歯科医師
歯科医師(しかいし)は、歯学に基づいて傷病の予防、診断および治療、そして公衆衛生の普及を責務とする医療従事者である。
Contents
日本の歯科医師
日本において、その職務等に関しては、歯科医師法により規定されている。業務独占資格および名称独占資格の医療資格である。
業務
歯科医師とは歯科医師法によって「専ら歯科医療及び保健指導を掌ることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとすることを責務とする」と定められている。「歯科医業」とは咬合構築に関与する行為(補綴、充填、矯正)、歯牙・顎骨・口腔粘膜・舌・口唇・唾液腺・咀嚼筋など下顔面に発生する疾患の治療、全身疾患のうち口腔または下顔面に症状を現す疾患の治療および機能回復訓練、などの行為をいう。
学位
現在の日本では、厚生労働省が指定した大学の歯学に関する正規の課程(歯学科、6年制)を卒業し、歯科医師国家試験に合格しなければ歯科医師になれない。したがって、歯科医師は全員、学士(歯学)の学位を有する。しかし、「博士(歯学)」を有する者が必ず歯科医師とは限らない。歯学系大学院の博士課程、または歯学部の研究室で複数の論文を発表し、歯学部大学院に博士号を申請し、大学院教授たちの審査で博士号を与えるにふさわしいとされれば、博士号を歯科医師でなくとも与えられる(なお、同様に医師は必ず学士(医学)を有しているが、「博士(医学)」を有する者が必ず医師とは限らない)。
歯科医師国家資格
日本において歯科医師は、医師とは別の国家資格である。歯科医師となるには、歯科医師国家試験に合格しなければならない。歯学部を卒業し学士(歯学)の学位を得ただけでは歯科医師になれない。
歯科医師国家試験の受験資格は、原則として大学において歯学の正規の課程を修めて卒業した者および卒業見込みの者(学士(歯学))に与えられる。正規の課程を卒業し、試験に合格し歯科医籍に登録をしたものは厚生労働大臣より歯科医師免許状が与えられ、これにより独立して歯科医業を行うことができる。また通常は、保険医登録も行うことが多い。さらに医療機関(診療所、病院)の開設者になる(すなわち開業する)には、歯科医師免許取得後1年以上の卒後臨床研修を修了しなければならない。歯科衛生士に認められている一部行為を除き、他者の指示に基づかず歯科医業を行うことが歯科医師のみに認められている。また、主に歯科医業を行う病院及び診療所の管理者も歯科医師が就くものと定められている。現在、歯科医師免許に更新期限はなく、歯科医業停止・免許取消を医道審議会により決定されない限り生涯にわたって有効である。
歯科医師免許は、診療科ごとに交付されるものではない。その為、各診療分野の学会が学会認定医などの認定を行っている。これらは法的な拘束力を持つ資格ではないため、標榜科名(現在、歯科、歯科口腔外科、矯正歯科、小児歯科の4科が認められている)は自由に標榜できる。なお専門医資格は、各学会の専門医を持っていないと広告できない(医師の専門医標榜制度と異なる)。
歴史
明治維新前:明治維新以前は、口歯科、口中科を専業にする医師がいて、口、喉、歯の治療をおこなっていた。世界的には紀元前2500年頃のものと推定される義歯がギーザから発掘されている。
明治維新後:1874年(明治7年)8月に医制が公布され、西洋を模範とした医療制度が整えられ始めた。「医制」により、医師になるには、医術開業試験を合格することが求められた。1875年(明治8年)、小幡英之助は第1回目の医術開業試験に「歯科」を専門に試験を申請し合格した。小幡は医籍4号をもって登録された。これは「歯科を専攻する医師として登録された」ということであるが、小幡が西洋歯科医学を専攻した先達であり、「歯科」という語を初めて用いたこともあり、日本で最初の(近代)歯科医師とされている。1883年(明治16年)、医籍とは別に歯科医籍が作られ、医師と歯科医師とは独立した、別個の存在となった。1906年(明治39年)、法律48号により歯科医師法が制定された。1942年(昭和17年)、大戦中の医療体制確立のために、医師法と合わさって国民医療法となったが、歯科医師制度そのものに変化はなかった。戦後、国民医療法は、医師法、歯科医師法、医療法(医療機関について規定)にわかれ、現在に至る。
