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第4アウト(だい4アウト、fourth out)とは、野球において守備側が1イニング中に3個のアウトを取った後、さらにアピールプレイを行って成立させたアウトのことである。"Official Baseball Rules" において「fourth out」と記されているが、公認野球規則においては「第4アウト」と訳されてはいない。
Contents
概要
野球の試合において、守備側は1イニング中における3個目のアウト(第3アウト)を成立させた後であってもアピールプレイを行うことが認められており[1]、審判員がこのアピールを支持した場合、審判員はアウトを宣告する。このアウトは、当該イニングにおける4番目に宣告されたアウトであるため、俗に「第4アウト」と呼ばれる。しかし、野球では1イニングに記録されるアウトの個数は3個までであることから、第4アウトが発生した場合、3個目のアウト成立までに起こったプレイの記録は取り消され、4個目のアウト成立までのプレイが記録上の第3アウトとなる。これはしばしば「第3アウトの置き換え」と呼ばれる。
ルールでは、第3アウトの発生より先に走者が本塁に触れていれば得点として認められるが(タイムプレイの項を参照)[注釈 1]、その走者に対してアピールアウトを取ることができる場合(その走者が何らかの反則を犯していた場合)、守備側はそのアウトを4個目のアウトとして取得しアピールによって第3アウトに置き換えることで、一度認められた攻撃側の得点を無効にすることができる[2]。
現実に起こった事例
- 1962年7月12日の東映フライヤーズ対南海ホークス戦、1回表の南海の攻撃において、無死満塁からケント・ハドリが右飛(一死)、三塁走者だった大沢啓二が正規にタッグアップしたつもりで本塁に触れ、その際の連携の乱れをついて二塁走者のバディ・ピートが本塁を狙うがタッグアウト(二死)、さらにその隙に三塁を狙った一塁走者の野村克也もタッグアウト(三死)。次いで、東映側から「大沢のリタッチが早かった」旨のアピールがあり、これが認められた(四死)。この四死目が三死目と置き換えられて大沢の得点は認められなかった。
- 2001年4月18日の福岡ダイエーホークス対千葉ロッテマリーンズ戦、 1回表のロッテの攻撃において、一死満塁からデリック・メイが左飛(二死)、三塁走者だった小坂誠が正規にタッグアップしたつもりで本塁に触れるも、同様にタッグアップして三塁を狙った二塁走者福浦和也はタッグアウト(三死)。次いで、ダイエー側から小坂のリタッチが早かったとアピールがあり、これが認められた(四死)。この四死目が三死目と置き換えられて小坂の得点は認められなかった。
ルールブックの盲点の1点
上記の事例の他に、守備側が本塁へ到達した走者にかかる第4アウトの可能性に気づかずアピールを行わなかったことによって、結果的にその走者の本塁到達(攻撃側の得点)が承認されるという事象も存在する。
- 一死で、三塁走者と、他に一塁や二塁走者がいる状況において、スクイズプレイやヒットエンドランなどで走者が投球と同時にスタートを切ったと想定する。このとき打者が放った打球が小フライやライナーなどの飛球となった場合、塁上の走者は既にスタートを切っているため飛球が捕らえられた際の帰塁(リタッチ)が困難となる。守備側は飛球を捕らえ(二死)、大きく離塁している走者の占有塁(帰塁すべき塁)に触球し(三死)、これを併殺として攻守交代することができる。
- この時、飛球を捕らえた野手が、三塁走者ではない他走者の占有塁(一塁または二塁)に触球したとする。これで第3アウトが成立したが、このアウトはアピールアウトであってフォースアウトではないということに注意が必要である。
- さらに、三塁走者が三塁にリタッチせず、上記の第3アウト成立より先に本塁に到達していたとする。この進塁はボールインプレイ中の進塁であるため一旦認められ、球審は「得点」を宣告する[3]。ただし、三塁走者は占有塁である三塁にリタッチしていないため、守備側は他の走者で第3アウトを成立させた後であっても、三塁に触球し三塁走者のリタッチ不履行を審判にアピールすることで三塁走者をアウトにすることができる(四死)。これにより先述の通り「第3アウトの置き換え」が行われ、このプレイでの得点は記録されない。
