マツタケ

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マツタケ松茸Tricholoma matsutake (S.Ito et Imai) Sing.)はキシメジ科キシメジ属キシメジ亜属マツタケ節のキノコの一種。腐植質の少ない比較的乾燥した土壌を好む。秋にアカマツの単相林のほか針葉樹優占種となっている混合林の地上に生える。菌糸体の生育温度範囲は5-30℃、最適温度は22-25℃、最適pHは4.5-5.5であり、菌糸の成長速度は遅い。

特徴

その子実体マツタケオールによる独特の強い香りを持ち、日本においては食用キノコの最高級品に位置付けられている。発生時期には地域差があり、高緯度の冷涼な地域での発生は、8月末頃から始まり九州などの比較的温暖な地域では、11月末頃まで発生する。梅雨頃に生える季節外れのマツタケはサマツ(早松)とも呼ばれ共に食用にされる。なお、マツタケの仲間にはよく似たキノコが多数確認されている。

生態

アカマツの樹齢が20年から30年になるとマツタケの発生が始まり30年から40年が最も活発で、70年から80年で衰退する[1]マツ属Pinus)などの樹木の根と、外生菌根または外菌根と呼ばれる相利共生体を形成して生活している[2][3]

マツタケの子実体は典型的には直径数メートルの環状のコロニーを作って発生し、その領域を「シロ」と呼ぶ。その語源は「白」とも「城」あるいは「代」とも言うが定かではない。シロの地下にはマツタケの本体である菌糸体と菌根が発達しており、土壌が白くなっている。マツタケは貧栄養な比較的乾燥した鉱質土層にクサレケカビ属真菌 (Mortierella sp.)[4][5] などと共に生息し、そこに分布する宿主の吸収根と共生する。地表に落枝・落葉などが蓄積して富栄養化が進み、分厚い腐葉土のようになると、マツタケの生息環境としては不適である。発生初期の若い菌糸のシロと最盛期を過ぎたシロの水分量には差があり、最盛期を過ぎると乾燥化が進み不透水層が形成される[1]。シロの内部では乾燥化が進み抗生物質様のものを分泌して細菌や放線菌を排除する現象が生じているが、いや地と呼ばれるこの排除現象は菌根から由来する物質単一では起こらないと考えられている[1]。また、子実体原基形成の刺激日前後の降水量と子実体の発生本数には正の相関があることが明らかになっていて、8月から9月の降水の間隔は発生本数に大きな影響を与えている[6]

一方、腐生植物であるシャクジョウソウ科シャクジョウソウはマツタケなどのキシメジ科の菌に寄生することが知られ[2]イボタケ科のケロウジは、マツタケ同様の菌根菌であるが、マツタケの「シロ」を排除して縮小させ、自らの「シロ」を形成する。そのため、これらはマツタケの大敵とされている[7]

遺伝子による分類

1999年スウェーデンのE. DanellらがDNA解析により、近縁種とされていたヨーロッパ産のキノコ(T. nauseosum)とマツタケが同一であることを突き止めた。T. nauseosumの方がマツタケ(1925年)より20年前(1905年)に学名を付けられていたが、有名なT. matsutakeを保存名として学名は変更しないとしている[8]。日本国内で採集した84菌株についてrDNAのIGS1領域を比較した結果、8タイプに分類することが出来た。そのうち1つの占有種は九州から北海道まで広範囲に分布している[3]

近年中国の四川省雲南省からマツタケが出荷されているが、この地域に分布するマツタケはマツ類ではなくブナ科樹木(マテバシイ属コナラ属シイ属あるいはクリ属が含まれる)を宿主としており、現在その生態や分類に関する研究が行われている。

2008年独立行政法人森林総合研究所財務省関税中央分析所、信州大学農学部、滋賀県森林センターの共同研究により、DNA分析によるアジア産マツタケ(T. matsutake)の地理的タイピング法が開発され、形状では判別できない産地の判別方法として実用化が期待される[9]

農産

収穫と流通

マツタケを採るのは難しく、通常のキノコのように地表に顔を出して傘が開ききってしまえば、香りも味も落ちる。このため、地表からわずか1-2cm程度、顔を出したところを見極め、根本から押し上げるようにして採取する。シロの場所を知らない人間が、やみくもに探しても採取できない理由はこの点にある。また、地衣類の多い林地では傘が地上に見えないこともある。現在のところ人工栽培することができず、自然に発生したものを収穫する。