平均年収
日本の場合、2015年度の歯科医師の平均年収は、常勤の勤務医の場合で月収30-50万円が多く、賞与を加算すると年収で450-800万円が普通である。初任給は23-30万円平均。近年では歯科医院の乱立と少子化などの影響で200-350万円のいわゆるワーキングプア状態に置かれる歯科医師も増えている。歯科医院の競争は年々激化の傾向があり、うまく経営が軌道に乗っている開業医でようやく年収1000万円を超えるほどであり、厚生労働省の平成27年賃金構造基本統計調査によれば、歯科医師の平均年収は、38.2歳で655万円である(勤続年数=5.9年、労働時間=172時間/月、超過労働=5時間/月)。40歳以上の男性歯科医師はおおむね年収で800万円近くになるが、女性医師の年収は低い傾向がある。年収が高い年代は男性40~44歳、女性60~64歳である[1]。
経営状況
経営難などの理由から医療費の保険点数の水増し請求が多い業界であるが、カルテ開示が一部医療機関で義務化され、個人情報保護法により患者本人からのカルテ請求に対しは、請求理由によらずレントゲン写真も含め開示しなければならなくなった。このため、「どういう状況で、どういう治療をしたか」が、一目瞭然となるため、不正行為があったり、能力不足、知識不足の歯科医師らには非常に恐れられ、さらには過激な競争で経営が困難になり廃業に追い込まれる医院も多くなっている。歯科医院の廃業数は2007年19件、2008年27件、2009年13件、2010年18件だったものが、2011年40件、2012年35件、2013年41件、2014年46件(帝国データバンク調べ)となっている[2]。また作家の架神恭介は、患者の身なり、職業やグーグルアースで調べた家構えで年収を推し量り金のある患者を巧みに保険外診療に誘導したりする医院もあるようだと述べているが根拠は示していない[3]。
専門医・認定医資格
専門医資格
学会認定専門医
- インフェクションコントロールドクター(ICD制度協議会)
- 口腔インプラント専門医(日本口腔インプラント学会)
- 口腔病理専門医(日本病理学会)
- 歯科保存専門医(日本歯科保存学会)
- 日本矯正歯科学会専門医(日本矯正歯科学会)など
認定医
- 日本矯正歯科学会認定医(日本矯正歯科学会)
- 日本歯科麻酔学会認定医(日本歯科麻酔学会)
- 日本成人矯正歯科学会認定医(日本成人矯正歯科学会)
- 日本歯科審美学会認定医(日本歯科審美学会)
- 日本補綴歯科学会認定医(日本補綴歯科学会)
- 日本口腔衛生学会認定医(日本口腔衛生学会)
- 日本歯科放射線学会認定医(日本歯科放射線学会)
- 日本障害者歯科学会認定医(日本障害者歯科学会)
- 日本顎咬合学会認定医(日本顎咬合学会)
- 日本顎関節学会認定医(日本顎関節学会)
- 日本全身咬合学会認定医(日本全身咬合学会)
- 日本歯内療法学会認定医(日本歯内療法学会)
- 日本歯科東洋医学会認定医(日本歯科東洋医学会)
- 日本スポーツ歯科医学会認定医(日本スポーツ歯科医学会認定医)
- 日本レーザー歯学会認定医(日本レーザー歯学会)
- 日本歯科心身医学会認定医(日本歯科心身医学会)など
歯科医師に付与される資格(医師同様)
- 無試験・講習(歯科医師資格があることにより付与される資格)
- 有試験(受験資格が付与される又は試験が一部免除になる資格)
統計
調査年 | 歯科医師数 | 男 | 女 |
---|---|---|---|
1955(昭和30年) | 31,109 | - | - |
1960(昭和35年) | 33,177 | - | - |
1965(昭和40年) | 35,558 | 31,710 | 3,848 |
1970(昭和45年) | 37,859 | 33,756 | 4,103 |
1975(昭和50年) | 43,586 | 38,700 | 4,886 |
1980(昭和55年) | 53,602 | 47,012 | 6,590 |
1984(昭和59年) | 63,145 | 55,049 | 8,096 |
