日本の救急車
日本における救急車とは、消防車やパトカーと同様緊急自動車の一つで、車内に傷病者を収容し緊急走行で病院などの医療機関まで搬送する車両の事を指す。ドクターカーも救急車の一種である。消防法施行令上の正式名称は救急自動車(きゅうきゅうじどうしゃ)。
この項目では、日本の救急車について説明する。
Contents
概要
- 日本の救急車は、
- などがあり、同じ「救急車」と呼ばれる緊急自動車であっても、所属している組織によって、配備の目的や車内の装備、管轄省庁などが異なる。
- 日本の地方公共団体(消防)における救急自動車は総務省消防庁が管轄している。他省庁管轄の救急車と比べて出動件数が最も多い。
- 地方公共団体(消防)の救急車は、構造や設備が総務省消防庁により定められている[1]。例として、救急隊員3人以上及び傷病者2名以上を収容でき、四輪駆動車であること等が定められている。
- 普段一般道路を走行している大部分の救急車は119番通報により出動した地方公共団体(消防)の救急車である。
- 日本の119番通報で出動する消防の救急車は傷病者の人種、年齢、国籍、納税の有無を問わず無料で利用する事ができる。
- 緊急走行時は赤色灯の点灯と90dB以上のサイレンの吹鳴が法律で義務付けられている。警察のパトカーと違い、搬送される傷病者の家族などが乗った車両を赤信号で先導することは出来ない。
- 医療機関の救急車は、病院間の転院搬送などに使用され、ドクターカーなどと同じく、厚生労働省が管轄している。
- 自衛隊の救急車は防衛省が管轄し、通常時は駐屯地や基地内で発生した傷病者を医務室または病院へ運ぶために使われている。大規模災害などの際に地方公共団体の首長からの要請を受けて「災害派遣」として出動するのは1トン半救急車と呼ばれる車両で、大きな赤十字標章が付いたトラックのような外見であるが、関係法令に適合した 正式な日本の救急車の一つである。
- 空港(検疫所)の救急車は、海外からの入国者・帰国者等が感染症を罹っていた場合などに使用する。厚生労働省が管轄している。
- 大企業の工場や火力発電所、石油コンビナートなどの大規模事業所や、一部の大型テーマパークなどが所有[2]していることがある。
歴史
- 1931年(昭和6年) - 日本における最初の救急自動車となる車両を日本赤十字社大阪支部が大阪市に配備[3]。運用を開始する。
- 1933年(昭和8年) - 日本の消防機関で初となる救急自動車を神奈川県警察部横浜市山下町消防署[4]に配備。運用を開始する。
- 1934年(昭和9年) - 愛知県警察部が名古屋市中消防署[5]に、日本赤十字社東京支部が東京市に救急自動車を配備。運用を開始する。
- 1936年(昭和11年) - 警視庁消防部[6]にアメリカ製救急自動車が寄贈され、東京市で救急隊による救急業務が始まる。同年、京都府警察部が京都市に救急自動車を配備。運用を開始する。
- 1948年(昭和23年) - 消防組織法の施行に伴い、警察の消防部門から独立・分離し、以後、地方公共団体の消防本部が消防・救急業務を担う。
- 1949年(昭和24年) - 警察の消防部門から独立した名古屋市消防局が救護業務を再開[7]。
- 1952年(昭和27年) - 東京消防庁が「消防関係救急業務に関する条例」を制定。
- 1953年(昭和28年) - 東京消防庁が「消防関係救急業務に関する条例施行規則」を制定。
- 1963年(昭和38年) - 消防法が改正され、各地方公共団体の消防本部が救急業務を行うよう規定・法制化[8]される。
- 1970年(昭和45年) - 消防自動車と同じサイレン音だった「ウー」音との識別や搬送中の傷病者ならびに道路沿いの地域住民がうける騒音軽減のため、救急自動車専用「ピーポー」音電子サイレンへ変更[9][10]される。
- 1991年(平成3年) - 救急救命士法が制定され救急救命士が全国各地で誕生。日本初の高規格救急車「メルセデス・ベンツ製310D型(2WD)」が政令指定都市に導入され、救急救命士と高規格救急車の本格運用が始まる。
- 1992年(平成4年)
- 1995年(平成7年) - いすゞ自動車が日本の自動車メーカーとして3番目となる高規格救急車スーパーメディックを発表。
- 1997年(平成9年) - 三菱ふそうが日本の自動車メーカーとして4番目となる高規格救急車ディアメディックを発表。
- 現在
- 高規格基準を満たしている3車種(トヨタ・ハイメディック、日産・パラメディック、札幌ボデー・トライハート)が「高規格基準救急自動車」又は「高規格基準救急車」と表示され販売されている。
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納入に至るまで
日本の地方自治体が救急車を購入する場合、一般的に競争入札で購入する。納入までの主な手順は次の通り。
- 救急自動車を購入する際は更新および増隊の必要の有無に基づいて決定され、消防本部を運営する地方自治体の議会(以下、議会)が新年度計画を発表する。
- その後、各消防本部が運営する地方自治体の入札業者名簿に登録されている販売業者に対し、入札の公告を告示をする。販売業者は期間内に仕様や金額を書いた各種用紙一式をまとめた封筒を各消防本部の指定先に届ける。
- 開札が行われた後、一番安い価格を提示した業者が落札し仮契約を結ぶ。その後、議会で審議・可決された後、契約が成立する。
- その後販売業者は自動車メーカーに発注し、自動車メーカーから指示を受けた艤装メーカーが車輌を生産する。
- 生産完了後、販売業者の元に車両が届けられる。救急自動車は型式を取得していても指定自動車でないため国土交通省直轄の運輸局にて持ち込み検査を行い、登録完了後各本部に納入される。
- 逆に随意契約になることもある。例として、入札を締め切った後入札業者名簿に登録されている業者が1社しかない場合や指示内容や諸事情(生産中止など)により納入が不可能になったりした場合である。
- 入札で救急自動車が納入されるだけでなく企業や法人[11]、一般の個人などから寄贈されることもある。この場合は車体に寄贈者名や「助成車両」のネームやマークが入る。交付金で購入した場合も車体に交付金名が入る。類似したケースでは日本赤十字社の新潟県支部が2010年まで県内の消防本部に救急車を貸与していた。この車両には赤十字マーク[12]が付けられていた。
搭載されている主な医療用資器材
- 高規格救急車
