アスパラガス
アスパラガス(竜髭菜、Asparagus spp.)とは、被子植物の中の単子葉植物に属する多年生草本植物である。クロンキスト体系ではユリ科に含めているが、分子系統学によるAPG植物分類体系ではキジカクシ科に属している。雌雄異株である。
葉のように見えるものは実際は極端にほそく細かく分枝した茎であり、本来の葉は鱗片状に退化している。
種
アスパラガスという和名はキジカクシ属植物の複数種の総称で、中でも最もよくこの名で呼ばれるのは、栽培作物のアスパラガス(A. officinalis)である。原産は地中海東部。和名はオランダキジカクシ(阿蘭陀(和蘭)雉隠)、オランダウド(阿蘭陀(和蘭)独活)、マツバウド(松葉独活)といい、成長すると細かく切れた葉に見える枝がキジが隠れることができるほど生い茂ることに由来する。漢名を石刁柏(せきちょうはく)というが、石勺柏や石刀柏と表記するのは誤りである。また、アスパラと略称される。
日本・中国・朝鮮には自生種のキジカクシ(A. schoberioides)、クサスギカズラ(A. cochinchinensis)などが分布する。キジカクシの茎は食用になり、クサスギカズラの根茎(天門冬)は薬用になる。
アスパラガス属の中にはオオミドリボウキ A. plumosus、クサナギカズラ A. asparagoides、A. myriocladusなど観葉植物にされるものがいくつかある。江戸時代にオランダ船から鑑賞用として日本にもたらされたが、食用として導入されたのは明治時代のことである。本格的な栽培が始まったのは大正時代からで、欧米への輸出用缶詰に使うホワイトアスパラガスが始まりであった。その後国内でも消費されるようになり、昭和40年代以降はグリーンアスパラガスが主流となった。現在では生のホワイトアスパラガスや調理しやすいミニアスパラガスなどが店頭に並んでいる。アスパラガスを食べたあとの尿に強い臭いを感じる人もいるが、これはアスパラガスに含まれる代謝物質によるもので害はない。
なお、ヨーロッパで広く食用となっている「ワイルド・アスパラガス」("Wild asparagus")はユリ科のOrnithogalum pyrenaicumの花芽であり、オオアマナ属(オーニソガラム)に属する。日本では「アスパラソバージュ」の名で知られる[1]。
日本における栽培
日本で最初に栽培・生産を行ったのは北海道岩内町の農学博士であった下田喜久三である。 本州中部では4月下旬頃から6月にかけて若芽が成長し、低温期は1日1回、高温期は1日2回収穫する。長さが25cmくらいに伸びた柔らかい茎を食用とする。土寄せして軟白栽培した白いものをホワイトアスパラガス(白アスパラ)といい、それに対して土寄せせずに普通に育てた緑色のものはグリーンアスパラガスという。ホワイトアスパラガスの栽培では日光を遮断するために土を被せてアスパラガスを覆ってしまう方法のほか、鉄道などの廃トンネルを利用した栽培も行われている。いずれも家庭菜園でも容易に栽培可能である。
近年、アントシアニン色素の多い紫色品種のアスパラガス(米国原産「パープルパッション」、福島県産「はるむらさきエフ」など)や桜色の品種も登場した。加熱すると紫色は失われ緑色になるため、色を楽しむためには生食するか、食酢・レモン汁を入れてさっと湯通しする程度にとどめることが必要となる[2]。
雌雄異株であり雄株のほうが勢いが強く収穫量も多いが、1年生株の促成栽培では雌株の方が茎径が太く、成育が旺盛である[3]。しかし外見では見分けられないので、花が咲くまで待たなければならない。翌年の良質な芽の発生のためには、収穫しすぎない事と夏に茎が倒れずに充分に繁茂している必要がある。
繁殖は実生による。4月から5月にかけてが蒔き時で、収穫できる株に仕上げるまでに2年から3年かかる。春になると園芸店などに、その年から収穫できる苗が出回る。
主要産地は北海道、佐賀県、長野県[6]。このほか日本各地で露地栽培またはハウス栽培される。
- 出荷時期と産地の例
耐用年数
2008年度税制改正において法人税等の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」が改正され、別表第四「生物の耐用年数表」によれば2008年4月1日以後開始する事業年度にかかるアスパラガスの法定耐用年数は11年となった。