- しかし、守備側が三塁走者ではない他の走者をアウトにして第3アウトを成立させ、そのままベンチに引き上げようと投手及び内野手全員がフェア地域を離れた場合、その時点で守備側はアピール権を失い(アピール権の消滅)、それと同時に三塁走者の本塁到達が正式に認められ得点が記録される。
水島新司の野球漫画『ドカベン』単行本35巻(文庫版では23巻)では、この一連のプレーにまつわるエピソードが描かれており、「ルールブックの盲点の1点(ルールブックのもうてんのいってん)」と呼ばれている[注釈 2]。神尾龍原作・中原裕作画の野球漫画『ラストイニング』では『ドカベン』で描かれた事象について、さらに詳しい解説を含んだストーリーが展開された。
「ボールを持って塁に触れる」という共通の動作のため、フォースアウトとアピールアウトが混同されていることが守備側の勘違いの要因とも言えるプレイであり、物語以外に現実の試合中においても度々起こる事象である。
ドカベンで描かれたエピソード
夏の甲子園・神奈川県予選大会三回戦の、主人公の山田太郎が所属する明訓高校と好投手・不知火守を擁する白新高校との試合で描かれた。
試合は0-0のまま延長戦に突入し10回表、明訓高校の攻撃。一死満塁で打者は微笑三太郎。
- 微笑はスクイズプレイを試みるが、投手前への小フライとなる。白新の投手・不知火がこれを飛びついて捕球し、微笑がアウト(二死)。
- スタートを切っていた三塁走者・岩鬼正美はそのまま走り続け、リタッチしないまま本塁に滑り込む。
- 一塁走者の山田は大きく離塁しており、不知火は迷わず一塁へ送球。一塁手が一塁に触球し、山田がアウト(三死)。ダブルプレイが成立。このとき、岩鬼は本塁上にとどまっていた。
- 一塁上において第3アウトが宣告されたため、白新高校ナインは全員ベンチに引き上げた。岩鬼も明訓高校ベンチへ戻り、明訓に1点追加。
第2アウトは微笑、第3アウトは山田で、この一連のプレイで本塁上にいる岩鬼はアウトになっていない。一塁走者の山田の第3アウトはフォースアウトではないため、第3アウト成立以前に成立した得点は有効である。岩鬼は第3アウト成立前に本塁に到達しており、この走塁による得点は認められる[4]。ただし、岩鬼は三塁へのリタッチを行っていないため、白新高校側は第3アウト成立後であっても審判員に対して岩鬼の離塁が早かったことをアピールし、岩鬼をアピールアウトにして第3アウトの置き換えを行うことで岩鬼の得点を無効にすることができた。
岩鬼の得点が認められていることに気付かなかった白新高校ナインはアピールを行わず、野手全員がファウルラインを越えた時点でその権利を喪失した[注釈 3]。岩鬼の得点はそのまま認められ、明訓高校に1点が入った。
なお、試合はこの1点を守った明訓高校が1-0で勝利した。
ラストイニングで描かれたエピソード
夏の甲子園・埼玉県予選大会決勝戦の、主人公達の彩珠学院高校とライバル校の聖母学苑高校との試合で描かれた。
9回表、彩珠学院高校の攻撃。一死二・三塁で、打者は4番の大宮。
- 大宮はライナー性の打球を放つも、遊撃手の新発田がジャンプしてこれを捕球し、大宮はアウトとなった(二死)。
- 二・三塁走者はヒットと判断してスタートを切っており、三塁走者は帰塁せずにそのまま本塁に、二塁走者は三塁まで到達していた。
- 遊撃手の新発田は、捕球位置から近かった二塁へ送球し、二塁走者がアウトになった(三死)。
- 第3アウト成立より前に三塁走者が本塁を踏んでいたことから、三塁走者の得点が認められ、彩珠学院に1点が記録された。
聖母学苑は、ベンチへ戻ろうとする間際に得点されていることに気づき、三塁走者がリタッチしていないことを主張して、第3アウトの置き換えを申し出るものの、彩珠学院側はアピールが遅いと主張した。審判団は、アピール権の有無の判断基準となる投手及び内野手の全員がファウルラインを超えたことの確認を怠っており、判定に窮し、試合は一時中断となった。協議の結果、「ファウルラインを超えていたかは確認できなかったが、聖母学苑の選手は明らかにベンチへ帰ろうとしており、プレイを放棄したと見なす」と判定し、聖母学苑のアピールを受け付けず、彩珠学院の得点が認められた。