- 観察用資器材 - 聴診器、血圧計(自動式・タイコス式)、検眼用ペンライト、患者監視装置(心電図・脈波・血圧・血中酸素飽和度)等- 傷病者のバイタルサインなどを測定するために使用する。
- 人工呼吸器 - バックバルブマスク・デマンドバルブ・自動式人工呼吸器等
- 自動式体外除細動器 - 電気ショックを与える医療器具。心室細動や無脈性心室頻拍の、致死的不整脈を治療するために使用する。法改正により一般市民でも使用可能となったAEDと救急車に積載されるものと異なる点は、隊員自らが心電図モニターにより除細動の適応を判断し解析を行い除細動適応であれば通電する点である[13]。
- 気道管理セット - 吸引器、喉頭鏡、マギル鉗子、開口器、経口経鼻エアウェイ等
- 搬送器材各種 - ストレッチャー(メイン、サブ、スクープ型など)・布担架等
- 毛布
- 感染予防用具 - プラスチックグローブ、マスク、防護衣類、ゴーグル等
- 脊柱固定用具 -バックボード、頸椎固定カラー、ストラップ。交通事故などの高エネルギー外傷で脊椎損傷の可能性がある患者に対し全身固定を目的として使用する。
- 外傷キット - 滅菌ガーゼ・タオル包帯・三角巾・空気膨張型副木等
- 分娩セット
- 救出用具 - サイドウィンドウを割る為のハンマー、シートベルトカッター、バール、トップマン鳶等。これらで対応出来ない事案の場合は特別救助隊の支援を求める(通報で状況を聞き取った際に同時出動する事が多い)
- 医療用酸素 - 10リットルボンベ×2~3本
- 特定行為セット - ラリンゲアルマスク、食道閉鎖式エアウェイ、気管チューブ、静脈留置針、輸液セット、アドレナリン。(気管チューブとアドレナリンは医師の具体的指示を受けた「認定救急救命士」が使用できる。)
法令関係・デザインなど
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消防法施行令第44条で救急車は「救急自動車」と表記され、特種用途自動車の緊急自動車の形状例示では「救急車」と表記されている。道路交通法施行令第13条では緊急自動車の指定を受けることができる自動車として「国、都道府県、市町村、関西国際空港株式会社、成田国際空港株式会社又は医療機関が傷病者の緊急搬送のために使用する救急用自動車のうち、傷病者の緊急搬送のために必要な特別の構造又は装置を有するもの」を挙げている。車体の色は道路運送車両法で白色と定められ、横に赤色のラインが引かれているのが一般的であるが、青色[14]又は黄緑色[15]のラインが引かれている車両もあるなど、ラインの色やデザインは地方自治体ごとに異なる。例えば、札幌市消防局の場合は色帯を「Sapporo」の頭文字である「S」をモチーフに変形させたものや大阪市消防局[16]を含む一部の地方自治体では、赤色のラインが無い車両もある。車両上部に赤色警告灯(側面や後部に補助警告灯として高輝度LEDを用いたものが設置されている)やスピーカー、消防無線機などを備えている。
デザインは所属・隊名の他に、スター・オブ・ライフや消防本部または市町村章のマーク、オリジナルキャラクター、火災予防や救命講習の呼びかけなど、多種多様である。車両前部に“救急”の表示を左右反転させ鏡文字にしている車両があるが、走行中の一般車両が後方から接近する救急車をバックミラーで容易に認識させるためで、ヨーロッパ[17]などで一般的である。空港近くの消防署・出張所に配置されている救急車に、空港構内へ進入して航空機のすぐ近くへ接近するために、空港構内登録用のナンバープレートを装着した車両もある。
サイレンは、1970年(昭和45年)に現在の「ピーポー」音電子サイレンに切り替える際に運輸省へ道路運送車両の保安基準適合を照会した法令上正式なサイレンである[9][18]。近年は補助警告音としてイェルプ[19]音付サイレンアンプを装備する車両もみられるが、日本では正式に認定されておらず公道での単独吹鳴は違法[20]になり、正規の「ピーポー」音電子サイレンと同時吹鳴する。
種別
- 高規格救急自動車
- 日本の消防で現在主力の救急車両。救急隊員3名のうち最低でも1名の救急救命士が乗務し運用されている。
- 従来型や外国製などを参考に1980年代後半から基本研究・開発がスタート。
- 当時主力の国産2B型は車内患者室が狭く、新しく増える医療機器や医療器具を置くと救急隊員の活動が制限されてしまうことが分かった。
- 3B型救急車は医療機器や医療器具を置くスペースはあるものの、2B型と比較して小回り・操縦安定性が悪く、エンジンの騒音、車内の振動対策も必要なことが分かった。
- また、2B型・3B型共通して医療機器などを積載する事により新しく増える重量に対してエンジン出力が不足している点など、
- ベース車両自体を大幅に改造・改良しなければ要求する性能を満たせないことが分かった。
- そこで、救急隊員が車内で屈まずに自然な姿勢のまま傷病者に迅速な救命処置ができる室内高を持ち、尚且つ医療機器や医療器具などを無理なく収納できる室内幅をもった高性能な救急自動車を
- 1991年の救急救命士法施行にあわせて新規規格化したのが高規格救急自動車である。最終的にベースとなった規格は全国で主力だった2B型。
- その為、高規格救急車も傷病者を仰臥位または背臥位の姿勢で2名搬送できるベッド[21]を有している。
- 因みに、高規格救急車(2B型)という表記は、2つの救急車規格を表示している事になるため誤謬である。
- 車両患者室内の高さや装備品等の基準が定られており、以前まで総務省消防庁認定「高規格救急車」又は「高規格救急自動車」と表記され認定の書類付きで販売されていたが、
- 要件具備の確認行為が廃止[22]された為、現在では「高規格基準救急自動車」又は「高規格基準救急車」と表示され販売されている。
- 災害対応特殊救急自動車=高規格救急車というわけではなく、災害対応特殊救急自動車は国が行う緊急消防援助隊設備整備費補助金交付要綱[23]の要件を満たす救急自動車の事をいう。
- 2B型救急自動車
- 2(ツー)ベッド型の略。傷病者を仰臥位または背臥位の姿勢で2名搬送できるベッドを有している救急車両。高規格救急車に対して「標準救急車」、「普通救急車」等と呼ばれている。
- 自治体消防で救急車として運用が始まった1960年代では、消防車と同じ音のサイレンを装備し、主にトラックをベースにした車両だったが、
- 1970年代前半からステーションワゴンをベースにした車両に変わり、サイレンも救急車専用の「ピーポー音」電子サイレンになった。
- 1970年代後半からは商用ワンボックスカーをベースにした車両になり、現在に至る。
