X線
X線(エックスせん、英: X-ray)とは、波長が1pm - 10nm程度の電磁波のことを言う。発見者であるヴィルヘルム・レントゲンの名をとってレントゲン線と呼ばれる事もある。放射線の一種である。X線撮影、回折現象を利用した結晶構造の解析などに用いられる。
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概要
X線はドイツのヴィルヘルム・レントゲンが1895年11月8日に発見した特定の波長域を持つ電磁波である[1]。 X線の発見は当時直ちに大反響を呼び、X線の発生について理論的方向付けを与えようとしたポアンカレは1896年1月に、蛍光物質とX線の関連について予測を述べた。その予測に従い、翌月の2月にアンリ・ベクレルはウランを含む燐光体が現代からいえば放射性物質であることを発見[2]するなどX線の発見は原子核物理の端緒となった。
なお、日本の法令の条文上では片仮名を用いて「エックス線」若しくは「エツクス線」(ツを小文字を使わずに表記する)と表記するのが原則となっている。
呼称の由来は数学の“未知数”を表す「X」で、これもレントゲンの命名による。
発生方法
電子の励起準位の差によるもの
例えば、対陰極として銅、モリブデン、タングステンなどの標的に、加速した電子ビーム(30 keV程度)を当て原子の1s軌道の電子を弾き飛ばす、すると空になった1s軌道に、より外側の軌道(2p、3p軌道など)から電子が遷移してくる。この遷移によって放出される電磁波がX線(特性X線)である。この時、軌道のポテンシャルエネルギーの差で電磁波の波長が決まるので、どのような波長のX線でも出てくる訳ではない。
加速電圧(管電圧)と電子流による電流(管電流)からくる消費電力の1%程度だけがX線に転換される。つまり電子線の電力の99%が対陰極の金属塊を熱するという事になる為、実験上冷却が重要である。このような方法でX線を発生させる装置は、
がある。
運動エネルギーによるもの
電子を対陰極で急激に制動させたり、磁場により運動方向を変更したりするなどの加速度運動をするとX線が放射され(制動放射)、制動X線と呼ばれる。特定のスペクトルを示さないので、白色X線と言われる。このような方法でX線を発生させる装置は
熱によるもの
レーザーで高温のプラズマを発生させ、超短パルスのX線を発生させたり、X線レーザー発振の研究が行われている。
トライボルミネッセンス
セロハンテープのロールを一定の速さではがすことによるもの。トライボ(摩擦)ルミネッセンスの一種であるが、X線の発生については2008年現在の摩擦学の理論では十分な説明ができない[3]。1950年代には旧ソ連の科学者たちが、セロハンテープロールをある速さではがすとエネルギースペクトルのX線の領域でパルスが発生することを突き止めていた。2008年にUCLA(米カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のチームが、真空中でセロハンテープを秒速3センチメートルの速さで剥がすことでX線撮影が可能な強度のX線が発生したことを観測し、ネイチャー誌に発表した[3][4]。
強誘電体の熱膨張・収縮によるもの
強誘電体に電流を流す事で熱膨張・収縮する時に生じる高電圧(80kV)により低圧~真空容器内の残留ガスに起因する電子が加速され、微小試料に衝突して試料に含まれる元素特有の特性X線が発生する[5]。百円ライターやガスコンロの着火に使用される圧電素子でも高電圧が発生してX線が発生する可能性がある[6]。
用途
- 医療分野(診断用)でのX線撮影・CT
- 材料の内部の傷等の探索(非破壊検査)
- 物性物理学分野での結晶構造解析(X線回折)
- 化学物質等に含まれる微量の元素の検出(蛍光X線分析法)
- 空港・飛行場における搭乗前の手荷物検査(後方散乱X線検査装置)
種類
- 超軟X線 (Ultrasoft X-ray)
- 約数10eVのエネルギーが非常に低く紫外線に近いX線
- 軟X線 (Soft X-ray)
- 約0.1 - 2keVのエネルギーが低くて透過性の弱いX線
- X線 (X-ray)
- 約2 - 20keVの典型的なX線 (一部を軟X線に入れたり硬X線に入れる場合もある)
- 硬X線 (Hard X-ray)
- 約20 - 100keVのエネルギーが高くて透過性の強いX線
- 波としての性質より粒子としての性質を強く示すようになる。
最低線量
- 参照: 被曝
