列車運行管理システム
列車運行管理システム(れっしゃうんこうかんりシステム、通称PTC:Programed Traffic Control)とは鉄道の列車運行管理において、計画ダイヤを基に列車集中制御装置(CTC)・自動進路制御装置(PRC)・運転整理システム・旅客案内システムなどを一括管理・制御するコンピュータシステムである。主に大都市圏の高密度運転線区や新幹線などの高速鉄道において、列車運行管理の効率化・旅客サービス向上のために導入されている。
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概要
鉄道運行において、かつては信号機や分岐器などを操作する運転要員が各停車場に必要であったが、CTCの導入により1ヶ所に集約して行うことが可能になったほか、正常なダイヤでの運行がなされている限りは、それまで人間が行っていた信号機や分岐器などの操作をPRCに自動で行わせることが可能となり、運転要員の業務負荷が大きく低減されたほか、大幅な人員コスト削減も可能となった。一方、ダイヤが乱れた際の運転整理や旅客案内などは引続きほぼ全てを人間による情報収集・計画立案・実施判断に依存する体制は変わっておらず、大都市圏を中心とした列車運転本数の増加や、高速性・正確性・顧客サービス等の向上ニーズの高まりに対して、適切な対応を迅速かつ効率的に行うことが困難となってきた。
そこで、信号機や分岐器の単純な自動制御だけではなく、運転整理や旅客案内、車両運用管理等の運行関連機能全般をコンピュータシステムとして統合し、運転指令所と駅や車両基地などの現業機関をオンラインで接続することで、効率的な列車運行が実現できる。このようなシステムには高性能の処理能力を持ったコンピュータが必要であるため、本格的な導入に至ったのは高性能コンピュータが普及した1990年代以降となってからが多い。また、線路や日本の鉄道車両検査の計画管理、電気施設や信号機などの設備管理などの機能も独自に付加して、より大規模な総合管理を行うシステムを採用している事業者もある。
主なシステムの内容を以下に述べる。
- 運転整理機能
- ダイヤが乱れた際、列車種別など運行優先順位も考慮した運転整理計画をコンピュータが立案し、安全で迅速な平常ダイヤへの復旧計画案を指令員に提供する支援機能。指令員はその提供計画案を参考に、最終的な運転整理の判断を行う。従前は遅延が大きくなるとPRCによる信号や分岐器の自動操作が出来なくなるため、本来は最終的な判断作業に専念すべき指令員が自らこれらの操作を行っていた。また、現業機関に運行情報表示装置(TID)を設置することで、各現場の社員が最新の運行状況をリアルタイムで把握することが可能となる。
- さらに東日本旅客鉄道(JR東日本)の東京圏輸送管理システム(ATOS)や西日本旅客鉄道(JR西日本)のアーバンネットワーク運行管理システム(SUNTRAS)、つくばエクスプレス、東京地下鉄(東京メトロ)[1]では、駅ホームにLED式の「抑止表示機」を設置し、ダイヤが乱れた際の運行間隔調整・発車時刻変更などの指示を乗務員・駅員へタイムリーに伝達できる機能を有している。JR東日本のATOSでは更に機能を発展させ、着発番線変更など乗務員への各種指示伝達に関して、従来は駅員から受領する運転通告券や列車無線を介した指令員との音声通話に依っていたものを、デジタル列車無線を介して各列車の車上モニタ装置へ伝送しディスプレイに文字情報で表示させるシステムを構築し、指示の迅速化・効率化および伝達ミス等の防止のほか、列車無線の回線輻輳緩和を図っている。
- 旅客案内機能(通称:PIC、Passenger Information Control)
- 駅に設置される旅客案内表示器や自動放送装置は、従前は各駅単位でのスタンドアローン機器[2]に過ぎず、駅員自らが鉄道電話などで入手した運行状況を手入力するという極めてアナログな手法であったため、列車に大幅な遅延や運休が発生した時など駅員がタイムリーに運行状況を把握しきれない場合や機器への手入力が追いつかない場合、案内表示は「調整中」と表示させざるを得ず、十分な旅客案内を行うことができなかった。列車運行管理システムに旅客案内機能を持たせることで、システム自らが最新の運行状況を自動で案内できるほか、運転整理計画を元に「約○○分遅れて到着予定」など正確な遅延時間の表示や発車順序等の変更案内、正常ダイヤへの復旧見込みなど、より細かい情報の提供が可能となる。また、JR東日本のATOSでは上述のデジタル列車無線網を介し、最新の運行状況情報を各列車の車上モニタ装置へ伝送し、他線区も含めた自列車以外の運行状況を乗務員がリアルタイムで把握することができる。