現実に起こった事例
1982年、東海大甲府高校 対 境高校
1982年に開催された第64回全国高等学校野球選手権大会の1回戦・東海大甲府高校(山梨)対境高校(鳥取)戦の4回裏、境高校の攻撃。一死満塁の場面から打者がスクイズを試みたが、これが小フライとなった。この打球を一塁手が捕球し(二死)、ゆっくりと一塁を踏み、飛び出していた一塁走者がアウトになった(三死)。しかし、その前に三塁を飛び出していた走者が本塁に滑り込んでいた。東海大甲府高校側から三塁走者の離塁についてのアピールが行われなかったので、この場合、境高校に1点が入るはずだが、このとき境高校の得点は記録されなかった。記者席では「このケースは境高校に先制点が入るはず」と一時騒然となり、試合後球審に質問したところ、球審は「一塁のアウトのほうが早かった」と答えたと伝えられている[5][6]。
2009年、ダイヤモンドバックス 対 ドジャース
2009年4月12日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス対ロサンゼルス・ドジャース戦の2回表、ドジャースの攻撃。一死二・三塁で打者ランディ・ウルフが放ったライナーの打球を投手のダン・ヘイレンが捕球して(二死)、二塁手のフェリペ・ロペスに送球、ロペスは飛び出していた二塁走者に触球した(三死)。攻守交代のためダイヤモンドバックスの選手達はベンチへ戻った。ところがその後、ドジャースの監督ジョー・トーリらが、「二塁走者のアウトよりも早く、三塁走者のアンドレ・イーシアーが本塁に到達している」と主張し、これが認められ、得点が記録された[7]。
このルールについてトーリは、ボブ・シェーファーベンチコーチが知っていて、監督に教えたとコメントしている。ダイヤモンドバックス監督のボブ・メルビンも「審判が正しい」とし、異議を唱えることはしなかった[8]。
2011年、履正社高校 対 九州学院高校
2011年3月30日に行われた第83回選抜高等学校野球大会の第8日、履正社高校(大阪)対九州学院高校(熊本)戦の6回表、九州学院高校の攻撃中一死満塁で、打球を左翼手がファインプレーで捕球した(二死)。二塁走者が次の塁まで達しており、それを確認した左翼手は二塁までゆっくり走り、自ら二塁を踏んでアウトにした(三死)。三塁走者は打球を見て三塁の近くで立ち止まっていたが、二塁走者が既に三塁近くまで走っていたため戻らず、そのまま本塁に走った。左翼手が二塁を踏む前に三塁走者が本塁に触れており、守備側はそのまま投手と内野手全員がファウルラインを越えたため、アピール権が消失した。それを確認した審判団は三塁走者の得点を認めた。
2012年、済々黌高校 対 鳴門高校
2012年8月13日に行われた第94回全国高等学校野球選手権大会の第6日、済々黌高校(熊本)対鳴門高校(徳島)戦の7回裏、済々黌高校の攻撃中一死一・三塁で、ライナーを遊撃手が捕球した(二死)。一塁走者はヒットエンドラン、三塁走者もギャンブルスタートによって走り出しており、一塁走者は帰塁を諦めた。遊撃手は一塁手へゆっくり送球し、一塁手が一塁に触球して一塁走者をアウトにした(三死)。三塁走者は一瞬立ち止まりかけたものの本塁へ全力疾走しており、送球が一塁手に渡る前に本塁に到達していた。守備側はそのまま投手と内野手全員がファウルラインを越えたため、アピール権が消失した。それを確認した審判団は三塁走者の得点を認めた[9]。済々黌高校は5回裏にも一死一・三塁の状況で同様の作戦を行い似たような結果になったが、このときは球審が本塁生還よりも第3アウトの方が先として退けていた[10]。この際の守備側は一塁走者に触球した後二塁塁審がすぐにアウトのコールをしなかった(この場合は一塁塁審がコールする)のを見てからさらに一塁にも触球しており、ルールに熟知していないことを悟られている。前者の触球がアピールと認められたかは不明である。