調理と保存
ドイツやオーストリアでは白アスパラはSpargel(シュパーゲル)と呼ばれ、日本での筍のように、春から初夏にかけての味覚として珍重されている。一般的な食べ方は、茹でた白アスパラガスに溶かしバターやオランデーズソースをかける。ハムやジャガイモを付け合わせにしたり、逆に肉料理の付け合せにする場合もある[7]。
調理法として茹でる、炒める、焼くの方法があり、茹でたあと冷ましてサラダにすることもできる。また基本的に皮が固いことが多いので、ゆでる前に皮をむく必要がある。ゆでる際はむいた皮を一緒にゆでると風味が良くなるといわれている。 冷蔵庫では濡れた新聞紙等で包んで乾燥を防止したうえで立てて保存すると、鮮度と味を維持できる。コップなどで水を吸わせる際は水中にニンニクなどを入れると切り口の腐敗を防げる。
アスパラガスの加工品として水煮の瓶詰や缶詰、ピクルスなども市販されている。
栄養価
学名の"officinalis"は「薬用の」という意味で、古くから利尿作用や健胃作用が知られていた[8]。 ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンE、葉酸、アスパラギン酸などを含む。ちなみに、アスパラギン酸はアスパラガスから発見されたことにちなんで命名された。
画像
- Asparagus produce-1.jpg
アスパラガス 太陽の光を遮って作った白色のもの(左)と日に当てて緑色にしたものがある
- Asparagus3.JPG
ワイルド・アスパラガス(Ornithogalum pyrenaicum)、緑色のアスパラガスとホワイトアスパラガス
- Crioceris quatuordecimpunctata.jpg
アスパラガスにつく害虫、ジュウシホシクビナガハムシ
- AsparagusPlumosus.jpg
観葉植物としてのアスパラガス(A. plumosus)
- Asparagus Fruits.jpg
アスパラガスの実
雑学
カーボベルデ北部、バルラヴェント諸島東部を構成しているサル島には、アスパラガスを意味する名称を持つ都市「en:Espargos」が存在する。
脚注
- ↑ フランスから輸入される高級食材、アスパラソバージュについて教えて下さい。 農林水産省、2015年1月23日閲覧。
- ↑ 【食 旬な産地】福島県南会津町/紫アスパラガス 生で甘く/緑、白、桜 食べ比べ『読売新聞』朝刊2018年6月20日(くらし面)
- ↑ 小泉丈晴、剣持伊佐男、町田安雄「アスパラガス1年生株の生育と促成栽培での収量・品質の雌雄間差(栽培管理・作型)」、『園芸学研究』第2巻第4号、園芸学会、2003年12月15日、 275-278頁、 NAID 110001803344。
- ↑ 元木悟、西原英治、北澤裕明、平舘俊太郎、篠原温「沖積土壌におけるアスパラガスの連作障害に対するアレロパシーの関与(栽培管理・作型)」、『園芸学研究』第5巻第4号、園芸学会、2006年12月15日、 431-436頁、 NAID 110005716737。
- ↑ 元木悟、西原英治、平舘俊太郎、藤井義晴、篠原温「アスパラガスのアレロパシーに関する研究 : (第10報)アスパラガス連作障害における活性炭を利用したアレロパシー回避技術の確立」、『園芸学会雑誌. 別冊, 園芸学会大会研究発表』第75巻第2号、2006年9月23日、 NAID 10019588261。
- ↑ 平成24年度収穫量ランキング
- ↑ カルカ 麻美「春の味覚シュパーゲル(白アスパラガス)」All About、2006年04月19日。 2015年6月19日閲覧。
- ↑ マグロンヌ・トゥーサン=サマ; 玉村豊男訳 『世界食物百科』 原書房、1998年。ISBN 4562030534。p.730
外部リンク
- アスパラガス研究・生産・交流のためのホームページアスパラガスネット
- アスパラガスの雌雄
- アスパラ立茎栽培北海道農業経営局技術普及課
- カリフォルニア州アーバイン市 - アスパラガス産地