- 一般的な病院所有の救急車[24]や陸上自衛隊駐屯地で見られる救急車[25][26]は基本的に2B型救急車である。
- 高規格救急自動車だけではなく、災害対応特殊救急自動車の要件に適合すれば2B型救急自動車(準高規格救急車)も、補助金が交付[27]され緊急消防援助隊に登録される。
- 一部の地方自治体で準高規格救急車[28]と呼ばれる救急車があるが、準高規格救急車という名称・規格は総務省消防庁が正式に定めた規格ではないため、種別は2B型救急車に属する。
- 準高規格救急車は販売されている高規格救急車では地方自治体の要求する性能又は条件を満たすことが出来ない場合に導入されている。事例は次の通り。
- 道幅が狭い地域を管轄する地方自治体が高規格救急車より車幅や全長の短い商用ワンボックスカーをベースに高規格救急車と同等の架装をして運用[29]。
- 規模の小さい地方自治体や財政が厳しい地方自治体などへ寄贈された2B型救急車を高規格救急車と同等に架装して運用[30]。
- 販売されている高規格救急車には設定されていないエンジンを搭載した商用車をベースに製作し運用[31]。
- 3B型救急自動車
- 3(スリー)ベッド型の略。傷病者を仰臥位または背臥位の姿勢で3名搬送できるベッドを有している救急車両。日産・シビリアンなどマイクロバスをベースにした救急車で1970年代から1990年代前半にかけて普及[32]していた。
- 2003年6月の消防組織法上に緊急消防援助隊が正式に位置づけられ、緊急消防援助隊車両に対する補助金が義務的補助金として優先的に扱われるが、補助金の支給対象は救急車が災害対応特殊救急自動車、
- 人員搬送用は2007年に規格化された消防車両の支援車III型で、3B型救急車は補助金支給の対象外であるため新たな需要はなく、製造メーカーからもカタログ落ちしているため新たに導入された3B型救急車は近年確認されていない。
- 大型救急自動車
- マイクロバスをベースにした車両で、日産・シビリアンやトヨタ・コースターがベース車両として主に使われている。用途別に架装タイプが概ね4種類あり、
- 高度な医療用機器を積載し三次救急医療機関で使用されるドクターカータイプ、新生児患者を搬送するため大型保育器などの医療用機器を積載している新生児用救急車(ドクターカー)タイプ、
- 多くのベッド(担架)を積載又は20名程度の座席を装備し、事故や災害で複数の負傷者が発生した時に使用する多数負傷者搬送用[33]タイプ、
- 東京消防庁に配備されている一類・二類感染症患者兼特殊災害傷病者搬送タイプがある。
- 新生児搬送用大型救急車は、総合周産期母子医療センターに指定されている総合病院等に、多数負傷者搬送用の大型救急車は空港、高速道路、新幹線の駅を管轄する自治体[34]等に配備されている。
- 軽救急自動車
- 規模の小さい離島や高規格救急車、2B型救急車が進入できないような狭隘道路地域などで使用される。
- 軽ワゴン車をベースに救急車へ改造した車両で、狭隘道路地域における「高機動性」と、傷病者「搬送」の2点に特化した救急車である。
- 高規格救急車等が進入できない狭隘道路地域を管轄する地方公共団体(消防)で軽ワゴン車をベースに改造した救急車両「軽救急車」を運用できるよう2011年4月に総務省消防庁が救急車の規格基準を改訂。構造や設備の基準適用をしないことが出来るよう緩和され、軽救急車が誕生した。以降、全国各地で普及が進んでいる。
- 運用例として宮崎県高千穂町の役場救急隊[35]や鹿児島県三島村の診療所救急[36]があるほか、2011年に兵庫県の姫路市消防局が家島本島と坊勢島へ予備車を含めて各2台ずつ配備し運用している[37]。
- また、東日本大震災の後からは、被災地の医療機関からのニーズに基づき、患者モニタや超音波エコーなど8種類の高度な医療機器を搭載した軽救急車を日本医科大学多摩永山病院救急救命センターが監修した。この軽救急車版ドクターカーといえる車両[38]が2011年10月以降、被災地の宮城・岩手・福島の3県で計11台が運用を開始している[39]。
- 2012年に高知県南国市で市北部山間地域の狭隘道路に対応させるため導入され、同県土佐市消防本部でも2013年1月に導入され、運用されている[40][41]。
- その他特殊な車両
- 京都市消防局では、市街地から遠く離れた一部の出張所に、患者搬送を目的とした「器材搬送車」と消救車を配備している。器材搬送車のベース車両としてセレナやデリカスペースギア等のミニバンが用いられ、車内は前述の軽救急車と同様に狭く、搭載資器材は限られている。これらの車両は京都市消防局では「救急車」ではなく「消防車」の扱いになるため、車体塗色は朱色に白が入ったものとなっている。
- 東京消防庁八王子消防署浅川出張所は高尾山山頂まで走行するため、トヨタ・タウンエースをベースにした小型救急車が2017年4月に配備された[42]。
自衛隊の救急自動車
- 自衛隊の車両は陸上自衛隊と海上自衛隊がOD色、航空自衛隊は紺色だが、現在は白色の車両も導入されている[43]。
- 陸上自衛隊衛生科では、手術車・手術準備車・滅菌車・衛生補給車の4台で構成される野外手術システムを所有している。海上自衛隊と航空自衛隊は海難・航空機事故発生に備え、近年は高規格救急自動車を配備している。
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航空自衛隊
2B型トヨタ救急車
(紺色) - JASDF Nissan Paramedeic.jpg
航空自衛隊
日産
パラメディック
(白色) - JMSDF Ambulance(TOYOTA HIMEDIC) in Maizuru Air Station 20140727.JPG
海上自衛隊
トヨタ
ハイメディック
(白色)
医療機関の救急自動車(病院救急車)
医療機関が所有する救急車は、患者容体の急変や専門外の治療など他施設へ転院搬送を要する患者の救急搬送に用いる車両である。「病院救急車」は俗称で、法令上の正式名称は消防と同じく「救急自動車」である。
- 管轄省庁はドクターカーなどと同じく厚生労働省であり、このため総務省消防庁が発出した「救急業務実施基準(昭和39年3月3日自消甲教発第6号)」などの通達の効力は、医療機関の救急車は一切及ばない。ドクターカーも、医療機関の救急車の中の一種である (詳細はドクターカーの項を参照)。
- 搬送される患者と共に、医療機関の看護師や、付き添いの家族が同乗し、容体によっては主治医も同乗する。産婦人科を有する医療機関が母体搬送する場合、医師とともに助産師が同乗することもある。