2003年に米国アメリカ合衆国エネルギー省の低線量放射線研究プログラムによる支援等を受けて[7]米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された論文によれば、人の癌リスクの増加の十分な証拠が存在するエックス線やガンマ線の最低線量は、瞬間的な被曝では、10-50mSv、長期被曝では50-100mSvであることが示唆されている[8]。
低線量のX線照射によるDNA切断説
- 参照: 被曝
崎山比早子は「低線量放射線の影響は過小評価されて来たのではないか 低線量放射線でできた二重鎖DNA 切断は修復されない?」で次の研究を紹介している[9][10]。
K.RothkammとM.Lobrichは、ヒト細胞において、高線量のX線照射によるDNA二本鎖切断は効率的に修復されたが、低線量のX線照射(約1mGy)によるDNA二本鎖切断は数日を経ても修復されなかったと報告している。また、X線照射後にヒト細胞が細胞分裂を重ねると、DNA二本鎖切断はX線照射以前の水準に戻るが、これは修復されないDNA二本鎖切断を持つ細胞が除去されることによると推察している[11]。
出典
- ↑ なお、波長域はガンマ線のそれと一部重なっている。これは、X線とガンマ線との区別が波長ではなく発生機構によるためであり、波長からX線かガンマ線かを割り出すことはできない。軌道電子の遷移を起源とするものをX線、原子核内のエネルギー準位の遷移を起源とするものをガンマ線と呼ぶ。
- ↑ Henri Becquerel (1896), Sur les radiations émises par phosphorescence(燐光物質によって放出される見えない放射線について)
- ↑ 3.0 3.1 Camara, Carlos G.; Juan V. Escobar, Jonathan R. Hird1, Seth J. Putterman (10 2008). “Correlation between nanosecond X-ray flashes and stick–slip friction in peeling tape”. Nature 455 (7216): 1089-1092. doi:10.1038/nature07378 . 2008閲覧..
- ↑ イギリス版、Nature、2008年10月23日 http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2531731/3460343
- ↑ 手のひらに載るほど超小型な電子線プローブX線マイクロアナライザーの開発に成功
- ↑ 圧電材料を用いた超微小X線発生装置の試作
- ↑ David J. Brenner et al. (2003). “Cancer risks attributable to low doses of ionizing radiation: Assessing what we really know”. PNAS 100 (24): 13761-13766. doi:10.1073/pnas.2235592100 . "This work was supported in part by the U.S. Department of Energy Low-Dose Radiation Research Program."
- ↑ 翻訳:調麻佐志, 【翻訳論文】「低線量被ばくによるがんリスク:私たちが確かにわかっていることは何かを評価する」PNAS(2003), “海外癌医療情報リファレンス”, 一般社団法人 サイエンス・メディア・センター . 2011/8/26閲覧.
- ↑ 崎山比早子による解説。崎山比早子「低線量放射線の影響は過小評価されて来たのではないか 低線量放射線でできた二重鎖DNA 切断は修復されない?」、原子力資料情報室通信 354号 (2003)p.7-11
- ↑ つながる/ひろがる/フェミ・ジャーナル「ふぇみん」2012年3月15日、No.2984
- ↑ K.Rothkamm, M.Lobrich, Evidence for a lack of DNA double-strand break repair in human cells exposed to very low x-ray doses“Proceedings National Academy of Sciences USA”, Vol.100,pp.5057-5062,2003
関連項目
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関連人物
参考文献
- 広重 徹 『物理学史Ⅱ』 培風館、1967年。ISBN 4563024066。