なお済々黌高校の三塁走者は小学生時代、先述したドカベンにおけるエピソードを読んでおり、得点成立を狙っていたことを試合後に明かしている[9]。また、鳴門高校の捕手もルールは分かっていたが、打球の方向に集中していたため三塁走者が第3アウトよりも先に本塁に達したことを把握できず、審判員へアピール出来なかったと語っている[11]。
人的ミス
まれに、人的ミスなどによる第4アウトが発生することもある。第3アウトが成立したにもかかわらず、審判員等が気付かずにプレイすることで生ずることがあるが、この場合は第3アウト成立後の記録は抹消され無効となる。1982年夏の「第64回全国高等学校野球選手権大会」の2回戦、益田(島根)対帯広農業(北北海道)の試合で9回表の益田の攻撃時に、帯広農業の投手は第3アウトに気付いていたが、4人の審判員のほか各選手らはそれに全く気付かず、第3アウト後も次の打者を出した。後に記録員の指摘で間違いが判明した。原因はスコアボードのアウトを表示するカウントランプが故障により、1つしか灯っていなかったからだったという[注釈 4]。
脚注
注釈
- ↑ ただし、例外として第3アウトが以下の場合には得点が記録されない(公認野球規則5.08, 5.09)。
- ↑ ルールブックの“盲点”と言っても、公認野球規則に何らかの不備があるという意味ではなく、「プレイしている選手にも意外に知られていないルール」という意味合いである。また、転じてアピールプレイを怠ったことによる失点全般を指すときにも使われることもある。
- ↑ 作中では、明訓高校の土井垣将監督がこのプレイを解説する形をとり、解説の締めくくりに公認野球規則7.10(当時。現5.09(c))の本文が示されている。
アニメでは、近所の知人たちとテレビで試合を観戦していた山田の祖父が説明する。 - ↑ 試合終了後に、このミスジャッジを重く見た日本高校野球連盟は、当試合を担当した4人の審判全員に対し第64回選手権大会において、同日以降「謹慎処分」を下している。
出典
- ↑ 公認野球規則5.09(c)。第3アウト成立後のアピールは、投手および内野手がファウルラインを越え、フェア地域を離れるまでに行わなければならない。
- ↑ 公認野球規則5.09(c)【原注】及び【注】の後にある、3つ目と4つ目の【問】【答】
- ↑ 公認野球規則5.08【注1】。球審は、三塁走者が三塁へのリタッチを果たしていないことを承知していても、それに関係なく、本塁到達の方が第3アウトより早かったか否かを明示しなければならない。
- ↑ 公認野球規則5.08。ただし、作中ではこのあたりのルールについてあまり明示的な説明がない。
- ↑ 1982年8月12日日本海新聞
- ↑ 週刊ベースボール増刊号'82夏の甲子園総集編
- ↑ “Odd rule benefits Dodgers, Wolf” (英語). MLB.com. . 2012閲覧.
- ↑ Ken Gurnick / MLB.com (2009年4月12日). “Wolf delivers gem for Dodgers, LA benefits from rarely seen 'fourth-out rule' in second” (英語). MLB.com. . 2012閲覧.
- ↑ 9.0 9.1 “済々黌、知っていたルール=高校野球”. 時事通信 (2012年8月13日). . 2012閲覧.
- ↑ “アピールしていれば…三走、帰塁せずに本塁生還”. 読売新聞 (2012年8月14日). . 2012閲覧. なお、この記事の中で、5回裏の場面において済々黌高校の主将が「球審に「一塁走者のアウトより、三塁走者が早く本塁に達しているのでは」とアピールした」とあるが、野球規則では、これをアピールとはしない。
- ↑ “夏の高校野球:ルール熟知し、狙っていた追加点”. 毎日jp (2012年8月13日). . 2012閲覧.
関連項目
- アピールプレイ
- フォースプレイ
- タイムプレイ
- リタッチ
- 中井正広のブラックバラエティ - 2012年7月1日の放送回にて、このルールにまつわるクイズが出題された。