- 救急科だけでなく他の診療科の使用も考慮して、汎用性の高い2B型救急車を所有する医療機関もある。医療機関によっては、ステーションワゴンやミニバン、軽ワゴン車などを改造して救急車にしているところもある。
- 出動件数や走行距離が少ないために車体の損耗が少なく、車両更新期間が長く、旧年式車両も少なくない。
- 通常時(待機時)の装備は、ストレッチャー、酸素ボンベ一式、点滴フック、救急蘇生セット一式、程度と比較的簡素である。高齢者が多い医療機関では、吸引器や車イスを積載するリフトの装備もみられる。各診療科ごとに必要とする医療機器が異なるため、患者モニターや補助人工心肺、人工呼吸器、精密輸液ポンプ、超音波エコー、など通常時は車内に未搭載の機器が必要な場合は、診療科の外来や病棟の機器を一時的に搭載するなど、拡張性の高い運用が行われている。
- 医療法が定める病院だけに限らず、診療所、有床診療所、医院・クリニック、被災地の仮設診療所なども所有できる。公安委員会の緊急車両指定に施設あたりの台数制限はなく、複数の救急車を運用する施設もある。
- 救急車を所有しない医療機関などで転院搬送を要する場合は、地元消防の救急車に出動を依頼する。消防本部によっては、送り手側の医療機関に対し主治医の署名・押印が入った 「転院搬送依頼書」など所定の書類提出を要求するところもある。 転院搬送時に、患者と共に紹介状や各種検査データ、看護サマリーなど一式の「診療情報提供書」が、送り側から受入れ側へ引き継がれる。
- 医療機関の救急車に搭載されている主な医療用資器材
- 医療機関や各診療科によって、車内で使用する医療機器や薬剤、搬送される患者の症状や程度は大きく異なるため、搭載する器材などは消防と異なり画一化や規格化がされていない。通常時(待機時)、車内はストレッチャーや酸素ボンベ一式、救急蘇生セットなど、最低限の医療機器のみを搭載し、実際の搬送時は、患者の容態に応じて外来や病棟で使用している医療機器を一時的に搭載するといった、弾力的な運用を行っている。
- 大学病院や一部の病院の救急車に、超音波エコー装置や精密輸液ポンプ、気管切開、体腔穿刺(胸腔・心嚢・腹腔穿刺やドレナージなどを含む)用の器材一式、骨内注射用機器一式、など車内での簡易な救急処置・外科手術セットを搭載しているものも見られる。
- 産婦人科やNICU(新生児集中治療室)、GCU(回復治療室)などを有する医療機関の救急車は、車内に未熟児用の保育器や補助人工心肺などの医療機器が搭載されているものもある。
- 自治体消防の救急車と異なり、赤色灯やサイレンを消して走行すれば一般車両の患者搬送車としての運用が可能であるため、転院搬送のために車イスを車内に搭載しているものもある。
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高機能型救急車
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2B型救急車
- 一部の地方自治体病院では、同じ自治体の消防本部で更新により不要になった旧型の高規格救急車を廃車にせず、整備し転属させ、自治体病院の2B型救急車として再利用するケースがある。
- 「送り搬送」や「迎え搬送」、「三角搬送」、「下り(くだり)搬送」などは、医療機関の救急車に特徴的な搬送方式である。緊急を要しない転院搬送の場合は、基本的に赤色灯やサイレンが装備されていない「患者搬送車」での搬送となるが、下り搬送などの場合は、医療機関の救急車がサイレンを消して患者を搬送することもある。
- 医療機関の一般的な救急車の場合、利用する者は基本的に当院に入院中の患者か外来受診中の患者に限られる。従って、救急車に乗せる前の段階で医師による診察、検査、応急処置を院内である程度行うことが出来るため、搬送に耐えられる程度まで患者の状態が安定しているケースを主として想定している。生命に危険が生じているなどの重篤患者の場合は、消防の高規格救急車を呼ぶか、ドクターカーを所有している三次医療機関に搬送(迎え搬送)を依頼する場合もある。
- 医療機関の救急車は、施設の職員が運転[44]を務めて医師や看護師は携わらないが、医師一人で待機するドクターカーで医師が運転する事例もある。救急車の運転に「普通運転免許」以外の資格は不要である。
- 大規模災害時、武力攻撃事態、テロ発生などの有事に医療機関の救急車が搬送に協力する場合があるが、国民保護法や災害対策基本法に基づきあらかじめ指定された一部の指定医療機関、災害拠点病院の救急車が大半である。
- 車内に消火器を積載しているが、救急車内で高濃度の医療用酸素ガスを取り扱うためである。
空港の救急自動車(感染症患者専用緊急搬送車)
空港の救急車は、海外から我が国に入ってくる感染症(伝染病)患者からの病原体拡散や2次感染の拡大を防止するため、患者を収容・緊急搬送することを第一の目的としている。空港内で感染症以外の負傷者などが発生した場合は、普通に地元消防や、空港に併設された消防署の分駐署の救急車が搬送する。
- 危険性の高い感染症患者や疑い例は、空港検疫所などから事前に感染症法が定める厚労大臣指定の「特定感染症指定医療機関」、都道府県知事指定の「第1種 または 第2種感染症指定医療機関」、のいずれかの指定医療機関に受け入れ要請(ホットライン)ののちに、緊急搬送される[45]。
- 成田空港の場合、厚生労働省成田空港検疫所が担当する、感染症患者専用の救急車は、空港地下駐車場に停めてある。 検疫所内では空港併設の消防の救急車と混同するのを防ぐため、空港の救急車を「感染症患者専用 緊急搬送車」と呼び分けている。
- 空港の救急車は、2次感染防止策として3つの特徴を有する[46]。
- 車内隔壁の後方側(患者収容部側)の面は、ビニールカバーの付いたスチール棚が設置してあり、棚の中には ストレッチャーの上に敷く防護シーツや消毒剤、ポリ袋、予備の手袋・・・など最小限の消耗品などが入っている。
- 空港の救急車内では、搬送中の2次感染事故や病原体の汚染拡大を防ぐため、応急手当も含め車内での医療行為は一切行わない事、となっている。
- 空港の救急車や、保健所の患者搬送車によっては、「アイソレーター」という、ストレッチャーの上に寝た患者をカプセル型のカバーで覆う隔離器具[48]や、空気中のウイルスなどの病原体に対して殺菌効果があるとされる、オゾンの発生装置、紫外線殺菌灯などを搭載している車もある。