入会地の過剰利用などにより退行遷移を起こしてアカマツが優占するようになった(コモンズの悲劇一歩手前で抑制がかかった状態である)里山はマツタケにとっては適した環境であるため、過去には日本でも多く取れ、庶民の秋の味覚として親しまれた。「松茸列車」と呼ばれる、国産松茸を満載した貨物列車が毎日東海道本線を走ったほどである[10]。しかし、松の葉や枝を燃料肥料として利用しなくなりマツ林の林床環境が富栄養化したこととマツクイムシにより松枯れが多発した事でマツタケの収穫量は激減した。そのため、現在では高価な食材の代表格となっている。

林野庁の資料によれば、昭和初期の流通量は6000トン程度であったが最盛期の1941年(昭和16年)には、12000トンが記録されている。しかし、その後減少し続け1998年(平成10年)に247トンであった[11]。2010年(平成22年)には140トン、23億円を産したが、これが前年比5.8倍である[12]

1993年のような冷夏で雨の多い年は多く発生するものの、夏が暑く8月中旬から9月末頃の降水量が少ない年は収量が減少するとされてきたが、2010年のように記録的猛暑にも拘らず秋の降水量が周期的で十分多かったことでマツタケが歴史的豊作になる年が出現するに及んで、夏の猛暑自体は地中温度にあまり影響を与えないために影響は受けにくいと考えられている[13]

最近では市場流通量のほとんどが輸入品で占められ、中でも韓国北朝鮮中国(特に吉林省雲南省四川省)からの輸入が多い。2007年の10月には、北朝鮮産については2006年10月の核実験をきっかけとする経済制裁で輸入が止まっており、中国産については残留農薬(殺虫剤)問題に端を発する市場の不信感から価格が低迷した。北米からは別種のT. magnivelareが輸入されているが、それを含め類似の形態・食味・香りを持つキノコは市場では一括して「松茸」として扱われている。

北米のT. magnivelareは、日本のマツタケとは異なり自然度の高い森林に発生する。キノコを採集するために熊手(レーキ)で落葉層を掻くなどして地表を攪乱することは、樹木の細根を傷つけ生態系へのダメージとなる。このためアメリカではキノコ狩りに規制がかけられており、一時はこのキノコをワシントン条約に基づき保護する対象とすることが検討された[14]

主な産地

日本国外の産地

日本に輸入される主な国外産地として以下が知られる。

流通過程において風味が劣化していると言われる。 (主な要因は、植物防疫法により微量でも土が付着した状態での輸入が禁止されているので、洗浄が避けられないことにある)。

日本における歴史

ファイル:Matsutakegari.jpg
摂津名所図会「松茸狩り」1796 - 1798

日本のキノコ食文化の歴史は古く、縄文時代中期(紀元前2000年頃)の遺跡から、縄文人がキノコを食物として利用していたことを示す遺物(キノコ形土製品)が多数発見されており、岡山市の弥生時代百間川・兼基遺跡からは、マツタケを模した「土人形」が出土している[16]

日本書紀』には応神天皇に「茸」を献上したことが記されており、『万葉集』には奈良の高圓山のマツタケの短歌が載っており、平安時代になると当時の貴族がマツタケ狩りを季節の行事として楽しむようになり、『古今和歌集』、『拾遺和歌集』にもしばしばマツタケの歌が詠まれている[17][16]

安土桃山時代になると、武士もマツタケ狩りをしていた様子が記録として残されており、江戸時代になると一般大衆もマツタケを食していたことが江戸時代の料理本『本朝食鑑』に記録されている[16]

韓国の報道機関からは「マツタケへの日本人の愛着は他の追従を許さない」「(1200年前の万葉集に読まれるなどの歴史からして)日本人のマツタケへの愛はすでに遺伝子に刻印されている」とも言われ、日本人のマツタケへの愛着・研究から学名(Tricholoma matsutake )と日本語の読みが使われるようになったほどである[18]

利用

日本では一般に香りが良いとされ(独特の香りを嫌う人もいるが)「香り松茸 味しめじ[19]という言葉があるほどである。土瓶蒸し松茸ご飯など、香りを生かして食べることが多い。ほかのキノコと同様に、マツタケも加熱により旨み成分が増えるため、生で食べても旨みは感じない。

この香りの主成分は、1938年(昭和13年)、農学博士・岩出亥之助により解明され、マツタケオールと呼ばれる1-オクテン-3-オール 1-octene-3-ol trans-2-オクテン-1-オール trans-2-octene-1-ol 、およびケイ皮酸メチル methyl cinnamate からなるとし、人工合成にも成功した。特にマツタケ特有の香りを生んでいるのはケイ皮酸メチルである。マツタケの香りを再現した安価な合成香料も「マツタケエッセンス」などとして市販されている。