- 運用管理システム
- 車両や乗務員などの運用管理を一括して行い、異常時には代用の車両や乗務員の手配を迅速に行うことができる。
導入例
日本では一部の鉄道事業者が都市部を中心に導入している。事業者により呼び名や機能が一部異なる場合があるが、導入例を以下に述べる。
JRグループ
- 北海道旅客鉄道(JR北海道)
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)
- 新幹線総合システム(通称COSMOS(コスモス):Computerized Safety, Maintenance and Operation Systems of Shinkansen)。東北・上越・北陸新幹線に導入されている。JR西日本と共同で運用。ジェイアール東日本情報システムと日立製作所の共同開発。
- 東京圏輸送管理システム(通称ATOS(アトス):Autonomous decentralized Transport Operation control System)。現在日本に導入されている列車運行管理システムの中では最も規模が大きい。日立製作所製。
- 東海旅客鉄道(JR東海)
- 新幹線運行管理システム(通称COMTRAC(コムトラック):Computer aided Traffic Control System)。東海道・山陽新幹線に導入されている。JR西日本と共同で運用。日立製作所製。2010年11月よりJR九州の九州新幹線指令システム(SIRIUS)とオンライン接続[4]。
- 名古屋圏運行管理システム(通称NOA(ノア):New Operational Automation System)。名古屋地区用と静岡地区用があり、主要路線を中心に導入されている。
- 九州旅客鉄道(JR九州)
- 九州新幹線指令システム(通称SIRIUS(シリウス):Super Intelligent Resource and Innovated Utility for Shinkansen Management)。九州新幹線に導入されている。JR九州管内主要在来線の総合指令システム(JACROS)とオンライン接続されている。2010年11月よりJR東海・JR西日本の新幹線運行管理システム(COMTRAC)とも接続[4]。
- 総合指令システム(JACROS(ジャクロス):JR Kyushu Advanced and Concentrated Railway Operating Systems)。JR九州管内の主要在来線に導入されている。また九州新幹線指令システム(SIRIUS)とオンライン接続されている。日立製作所製。
大手私鉄・準大手私鉄
- 東京地下鉄(東京メトロ)
- PTC(自動列車運行制御装置)。所有する全路線・全区間に導入。日立製作所製。
- 東京急行電鉄・横浜高速鉄道
- 東武鉄道
- 西武鉄道
- SEMTRAC(セムトラック:Seibu Multiple Traffic Control system)。所有する全路線・全区間に導入。現在のものは2代目。三菱電機製。
- 小田急電鉄
- OTC(小田急型列車運行管理システム)。全路線・全区間に導入。京三製作所製。
- 京浜急行電鉄
- 京王電鉄
- TTC(列車運行管理システム:Total Traffic Control system)。全路線・全区間に導入。京三製作所製。
- PTC。京急蒲田駅、羽田空港国内線ターミナル駅に導入。京三製作所製。
- 京成電鉄
- TTC。北総鉄道との共用区間を含む全路線に導入している。京三製作所製。
- 新京成電鉄
- TTC。全路線に導入している。京三製作所製。
- 北総鉄道
- TTC。京成との共用区間を含む全路線に導入している。京三製作所製。
- 近畿日本鉄道
