lang-la|involvo}} は「包む」という意味の動詞で内へ向かうイメージのある言葉である<ref name="kaiseki">[http://books.google.co.jp/books?id=BhuwGMlEtJQC&pg=PA123 蟹江訳『解析教程』上巻 p.123 [訳注]]</ref>から、よくなされるように「閉線を巻き解く操作」として説明するとそのイメージはむしろ反対であり、伸開線、evoluvent は語感に合う({{lang-la|evolvo}} は「追い出す、紐解く」という意味の動詞で、開いていくイメージのある言葉である<ref name="kaiseki"/>)。|group="*"}}は、与えられた曲線に巻きつけられた糸を弛まないように引っ張りつつ剥がしてゆくときの、端点の軌跡として与えられるような[[曲線]]である(逆に、弛みなく張った糸を曲線に巻きつけるときの、貼り付けられていないほうの端点の軌跡と考えることもできる)。あるいは、伸開線は直線上を曲線が滑ることなく転がるときに生成点が描く[[ルーレット曲線|輪転曲線]]であると言ってもよい。例えば[[テザーボール]]というゲームでは、ボールと中央の支柱を繋がれたテザー(つなぎ紐)が支柱に巻き付くようにボールが移動するから、ボールの描く軌跡はだいたい伸開線になっている(支柱の断面は円だから、これは円の伸開線)。
| + | '''伸開線'''(しんかいせん、{{lang-en-short|''involute'', ''evolvent''}}){{#tag:ref|英名 involute の語感は、曲線に真っ直ぐに張った糸を付けて曲線に沿って巻きつけていく操作を表している。{{lang-la|involvo}} |
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− | あるいは、曲線の伸開線を構成する別な方法として、弛みなく張った糸の代わりに片方の端点が曲線に接するような[[線分]]を考えてもよい。このとき、線分の長さは、接点が曲線に沿って動くにつれて、曲線上の接点が掃く[[弧長]]に等しい長さに変化するものとする。そうすれば、線分の接点と反対側の端点の軌跡が伸開線となる。
| + | インボリュートともいう。曲線 <i>C</i> |
− | | + | <sub>1</sub> が,弧長 <i>s</i> を媒介変数として,<b> |
− | 伸開線の[[縮閉線]]は元々の曲線(から[[曲率]]が 0 または未定義であるような部分を除いたもの)となる。例えば次の二つの図、[[Media:Evolute2.gif|牽引曲線の縮閉線]]および[[Media:Involute.gif|懸垂線の伸開線]]を比較せよ。
| + | <i>x</i> |
− | | + | </b> |
− | [[写像]] ''r'': '''R''' → '''R'''<sup>''n''</sup> が曲線の[[自然媒介変数表示]](つまり、弧長変数 ''s'' に対して常に |''r''′(''s'')| = 1 を満たす)ならば、その曲線の伸開線の[[媒介変数表示]]は
| + | <sub>1</sub>=<b> |
− | :<math>t\mapsto r(t)-tr'(t)</math>
| + | <i>x</i> |
− | で与えられる。
| + | </b><sub>1</sub>(<i>s</i>) で与えられているとき,この曲線を[[縮閉線]]にもつ曲線 <i>C</i> を <b> |
− | | + | <i>x</i> |
− | == 媒介変数表示 ==
| + | </b>=<b> |
− | [[媒介変数]]で表された曲線 (''x''(''t''), ''y''(''t'')) の伸開線の[[媒介変数表示]] (''X'', ''Y'') は
| + | <i>x</i> |
− | | + | </b>(<i>s</i>) で表わせば,これが元の曲線 <i>C</i> |
− | : <math>\begin{cases}
| + | <sub>1</sub> の伸開線といわれるものである。伸開線は,<b> |
− | X[x,y]=x-\dfrac{x'\int_a^t \sqrt{x'^2+y'^2}\,dt}{\sqrt{x'^2+y'^2}}\\[15pt]
| + | <i>x</i> |
− | Y[x,y]=y-\dfrac{y'\int_a^t \sqrt{x'^2+y'^2}\,dt}{\sqrt{x'^2+y'^2}}
| + | </b>=<b> |
− | \end{cases}</math>
| + | <i>x</i> |
− | で与えられる。
| + | </b> |
− | | + | <sub>1</sub>+(<i>c</i>-<i>s</i>)<b>ξ</b> |
− | == 例 ==
| + | <sub>1</sub> で与えられる。ここで <b>ξ</b> |
− | [[Image:Involut cir.jpg|thumb|200px|円の伸開線]]
| + | <sub>1</sub> は単位接線ベクトル,<i>c</i> は任意の定数である。縮閉線と伸開線について,次の諸性質がある。曲線の法線はその曲線の縮閉線の接線であり,また曲線の接線はその曲線の伸開線の法線である。一つの曲線の縮閉線は一意的に定まるが,伸開線は無数に存在する。 |
− | [[Image:Animated involute of circle.gif|thumb|200px|right|円の伸開線が円から解かれていく様子。]]
| + | {{テンプレート:20180815sk}} |
− | === 円の伸開線 ===
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− | {{main|インボリュート曲線}}
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− | 円の伸開線は[[アルキメデスの螺旋]]に似た形をしている。
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− | | |
− | * [[直交座標系]]において円の伸開線の媒介変数表示 (''x''(''t''), ''y''(''t'')) は<div style="margin:1ex 2em"><math>\begin{cases}
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− | x = a(\cos t + t\sin t)\\
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− | y = a(\sin t - t\cos t)
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− | \end{cases}</math></div>で与えられる。ただし、''a'' は円の半径、''t'' は媒介変数である。
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− | * [[極座標系]] (''r'', θ) における円の伸開線の媒介変数表示は<div style="margin:1ex 2em"><math>\begin{cases}
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− | r=a\sec\alpha\\
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− | \theta =\tan\alpha -\alpha
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− | \end{cases}</math><div>で与えられる。ただし、''a'' は円の半径で、α は[[媒介変数]]である。
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− | | |
− | 円の伸開線はしばしば次の形
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− | : <math>\begin{cases}
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− | r = a \sqrt{1+t^2}\\
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− | \theta =\arctan\dfrac{\sin t - t \cos t}{\cos t + t \sin t}
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− | \end{cases}</math>
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− | に表されることもある。