注意

マツタケは弱毒菌ではあるが、極めて高価なキノコであるため通常に喫食する量では中毒を起こさない。ただし「多量に食べると吐き気がする」[20]ということから、過食は禁物である。

また、古くなったマツタケを食べると、激しい嘔吐、むかつきや下痢などの中毒症状に見舞われる。これは、マツタケのアミノ酸が有毒成分(ヒスタミンフェニールエチルアミン)に変化するためである[21]

栽培の試み

マツタケ用培地などの人工基質上でもマツタケの菌糸体を培養することは可能である。しかし商業栽培される多くのキノコに比べると菌糸の成長は遅い。現在のところマツタケのキノコを人工基質上で発生させることはできておらず、エノキタケブナシメジなどで行われているような、ビン栽培などの完全な人工栽培を行うには未だ解決すべき課題が多い。なお、本稿における人工栽培とは、人工環境下(室内)での人工基質からの子実体の発生までを指す。

林地栽培

発生環境の林地を整備し子実体発生本数の増加を目指す物で、いくつかは効果を上げている。

  • 発生する森林の「雑木の間伐」、「落ち葉掻き」、「落ち枝拾い」など環境の整備を行う事によって林床を貧栄養状態にする[22]
  • マツタケ胞子の散布などでシロを発達させ、マツタケの増産を目指すことも行われており、こちらは一定の成果が得られる場合もある[23]
  • 発生量増加を目指し、栄養素や潅水(散水)を行う。『マツタケ発生林でリボ核酸(RNA-M)と,それを酵素処理した5'-ヌクレオチドの混合物を散布することにより子実体の発生促進効果を認めた』との研究結果[11]や、発生する林地へ潅水すると平均個重が増加するとの報告もある[24]
  • シロを感染源としてアカマツのマツタケ感染苗を作出し移植する方法では、数年後に移植苗の近くから子実体が発生したとの報告もあるが、シロが拡大しない例や移植した苗が数年で枯れる例も多く報告されている。
  • シロの健全を保つために数年毎の維持作業を実施(広葉樹の整理伐、腐植層のかき取り除去、枯損木の搬出等)[25][26]

人工栽培

子実体の発生を目的とする栽培
大学や大手キノコ生産会社、バイオ関連企業などにより人工栽培技術確立に向けた研究が行われている。現在の培養技術は子実体発生前の原基形成まではできるが再現性に欠け、安定した子実体発生までの技術を確立したとの報告はなされていない。人工栽培のために適した基材素材と栄養素および環境の特定に向け研究がされている。研究の中で、菌株毎に大きく培養特性が異なる、長期の培養により菌糸繁殖能力が低下する等のことが判明している。
成分抽出のための栽培
菌糸の人工栽培も行われ、免疫応答の強化を目的としマツタケ菌糸体からαグルカンなどの成分の抽出もされている[27]

マツタケの人工栽培をめぐる騒動

  • 2003年シイタケとマツタケの菌を混合して人工栽培に成功したと称する「融合マツタケ」が大手マスコミに取り上げられて話題となったが、その正体は単なるシイタケだった。マツタケが高価であることから、過去にも類似した詐欺的商法が出現したことがある。近年、「松きのこ」という名称のシイタケが市場に流通しているが、前述の「融合マツタケ」と同じものである。既存のキノコ栽培者に「松きのこ」の栽培を促すDMが送られていることも判明している[28]

マツタケの名のつくキノコ

同属

属が異なるもの

  • カブラマツタケ (Squamanita umbonata (Sumst.) Bas) (単生することが多い。根本がカブのように膨らんでいることで識別可能)
  • ヤナギマツタケ (Agrocybe cylindracea)(ヤナギの木に生えるのが由来。マツタケの由来は、幼菌時に微かにマツタケの匂いを発することからと言われる。栽培もされている。[30]
  • オオモミタケ (Catathelasma imperiale)(マツタケと呼ばれることがある)