- KOSMOS(コスモス:Kintetsu Oriented Signal and Monitor Operation System)。分散制御方式を導入、運転指令側では運行管理・ダイヤ管理・運転整理を行い駅側では自駅内の進路制御・案内制御を行っている。システムの導入に関しては「阪神なんば線(大阪難波 - 桜川)・難波線・奈良線・橿原線・天理線・京都線」「大阪線(大阪上本町 - 西青山間)・信貴線」「南大阪線・長野線・御所線」の3つのグループに区分され、稼働している。三菱電機製。けいはんな線や吉野線にも列車運行管理システムが導入されているが運転指令所からの制御ではなく拠点駅からの制御であったり、駅側に制御装置がないなどシステムが異なる部分があるのでKOSMOSとは呼ばれず「○○線システム」や「○○線CTC」などと呼ばれている。
- KRONOS(クロノス:Kintetsu Rapid Operated New Orginal System)。名古屋線・大阪線(東青山以東)・山田線・鳥羽線・志摩線・湯の山線・鈴鹿線・養老鉄道養老線の一部を統括する。2010年4月1日より稼動。京三製作所製。
- 阪急電鉄
- 阪神電気鉄道
- PTC。阪神なんば線の大阪難波 - 桜川間をのぞく全路線・全区間に導入。三菱電機とアイテック阪急阪神との共同開発。現在のものは3代目。1971年導入。
- 南海電気鉄道
- 泉北高速鉄道
- 山陽電気鉄道
- SANTICS(サンティクス:Sanyo Traffic and Information Control System)。所有する全路線・全区間に導入。三菱電機製。
- 西日本鉄道
その他(中小私鉄・公営・第三セクター鉄道)
- 札幌市交通局
- 独自名称なし。所有する全路線・全区間に導入。日立製作所製。
- 仙台空港鉄道(仙台空港鉄道仙台空港線)
- PTC。全区間(名取~仙台空港間)に導入。京三製作所製。
- 東京都交通局
- 首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)
- 独自名称なし。全区間に導入。日立製作所製。
- 名古屋市営地下鉄
- 独自名称なし。所有する全路線・全区間に導入。京三製作所製。
- 大阪市営地下鉄
- 神戸市営地下鉄
- 独自名称なし。海岸線の全区間に導入。日立製作所製。
- 富山地方鉄道
- 独自名称なし。鉄道線の全区間に導入。
- 福井鉄道
- 独自名称なし。所有する福武線の全区間に導入。
- 岡山電気軌道
- 岡山市内路面電車、ロケーションシステム。
- 福岡市交通局(福岡市地下鉄)
- 独自名称なし。所有する全路線・全区間に導入。日立製作所製。
- 沖縄都市モノレール
- 独自名称なし。所有する沖縄都市モノレール線の全区間に導入。日立製作所製。
運行管理システムの問題事案
機器の不具合・操作ミスによるもの
- 2013年7月18日に、JR九州の運行管理システムに大規模なトラブルが発生し、同社管内の在来線で長時間・広範囲に亘り、計179本に及ぶ列車の運休や遅れが生じた[9]。同社で原因を調査した結果、3年前の2010年に自動進路制御装置の機器を交換した際、メーカーの日立製作所が仕様と異なる種類の機器を誤って取り付けたことが原因であると判明。JR九州は日立製作所に対し、運行面での信用を失墜させたなどとして、損害賠償を請求する方針であるとしている[10]。
脚注
- ↑ 運行指示器導入による遅延防止、指令業務の効率化 - 鉄道と電気技術 Vol.28 No.7 一般社団法人日本鉄道電気技術協会
- ↑ 駅独自で列車の種別・発車時刻・行先等を入力して案内を行う方法。
- ↑ 北海道新幹線開業に向けた「地上設備最終切替」の「事前確認」に伴う元日にかけての津軽海峡線の全面運休について (PDF) - 北海道旅客鉄道、2015年7月17日、同日閲覧。
- ↑ 4.0 4.1 【社長会見】山陽・九州新幹線直通運転列車の乗り入れに向けた準備状況 - 東海旅客鉄道ニュースリリース 2010年12月8日
- ↑ 山陽線運行管理システムの使用開始について - 西日本旅客鉄道ニュースリリース 2016年3月24日
- ↑ 都市交通の安全と安定した運行を支える制御管理システム (PDF)
- ↑ 日立評論 1994年5月号 p.40 - p.42 (PDF) - 日立製作所
- ↑ 2009年安全報告書 (PDF) - 泉北高速鉄道(リリース当時の社名は大阪府都市開発)
- ↑ JR九州でシステム障害 特急含む179本運休 朝日新聞 2013年7月18日
- ↑ JR九州運行障害:日立、装置交換ミス JR九州、損賠検討 毎日新聞 2013年7月23日