- 患者収容部は搬送により病原体で汚染されることを最初から前提としている。このため、使用後の病原体の除染を容易かつ迅速に実施するため、車内は患者モニタや酸素ボンベ、防振機能付きの架台は最初から装備されていない。
- 空港の救急車や保健所の患者搬送車を所有していない中・小規模の地方自治体で感染症患者が発生した場合は「アイソレーター」[49]を使用し搬送するか、保健所などの患者搬送車を所有する自治体や病院からの応援を待って対応することになる。
- 空港の救急車に搭載されている主な医療用資器材
- 車内での医療行為は、職員等への2次感染の危険性を増大させるため一切行わない事となっているため、搭載している医療資器材は、ストレッチャーをはじめ、感染防御用具やアイソレーターなどの隔離器具、車内の空中を浮遊・飛散する病原体に効果があると言われるオゾン発生器や紫外線殺菌灯、希釈した塩素系消毒剤などが中心となっている。
車両
国産高規格救急自動車一覧
現行モデル
- トヨタ・ハイメディック(HIMEDIC、1992年 - )
- トヨタ自動車製。トヨタ・ハイエースをベースに架装。
- 日産・パラメディック(PARAMEDIC、1992年 - )
- 日産自動車製。日産・キャラバンをベースに架装。
- 札幌ボデー・トライハート(Tri-Heart、1992年 - )
- 札幌ボデー工業製。三菱ふそう・キャンター、いすゞ・エルフをベースに架装。
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札幌ボデー工業製
トライハート
(東京消防庁)
生産終了モデル
- いすゞ・スーパーメディック(SUPERMEDIC、1995年 - 2002年)
- いすゞ自動車製。いすゞ・エルフベース。
- 救急車で初めてエアサスペンションを設定し、傾斜した坂道にも対応した防振架台を装備していた。初代はエルフをベースとしていたが、2代目は商用車の相互OEM関係のある日産自動車より日産・パラメディックが供給され、いすゞ・スーパーメディックとして販売されていた。2002年(平成14年)に製造終了。2008年(平成20年)8月9日に横浜市金沢区の車両架装会社・シエナ・テクノ・クラフツが新型の開発を発表したが、発売前に倒産してしまったため詳細は不明。
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スーパーメディック2WD
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スーパーメディック2WD
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スーパーメディック4WDカットモデル
- いすゞ・スーパーメディックⅡ(SUPERMEDICⅡ、1998年 - 製造終了年不明)
- いすゞ自動車製。いすゞ・ファーゴベース。
- 日産パラメディックⅡの供給で販売された。横浜市消防局、静岡市消防局等全国に10数台のみ配備となった。
- 三菱ふそう・ディアメディック(DIAMEDIC、1997年 - 2002年)
- 三菱自動車工業(現・三菱ふそうトラック・バス)製。三菱ふそう・キャンターベース。
- 1997年(平成9年)7月7日に発売された。ボディサイズが小型で最小回転半径が4.9mというのが特徴である。前期後期の2種が存在。2002年(平成14年)のキャンターフルモデルチェンジに伴い製造終了。
- 三菱ふそう・オプティマ(OPTIMA、製造時期不明)
- 架装は帝国繊維。三菱ふそう・キャンターがベース。
- ワイドキャブと標準キャブの2ボディで構成され、前期・中期・後期の3種が存在。西日本で多く導入されていた。
- 20080105 広島 広島市東 温品 救急.JPG
後期型オプティマ
この他に日野自動車の中型トラック日野・レンジャーベースの高規格救急車が北海道網走郡大空町東藻琴にある網走地区消防組合東藻琴分署と千葉県の市川市消防局に導入されていた。
外国産高規格救急自動車一覧
- 救急救命士が車内で迅速に救命処置ができ、医療器具などを無理なく搭載できる「高規格救急車」を1991年(平成3年)年に規格化することになったが、
- 当時、日本の自動車メーカー製高規格救急車は開発途中で未販売だった為、外国製をベースにした車両を政令指定都市に先行導入した。
フォード・モーター製
- フォード・スーパーデューティーF-250救急自動車
- 架装はジェイカブ・インダストリーズ。
- 高規格救急車が導入される以前、オーストラリア仕様が東京消防庁や川崎市消防局などに導入された記録がある。この車両はディーラーの近鉄モータースがオーストラリア仕様を輸入したため、右ハンドル仕様だった[50]。
- フォード・EシリーズE-350高規格救急自動車
- 架装はウィールドコーチ (WHEELEDCOACH) 。
- 高規格救急車の導入に合わせ、東京消防庁、京都市消防局、名古屋市消防局など大都市圏に配備された。大都市以外は大垣地区消防組合がある。数台が民間の病院や患者搬送サービス業者等にも納入された。
メルセデス・ベンツ製
- 307D型救急自動車
- 架装はクリスチャン・ミーセンまたはビンツ 。
- 1987年(昭和62年)頃に東京消防庁と横浜市消防局、名古屋市消防局に従来の2B型救急車として配備された。
- 当時の自治省消防庁が、後に施行される救急救命士法の検討段階で、従来のキャブオーバー型救急車に代わる新しいタイプの救急車の検討・比較材料として輸入車ディーラーであるウエスタン自動車[51]を通じ東京消防庁に2台試験的に導入、運用させた。横浜市消防局にウエスタン自動車が寄贈した。
- 車両が大きく資器材の収容能力等が高かった為、車内で行う処置を拡大した場合のシミュレーションや、搬送時患者に与える振動を軽減する防振機能付架台などのテストを実施し新しいタイプの救急車の検討・比較材料として多くのデータを得ることができた。この事から後の国産高規格救急車規格の基礎とも言える車両だが、エンジン出力は不足していた後継車両の310D型(約100馬力)に比して約70馬力と小さく、動力性能が明らかに国産車より劣っていた為、実際は予備車的扱いであまり現場では運用されていなかった。
- 310D型高規格救急自動車
- 架装はクリスチャン・ミーセンまたはビンツ 。
- 救急救命士法施行に伴い全国に初めて配備された高規格救急車。メルセデス・ベンツ社製で、前述の307D型の後継車両である。