1986(昭和61年) | 66,797 | 58,180 | 8,617 |
1988(昭和63年) | 70,572 | 61,189 | 9,383 |
1990(平成2年) | 74,028 | 63,822 | 10,206 |
1992(平成4年) | 77,416 | 66,501 | 10,915 |
1994(平成6年) | 81,055 | 69,048 | 12,007 |
1996(平成8年) | 85,518 | 72,252 | 13,266 |
1998(平成10年) | 88,061 | 73,669 | 14,392 |
2000(平成12年) | 90,857 | 75,671 | 15,186 |
2002(平成14年) | 92,874 | 76,549 | 16,325 |
2004(平成16年) | 95,197 | 77,301 | 17,896 |
2006(平成18年) | 97,198 | 78,254 | 18,944 |
2008(平成20年) | 99,426 | 79,305 | 20,121 |
2010(平成22年) | 101,576 | 80,119 | 21,457 |
歯学部歯学科を持つ日本の大学(29校)
国立大学法人(11校)、公立大学法人(1校)
私立(17校)
- 北海道医療大学
- 岩手医科大学
- 奥羽大学
- 日本歯科大学(生命歯学部、新潟生命歯学部)
- 東京歯科大学
- 日本大学(歯学部、松戸歯学部)
- 昭和大学
- 明海大学
- 鶴見大学
- 神奈川歯科大学
- 松本歯科大学
- 朝日大学
- 愛知学院大学
- 大阪歯科大学
- 福岡歯科大学
米国の歯科医師
統計
2012年の米国の総歯科医師数は約20万人である[4]。最も多いのはカリフォルニア州の約3万人、次いでニューヨーク州の約1万5千人で、これらの地域の都市部では歯科医師過剰問題が指摘されている[4]。
しかし、米国全体では歯科医師不足となっている州がほとんどであり、最も少ないのはワイオミング州の293人、次いでバーモント州の373人である[4]。
年収
2009年度の米国の歯科医師の平均年収は、一般開業医で平均19万4千ドル、専門医で平均31万1千ドルであった[4]。
専門医・準歯科専門医
米国歯科医師会は、歯内療法専門医、歯周専門医、補綴専門医、矯正専門医、小児歯科専門医、口腔外科専門医、口腔病理専門医、歯科放射線専門医、公衆衛生専門医の9種類を設定している[4]。
また、米国では米国歯科医師会認定の専門医とは別に口腔内科、高齢者歯科、口腔顔面疼痛、顎関節症などの特殊専門プログラムならびに医師が準歯科専門医に位置づけられている[4]。
医療保険制度
米国には国民健康保険制度は存在せず、個人は会社や学校を通じて民間保険に加入していることが多い[4]。医療保険には狭義の医療保険と歯科医療保険があるが、特に後者は高額であるため1億3000万人以上のアメリカ国民は歯科医療保険には加入していない[4]。
低所得者及び身体障がい者対象の医療保険にメディケイドがあり、医療費を連邦政府と州政府が折半している[4]。しかし、予算の低い州では治療の保証の範囲が限られており、ほとんどの州では緊急処置のみであり、またメディケイドを受け入れる施設が少ないため治療には長期間を要する[4]。
脚注
関連項目
- 歯学/薬学/医学
- 口腔診断学/保存修復学/歯周治療学/歯内療法学/口腔外科学/小児歯科学/歯科麻酔学/歯科矯正学/歯科補綴学
- 歯科理工学/医用生体工学/再生医学/生体材料
- 微生物学(微生物)/細菌学(細菌)/ウイルス学(ウイルス)/真菌学(真菌)/寄生虫学(寄生虫)
- 免疫学/遺伝学/生化学(口腔生化学)/病理学(口腔病理学)/解剖学(口腔解剖学)/細菌学(口腔細菌学)
- 感染症/伝染病/齲蝕/歯周病
- 歯/歯周組織/歯髄/歯肉/舌/口腔/唾液/咽頭
- 歯学部/歯科大学/薬学部/医学部/医科大学/理学部
- 歯科技工士/歯科衛生士/歯科助手
- 薬剤師/医師/専門医/認定医/看護師
- 歯科医師国家試験/歯科医師過剰問題/私立歯科大学定員割れ問題