がある。

呼び方

関西地方では「まつたけ」ではなく、「まったけ」と呼ぶ事が多い。

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 小川 真:マツタケの生活 -微生物社会の一員として- 化学と生物 Vol.4 (1966) No.9 P450-458 doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.4.450
  2. 2.0 2.1 鈴木和夫『根圏における生物共生機能の解明』 (PDF) 平成16年度科学研究費補助金(基盤研究 (S))研究状況報告書
  3. 3.0 3.1 鈴木 和夫『外生菌根共生系の生理生態とマツタケのパズル』 日本森林学会誌 87(1) pp.90-102 20050201 NAID 110002975568
  4. 藤田徹、「マツタケのシロから分離したクサレケカビ属真菌が2員培養でアカマツに形成した菌根様構造」日本森林学会 第123回日本森林学会大会 セッションID:Pa214 doi:10.11519/jfsc.123.0.Pa214.0
  5. 小川眞、アカマツ林における菌根菌 -マツタケ-の微生物生態学的研究 Ⅲ マツタケのシロ土壌と菌根における菌類相 森林総合研究所 研究報告No.293 昭和52年(1977) 7月 (PDF)
  6. 但し、一回のまとまった降雨ではなく乾燥が進まない一定の間隔での降雨が重要。
  7. 松茸名人(2013年6月19日時点のアーカイブ)長野県 上伊那地方事務所農政課
  8. The Swedish matsutake and the Japanese matsutake are the same species!(2004年10月16日時点のアーカイブ) The Edible Mycorrhizal Mushroom Research Group
  9. マツタケのDNA原産国判別法
  10. 雑誌「身近な"?"の科学 マツタケ」Newton 2008年11月号 120 - 121頁、担当筆者編集部高嶋秀行、ニュートンプレス
  11. 11.0 11.1 マツタケ子実体発生におよぼす核酸関連物質の効果 九州大学農学部演習林報告 83 p.43-52 hdl:2324/14836
  12. 林野庁「平成22年の主要な特用林産物の生産動向」、2011年。2013年1月閲覧。
  13. “国産マツタケ豊作、半額の店も 「30年間で最大かも」”. asahi.com (朝日新聞社). (2010年10月22日). オリジナル2010年10月24日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20101024095554/http://www.asahi.com/national/update/1021/OSK201010210048.html 
  14. 『特産情報』プランツワールド、2001年4月号6ページ
  15. “(みちのものがたり)マツタケ街道・ブータン/あぁ!驚くほどの声が出た”. 『朝日新聞be』. (2017年10月7日). http://www.asahi.com/articles/DA3S13166773.html 
  16. 16.0 16.1 16.2 日本特用林産振興会きのこの食文化
  17. 不二食品松茸と昆布の由緒正しい歴史
  18. 2006.10.15 中央日報マツタケの受難
  19. 水谷和人、ホンシメジ培地の林地埋設後5年間の子実体発生状況 (PDF) 岐阜県森林研新報,34(2005)
  20. 出典:「きのこ」60頁(著:小宮山勝司 2000年 永岡書店)
  21. 井上伊造、「マツタケの腐敗と中毒に関する研究」 博士論文 乙第2430号、論農博第485号, 京都大学1973, doi:10.14989/doctor.r2430 , hdl:2433/210398
  22. 山村の起業 森林資源の新たな利用
  23. 京まつたけ復活・里山再生まつたけ「十字軍」運動
  24. 散水によるマツタケの増産効果 —長野県諏訪市マツタケ山の事例調査から—(2009年9月11日時点のアーカイブ)日本森林学会中部支部
  25. マツタケ山の経営試算 (PDF) 長野県林業総合センター
  26. 竹内嘉江 ほか、「林地における菌根性きのこ類の増産施業法の解明」 長野県林業総合センター研究報告 (20), 41-64, 2006-05, NAID 120005866541
  27. 鶴純明 ほか、担子菌マツタケ菌糸体製剤CM6271由来αグルカン・蛋白質複合体投与による免疫応答の増強
  28. 岩田眞人 (アイ・エム・ビー株式会社)『イカサマツタケの研究
  29. 29.0 29.1 29.2 平凡社 世界大百科事典
  30. “ヤナギマツタケ量産化 加工品もお目見え”. 日本海新聞 (新日本海新聞社). (2014年10月30日). オリジナル2014年12月27日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20141227180507/http://www.nnn.co.jp/news/141030/20141030007.html 

参考文献

  • 山中勝次 『キノコワールド最前線』 東京書籍。
  • 太田明「ホンシメジの実用栽培のための栽培条件」、『日本菌学会報』第39巻第1号、1998年、 13-20頁。
  • 福井きのこ会(編著) 『福井のきのこ』 本郷次雄(監修)、福井新聞社
  • 進藤克実「マツタケの人工栽培に関する研究」hdl:2261/25050
  • 林産試だより2010年10月号 マツタケの「シロ」 地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場

関連項目

外部リンク