- 車両のサイズや車内の広さなどバランスがとれ、現在の国産高規格救急車の手本にもなった。また、ベンツの救急車として当時雑誌やテレビ等で紹介され話題になった。
- この車両は1991年(平成3年)より導入され、1995年(平成7年)まで政令指定都市やその周辺都市の自治体に導入された。自治体以外にも病院のドクターカーとしても導入されていた。
- 当時メルセデス・ベンツの商用車両を販売していた三菱ふそう系列のSTBが、ドイツでミーセン社によってぎ装されたモデルを輸入後、
- 同じく三菱自動車系列の三菱自動車テクノサービスで日本の仕様に追加ぎ装したものを「メルセデス・ベンツ救急車」として販売していた。
- 国内の310D救急車のほとんどはミーセン社のぎ装によるものだが、帝国繊維もビンツ社でぎ装された車両を輸入し、帝国繊維鹿沼工場で日本仕様に追加ぎ装し、「テイセン F-5型」として販売していた。
中型・大型トラックベースなど
東京消防庁に配備されている京成自動車工業の「特殊救急車:スーパーアンビュランス」に代表される救急車のことである。このほかにも日本赤十字社岡山県支部は多目的救急車(仕様は日野・レンジャー)を、熊本県支部は片側だけが拡張するタイプ(仕様はいすゞ・ギガ)で4床の集中治療室と同等の機能を有した「特殊医療救護車両:ディザスターレスキュー」を保有している[52]。“救急車”ではなく、現場救護所や移動医務・処置室として使用する。2015年度に京都市消防局がそれまで運用していた札幌ボデー・トライハートの大型救急車を更新する形でいすゞ・ギガベースの東京消防庁のスーパーアンビュランスと同型の車両「高度救急救護車:ハイパーアンビュランス」を導入し2015年6月より運用を開始した[53]。
東京消防庁の特殊救急自動車
- 特殊救急車 スーパーアンビュランス
- ボディを左右に拡張することが可能であり大規模災害や多数傷病者が発生した災害時に8床のベッドを有する救護所として活躍する車両を保有している[54]。
- 1台目
- 1994年(平成6年)10月、三菱ふそう・ザ・グレートをベースにしたモデルが千代田区丸の内消防署に配備される。
- 1996年(平成8年)12月、東京消防庁第二消防方面本部消防救助機動部隊(通称ハイパーレスキュー)(大田区)発足のため、同隊に配置転換となる。
- 2004年(平成16年)、第二消防方面本部消防救助機動部隊のスーパーアンビュランス更新に伴い東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊(立川市)に配置転換となる。
- 2006年(平成18年)、引退。この間、地下鉄サリン事件、営団日比谷線脱線衝突事故、歌舞伎町ビル火災等に出動した。
- 2台目
- 2004年(平成16年)、三菱ふそう・スーパーグレートをベースにしたモデルが第二消防方面本部消防救助機動部隊に配備される。1台目に比べ、患者室のドアやドアステップの構造が改善されている。最近では秋葉原通り魔事件等に出動した他にTBS系ドラマオルトロスの犬やDr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜の劇中にも登場した。2007年より始まった東京マラソンでは毎年、ゴール地点の東京駅前(2016年までは東京ビッグサイト)で待機していた。
- 2018年(平成30年)、引退。
- 3台目
- 2006年(平成18年)、いすゞ・ギガをベースにしたモデルが第八消防方面本部消防救助機動部隊に配備される。渋谷温泉施設爆発事故等で出動している。
- 4台目
- 2018年(平成30年)、2台目の更新車両で第二消防方面本部消防救助機動部隊に配備。
いすゞ・ギガをベースにしたモデルで、東京国際消防防災展2018、東京消防庁展示エリアにて一般に公開。キャブ上部の赤色灯が消防車で近年トレンドのルーフ内蔵型の赤色灯に変更された。 - 感染症対応 特殊救急車
- NBC災害対応部隊である東京消防庁第三消防方面本部消防救助機動部隊(渋谷区)に配備されている。日産・シビリアンベースの大型救急自動車にエボラ出血熱やMERSウイルスなどの一類・二類感染症患者や体格が大きい外国人・力士等、約450Kgまで対応できる電動油圧昇降式ストレッチャーを搭載した特殊救急車で、運転席と患者室は隔壁と気密性ドアにより完全に遮断する事ができる。感染症患者搬送時は感染症患者用陰圧カプセル型ストレッチャー『アイソレーター』を使用。物理的に密閉されたカプセル内の感染症患者に対して搬送中の追加処置や治療はほぼ不可能である。
- 感染症対応 特殊救急車Ⅲ型
- 札幌ボデー・トライハートをベースにエボラ出血熱やMERSウイルスなどの一類・二類感染症患者や体格が大きい外国人等に対応させた高規格救急車で2016年に2台導入された。そのうち1台が新規創設された救急機動部隊に配備されている。患者室全体が車外へのウイルス拡散を防ぐ陰圧構造で、運転席と患者室は隔壁と気密性ドアにより完全に遮断する事が可能。エボラ出血熱やMERSウイルスなどを不活性化するオゾンガス発生装置を装備している。前述の感染症対応特殊救急車と違い、Ⅲ型は患者室全体の陰圧(カプセル型ストレッチャー『アイソレーター』内部と同じ)が可能で、搬送中の感染症患者に追加処置や治療を行う事ができる。
- スーパーアンビュランス以前の特殊救急車
- 大田区矢口消防署は、かつて矢口特殊救急隊が配置され、スーパーアンビュランスの前身である特殊救急車が配備されていた。この車両は現場救護所として活躍する車両で、酸素吸入器を備え救急資機材等を運ぶ車両でもあった。
- 1974年(昭和49年)初代型となるいすゞライトバスをベースにしたモデルが大田区矢口消防署に配備される。
- 1989年(平成元年)引退、この間にホテルニュージャパン火災等に出動した。2代目となるいすゞ・ジャーニーQベースにしたモデルが配備される。
- 1996年(平成8年)12月、東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊(立川市)発足のため、同隊に配転となる。
- 2004年(平成16年)第二消防方面本部消防救助機動部隊のスーパーアンビュランス更新に伴い、初代スーパーアンビュランスが東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊(立川市)に配転になり同時に引退。この間地下鉄サリン事件等に出場した。
消救車等