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− | | |
− | [[レオンハルト・オイラー|オイラー]]は円の伸開線を[[歯車]]の歯の形に用いることを提案した。今日も広く用いられているそのようなデザインの歯車は[[インボリュート歯車]]と呼ばれる。
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− | {{clear|both}}
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− | [[Image:Involute.gif|thumb|200px|right|[[カテナリー曲線|懸垂線]]の伸開線は[[トラクトリックス|牽引曲線]]になる。]]
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− | === 懸垂線の伸開線 ===
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− | [[カテナリー|懸垂線]]の頂点が描く伸開線は[[トラクトリックス|牽引曲線]]である。直交座標系における牽引曲線の[[媒介変数表示]]は
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− | : <math>\begin{cases}
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− | x=t-\mathrm{tanh}(t)\\
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− | y=\mathrm{sech}(t)
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− | \end{cases}</math>
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− | となる。ただし、''t'' は[[媒介変数]]、sech は[[双曲線函数|双曲線正割函数]]である。
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− | <!-- | |
− | ; 導出
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− | : <math>r(s)=(\sinh^{-1}(s),\cosh(\sinh^{-1}(s)))\,</math> と書けば、<math>r^\prime(s)=(1,s)/\sqrt{1+s^2}\,</math> であり、<math>r(t)-tr^\prime(t)=(\sinh^{-1}(t)-t/\sqrt{1+t^2},1/\sqrt{1+t^2})</math> となるから、<math>t=\sqrt{1-y^2}/y</math> を代入して <math>({\rm sech}^{-1}(y)-\sqrt{1-y^2},y)</math> を得る。
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− | -->
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− | {{clear|both}}
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− | === 擺線の伸開線 ===
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− | [[サイクロイド|擺線]]の(適当な弧長に対する)伸開線はふたたび擺線(と[[合同]])になる。直交座標系における擺線の[[媒介変数表示]]は
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− | :<math>\begin{cases}
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− | x=r(t-\sin(t))\\
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− | y=r(1-\cos(t))
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− | \end{cases}</math>
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− | と表すことができる。ただし、''t'' は円を転がした角度を媒介変数としたもので、''r'' は転がす円の半径である。
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− | == 応用 ==
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− | 伸開線の持つ性質のいくつかは、[[歯車]]工業に極めて重要である。噛み合う二つの歯車が(例えば古典的な三角形などではなく)伸開線を輪郭とする歯を持っているならば、それらは[[インボリュート歯車]]系を形成する。それらの歯を噛み合わせるときの回転比率は一定で、さらに歯車が生み出す力が常に一定の水準を保つ。歯が他の形である場合、連続的に歯を噛み合わせると[[相対速度]]も力も増減を繰り返し、結果として[[振動]]や[[騒音]]や過剰磨耗などを引き起こす。このような理由から、現代的な歯車はほとんどが伸開線形の葉を持つものになっている。
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− | 円の伸開線は[[気体圧縮]]においても重要な図形で、スクロール[[圧縮機]]もこの図形をもとに作ることができる。スクロール圧縮機は従来の圧縮機よりも騒音が少なく、極めて[[機械効率|効率的]]であることが証明されている。
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− | == 注記 ==
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− | {{reflist|group="*"}} | |
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− | == 関連項目 ==
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− | *[[縮閉線]]
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− | *[[スクロール圧縮機]]
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− | *[[インボリュート歯車]]
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− | == 出典 ==
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− | {{reflist}}
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− | == 参考文献 ==
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− | * {{cite book|和書|title=解析教程〈上〉|edition=新装版|origtitle=Analysis by Its History|author=[[エルンスト・ハイナー|E.ハイナー]] | coauthors=[[ゲハルト・ヴァンナー|G.ヴァンナー]]|translator=蟹江幸博|publisher=シュプリンガー・ジャパン|year=2006|isbn=9784431712138}}
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− | * {{cite book|和書|title=定本 解析概論|author=[[高木貞治]]|publisher=岩波書店|edition=改訂第3版|year=2010|isbn=978-4000052092}}
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− | == 外部リンク ==
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− | * {{MathWorld|urlname=Involute|title=Involute}}
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| {{DEFAULTSORT:しんかいせん}} | | {{DEFAULTSORT:しんかいせん}} |