消救車(しょうきゅうしゃ、正式名称:消防救急自動車)は、消防車の出動頻度に比べて、よく駆り出される救急車の運用効率化を図り、消火と救急の両方の機能を持つ車を配備することを目指して作られた車である。2台買うよりは若干安いが、両方の機能を持つ車両は法令上も想定外だったこともあり、効率的に運用できるかどうかはこれからの課題である。配備されている消防機関はまだ少なく、2004年(平成16年)12月にモリタが開発・製造した日野・デュトロベースの車両が、千葉県松戸市消防局六実消防署に第1号として導入された。2007年(平成19年)4月に京都市消防局北消防署中川消防出張所に全国第2号として消救車が導入されたが、消防車部分は京都市消防局特注モデルのため小型動力ポンプしか搭載していない。救急車部分でも防振ベッドや生体情報モニターなどを備えるが、高規格救急車と比べると設備は劣るため、救急車としては準高規格救急車と同レベルであるといえる。2008年(平成20年)4月に青森県むつ市大畑町の大畑消防団本部付分団に全国3号目の消救車が配備された。同分団の消防団がポンプ車として使い救急車としては、同分団に隣接する下北地域広域行政事務組合消防本部大畑消防署が運用する。2015年度に福井県の嶺北消防組合にも配備された。患者収容スペースを活かした指揮車仕様のタイプが2007年(平成19年)4月現在福岡市消防局、北九州市消防局に配備されている。
他に通常の消防車を用いるケースとして、救急出場時に救急現場に近い消防署・出張所から消防車を同時に出場させ、救命処置や救急隊の活動支援等に当たらせる、いわゆる「PA連携」[55]と呼ばれる出場がある。一時、愛媛県と高知県の公安委員会が「消防車の本務は消防活動でありPA連携は目的外使用。道交法違反の疑い」などと指摘[56]したことを受け、2011年12月28日に警察庁交通局交通企画課からPA連携について「消防自動車が緊急走行により救急現場に向かうことが許されると解される」と各都道府県警察本部などに通知。同日、総務省消防庁からも同内容が都道府県に通知[57]され、現在では全国で問題なくPA連携が行える。
車内での救命処置
人工呼吸、心臓マッサージなどの他に、現在では救急救命士の免許取得後一定の講習を修了した「気管挿管(きかんそうかん)認定救急救命士」によって、気管挿管で呼吸の確保が行える、自動体外式除細動器(AED)の発達により電気的除細動を医師の指示なしに行うことも可能になっている。2006年(平成18年)4月からはやはり講習修了済みの「薬剤投与認定救急救命士」によって、アドレナリンの投与が可能になった。
要員
多くの場合、救急隊長、機関員(運転手)、救急隊員(救急救命士資格者の場合もある)の3名で構成され、午前9時から翌日午前9時までの24時間勤務である。従って、1台の救急車を維持するために3交代とする必要上3個隊9名が必要であり[58]、救急の専属でなく、消防隊(ポンプ・梯子)・救助隊との兼任で隊員資格を取得させ要員を確保している救急隊もある。
運用状況
消防庁によると近年救急車の出場回数は増え続け、2007年(平成19年)は529万件である[59]。要請の過半数が入院加療を必要としない軽症であり[59]、「虫歯が痛む」「深爪した」「病院まで歩くのが苦痛」などの、救急車を出動させる必要のない不適切な要件でいわゆるタクシーのような利用を含む軽症事案を事実上拒否できないことが大きな要因とされる。そのために本当に救急車が必要な症状のケガ人や病人を搬送するための救急車が足りない、サイレンが騒音公害になる(詳細は後述)など多くの問題が発生している。消防庁は救急車出動の有料化を検討し、国民の間では40%が有料化に賛成、50%が反対している[60][61]。一定の条件の下で民間の患者搬送車に緊急自動車認定をおろすことも検討されている。自治体によっては使用の基準の広報活動や緊急性の薄い患者は民間患者搬送車への紹介等を行っている。悪質な患者と判断できるケースの場合偽計業務妨害罪が成立することもあり過料他罰則を設定する自治体もある。
サイレンの騒音公害としての側面
救急車の出動回数が増えているのは前述の通りで、本来非常時にのみ運用されるべきはずであった緊急走行が現在では慢性的に行われ、サイレンが市民生活に与える影響もそれに伴い増大している。サイレンが人々に負担を与えるものであることが住民意識調査により示されている[62]。救急車がうるさいという事象は、歌謡曲の歌詞にもなるなど[63]、現代社会の歪みの象徴の一つとして定着している。一方、消防庁の見解によると、出動増加は利用者側に責任があるとし、サイレン騒音が市民生活に弊害をもたらしている事実については具体性に欠けるとして認めておらず、消防庁側は責任がなく新たに騒音対策を検討する予定はないとしている。そのため、騒音を巡る住民とのトラブルも増加し、2014年8月21日に川崎市で搬送中の救急車に自転車が投げつけられるなど深刻な事件に至るケースも少なくない。(救急車のサイレンを含む騒音問題一般については騒音を参照)。
ギャラリー
- 大阪市消防局 救急車.jpg
大阪市消防局恵比寿救急隊
- Kuki-ambulance.jpg
久喜地区消防組合の救急車
- Kamagaya-Ambulance.JPG
鎌ケ谷市消防本部の救急車
- Amb22 circulate.jpg
熊本循環器病院の救急車
- Saitamakennanseibu-himedic.jpg
埼玉県南西部消防の救急車
- Kumamoto City Fire Services Bureau Ambulance.JPG
熊本市消防局の救急車
- Tatebayashi-Ambulance.jpg
館林地区消防組合の救急車
- Ichikawa-Ambulance.JPG
市川市消防局の救急車
- Yoshikawa-ambulance.jpg
吉川松伏消防組合の救急車
- Sagamihara-Ambulance.JPG
相模原市消防局の救急車
- Tikugo HP.jpg
筑後市立病院の救急車
- StepWGN amb.jpg
九州記念病院の救急車
脚注
- ↑ 救急業務実施基準(昭和39年3月3日自消甲教発第6号)(最終改正 平成26年10月31日消防救第186号)総務省消防庁
- ↑ 公安委員会に届け出をして正式な『緊急自動車』として認定されていれば公道で救急車として病院まで『緊急走行』を行うことができる。
- ↑ 東京市(現在の東京都)は大正関東地震(関東大震災)にみまわれ、特に下町が大打撃を受けていた。この影響で1928年(昭和3年)から1932年(昭和7年)の近隣町村編入までの間、大阪市が人口規模で東京市を抜いていたため大阪市が日本における最初の救急自動車配備都市となった。
- ↑ 現在の横浜市消防局中消防署山下町出張所
- ↑ 現在の名古屋市消防局中消防署
- ↑ 現在の東京消防庁
- ↑ 名古屋消防史、P.238
- ↑ 昭和23年に施行された消防組織法は消防が救急業務を行う法的根拠が曖昧な状態だった為。
- ↑ 9.0 9.1 「救急自動車に備えるサイレンについて(照会)(昭和45年3月17日消防防第187号)」消防庁
- ↑ 「救急自動車に備えるサイレンの音色の変更について(昭和45年6月10日消防防第337号)」消防庁
- ↑ 非営利法人ではJA共済連、日本損害保険協会、日本自動車工業会、日本宝くじ協会など。営利法人では安田生命(現明治安田生命)や山之内製薬(現アステラス製薬)などが有名である。
- ↑ 日本では、赤十字マークは赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律に基づき、日本赤十字社とその許可を受けた者(“軍隊”。自衛隊所属車両)のみに許されるマークである。
- ↑ 一般市民仕様のAEDを救急隊装備として使用するケースもある。
- ↑ 静岡県熱海市消防本部や、福井県の鯖江・丹生消防組合など。
- ↑ 三重県亀山市消防本部
- ↑ 赤帯がない理由として、「あかん(駄目・助からない)」に繋がり、縁起が良くないと忌まれていたが、認識性の向上を目的に2004年(平成16年)から配備された高規格救急車のリアのテールゲートのハンドル付近に赤帯が入った。
- ↑ “AMBULANCE”を左右反転させ鏡文字にしている。
- ↑ 「緊急自動車に備えるサイレンについて(昭和45年3月24日自車第323号)」運輸省
- ↑ yelpとは「犬などがキャンキャン甲高くほえる」の意味で「ピュウピュウ」や「ファンファン」などに聞こえる早いテンポで甲高く吹鳴するサイレンである。
- ↑ サイレンの適正な運用について(平成19年3月13日消防消第36号)総務省消防庁
- ↑ ストレッチャーを乗せた防振架台に1名、後部横向きシートに担架を固定して乗せる1名の合計2名
- ↑ (平成22年4月1日消防救第73号)総務省消防庁
- ↑ (平成18年4月1日消防消第49号 最終改正 平成30年4月1日消防消第69号)総務省消防庁
- ↑ ドクターカーなど一部を除く。
- ↑ 1トン半救急車などを除く。
- ↑ 陸上自衛隊では駐屯地内で発生した傷病者を医務室へ搬送する時や駐屯地から自衛隊病院や民間病院へ搬送する時に使用するため2B型救急自動車を配備している。
- ↑ 例、平塚市消防本部のNV350・キャラバン ディーゼルエンジン仕様救急車
- ↑ 2B型救急車又は商用ワンボックスカーに高規格救急車と同等の設備と高度救命処置用資器材などを設置・積載した車両。
- ↑ 福山地区消防組合消防局や総社市消防本部など
- ↑ 北海道の一部の地方自治体など
- ↑ 平塚市消防本部のNV350・キャラバン ディーゼルエンジン仕様、災害対応特殊救急自動車
- ↑ 2B型救急車より車内が広いため、管轄する地域が広域の自治体(北海道・東北地方や九州地方など)では負傷者が複数発生している現場にも(他の地域から応援を呼んでも現場到着までかなりの時間がかかる為)一隊で複数人同時搬送できる車両として配備されていた。
- ↑ 平常時は人員輸送車として使用されている場合もある。
- ↑ 成田国際空港や、泉州南消防組合(関西国際空港直近)、糸魚川市消防本部等。
- ↑ 軽救急車 - 高千穂町役場消防防災課
- ↑ 三島村巡回診療 - 鹿児島県地域医学研究会
- ↑ 「救急車:軽自動車改造、道路狭い2島で活躍」 毎日新聞2011年8月3日付
- ↑ 「小型ドクターカー・軽救急車」 国際ホスピタルショー2012
- ↑ 「軽救急車」 安心をのせて、走れ -被災地で活躍する軽救急車(動画)
- ↑ 「軽救急車:狭い道幅もOK 南国市、県内初導入へ/高知」 毎日新聞2012年9月20日付
- ↑ 「県内初の軽救急車 南国で導入」 読売新聞2012年12月23日付
- ↑ “山頂まで登れる特殊な小型救急車、高尾山向けに導入”. 朝日新聞. (2017年4月19日) . 2017閲覧.
- ↑ 「SUPECIAL FEATURE 013 4300人の命は預かる!」航空自衛隊入間基地
- ↑ 事務職員以外では用務員が運転していたり、運転業務自体をタクシー会社など外部に委託している病院もある。
- ↑ NHKニュース 2014年10月28日 【動画】
- ↑ 感染症の患者の移送について 厚生労働省保健医療局
- ↑ 国立国際医療研究センター 「エボラ出血熱対応防護服 着用訓練」 【動画】
- ↑ 産経新聞 「大阪市でエボラ出血熱対策訓練」 【動画】
- ↑ 帝国繊維株式会社 「防災製品案内」
- ↑ 外務省がODA物資として海外に輸出しようと購入したが、納入先が右ハンドル車が使用不可の地域だったため、止むを得ず納入を取りやめ、余剰分を国内に割り当てたとする説もある。
- ↑ のちにヤナセに吸収された。
- ↑ 特殊医療救護車両 熊本赤十字病院
- ↑ 新消防指令センター及び高度救急救護車の本格運用開始!(京都市消防局HP)
- ↑ 特殊救急車(東京消防庁HP)
- ↑ Pump(ポンプ車) and Ambulance(救急車)の意
- ↑ PA連携:ポンプ車の救命出動 一部公安委が「待った」 毎日新聞2011年10月31日
- ↑ 消防救第349号(平成23年12月28日)総務省消防庁
- ↑ 本部により1分署に2個隊6名の場合もあり、このような分署では隔日2交代勤務となる。
- ↑ 59.0 59.1 「平成20年版救急・救助の現状」 消防庁
- ↑ 「消防・救急に関する世論調査」 内閣府、2003年(平成15年)8月
- ↑ 国政モニター お答えします・救急車の有料化について
- ↑ 「救急車の警告音に関する住民の意識調査」 社団法人日本音響学会
- ↑ 石崎ひゅーい - 夜間飛行
関連項目
- 日本の消防
- 消防庁
- 消防本部
- 緊急消防援助隊
- 救急医療
- 災害医療
- 救急救命士
- 救急隊
- 特種用途自動車
- 日本の消防車
- 緊急自動車
- ドクターカー
- 救急車 (陸上自衛隊駐屯地用) - 車体色やナンバープレート以外一般の救急車とほぼ同じ
- 1トン半救急車 - 野戦用
- 野外手術車 - 後方支援連隊 衛生科 野外手術システム車
外部リンク
- その他の特種用途自動車|製造車両紹介(京成自動車工業株式会社)- スーパーアンビュランスについての解説。